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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介
一人前

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第五十一話 果て、そして守護者との邂逅

「……。」

 首都レガンに到着して、官邸から一番近いホテルに宿を取って三日、作戦結構の日を待つ、その間、私は私として認識をされてはいけない、つまり、普段は使っていない、使ってしまったら逆に私だとばれかねない「星の力による存在の不証明」という力を発動し続ける事になる、この力を発動し続けている限り、私は誰かに認識されることがない、目撃をされたとしても「リリエル・アステリア・コースト」という存在を認識できない、そう言った力だ。

 私を私として認識させない、暗殺者としてはうってつけな能力、そして、私にとっては生命線で、私にとってはこの作戦を決行するのには大前提必要な能力、それが無かったら、私はこの依頼を受けていなかっただろう、師匠程度の実力があれば話は変わってきたのかもしれない、師匠程の暗殺の腕前があれば、存在の不証明という力を行使しなくても、作戦を決行できるのかもしれないけれど、私は違う、まだその高みへは到達していない、師匠が様々な立場の人間と強いパイプを持っていて、そして買収しやすい人間を選定する能力が高く、それをこなすだけの財力を持っている、という話なら私もそれをせずにできたのかもしれないけれど、けれど私にそんな強いパイプはなければ、買収するだけの財力があるわけでもない、何より、私は独りで事を成した方が気が楽だ。

「……。」

 官邸の外が見える、今日は雪がやんでいるから、官邸の外がよく見える、大統領府、その姿を見るのは初めてだった、大理石調の石材で作られた大きな建物、確か、戦時中には爆撃には合わなかったという話だった、そこを爆撃してしまったが最期、どちらかの国が亡ぶまで戦争は止まらなくなってしまうだろうから、と爆撃を逃れた建物、それが大統領が現在職務をこなしている官邸だ。

 個々には監視カメラがない、都合の悪い監視装置、というのが存在しない、ただその代わり、警備の人数が多い、私は必要以外の殺しはしない主義、必要最低限の人間以外、を殺すつもりはない、それは私の暗殺者としての矜持、向かってくるものには容赦はしない、ただ、第三者まで巻き込む事はしない、それは、いらない憎しみを生むだけ、それは、私にとっても都合が悪いから、しないと決めていた。

 事実、私は暗殺依頼を受けた際、それ以外の人間を殺した事はない、依頼以外で殺人をしない、それが私の中での美徳や美学なのか、と問われると違うと答えるだろうけれど、しかし、それをしてしまったら、戦時中に無差別攻撃をした人間と同じ事をする、という話になってくる、私はそれを拒否している、人殺しの暗殺者が何を言っているのか、と問われれば、それはそうなのだけれど、しかし、それをしたくないという意思が、私の中にはまだ残っていた。

 だから、私は必要以外の殺しをしない、暗殺だったとしても、それ以外の事だったとしても、必要に駆られない限り、依頼を受けない限り、殺しをしないと決めていた。

 それは誰かに言われた事ではない、私の心の中で決めている事、師匠が依頼達成の為になら何人だって殺すのと違って、私はターゲット以外を殺さない、それが私の中での決まりごとなのだから。


「……。」

 何時間か経った、そろそろ作戦の結構時間が近づいている。

 官邸から公邸に移動するタイミング、一瞬だけ警備の穴を突ける、というMの言葉に従って、私はホテルを出て、官邸のすぐそばまで移動する、現在天気は吹雪、視界不良な関係上、私が目撃される可能性は限りなく低い、その程度には吹雪が酷い。

 加えて、私には存在の不証明という力がある、これを持っていないと、今回の作戦は結構できなかっただろう、M達情報屋がこの事を知っているのか?と問われた場合、知らないだろうと答えるだろうけれど、それを前提に動くか動かないか、によって立ち回りが変わってくる、それは確かだ。

 吹雪の中を潜って、存在の不証明を発動したまま、付近の監視カメラの位置を把握して、そこに映ってしまわない様に、慎重に迅速に行動をする、私の情報が正しければ、後三十分後、わずか三秒の隙が現れるはずだ、そのすきを外したが最期、次の隙はいつ訪れるかはわからない、だから、この隙を逃すわけにはいかない。

 官邸から公邸までの車での移動、その為に一瞬だけ大統領が屋外に出てくる、その一瞬を、私は狙わなければならない、失敗して警戒度でも上げられようものなら、私の腕前ではどう足搔いてもそれは不可能になるだろう、それ位の事はわかっていた、だから、この隙を逃さない、この隙を、刹那のチャンスを、私は逃すわけにはいかない。


「……。」

 普段より入念に、アコニートに気を練る、毒の配合を、即死するだけの毒に切り替える、普段ならある程度の毒で済ませている所を、所謂、南の国の方にある「熱帯雨林」と呼ばれる地域にある、と言われている毒性を持つ爬虫類生物である「毒蛇」の持っている毒の数十倍、数百倍、即死に至るだけ、掠っただけで即死するだけの毒を、刃に練り込む。

「……。」

 大統領が出てくる、車に乗るまで、その距離五メートル。

 刹那、刹那の一瞬、私は星の力を最大限まで開放して、その殆どを身体能力の向上へと用いる。

「……。」

 一瞬、瞬きと瞬きの合間に、私は動いた。

「大統領!」

 大統領が倒れるのを目視して、私はその場から消える、身体能力を極限まで引き上げて、跳躍をしてその場を脱した。

「大統領!誰が!警備を!」

 大統領府の屋根の上に移動した私を目視した者はいない、私を認識できる者はいない、大統領が即死したのを確認して、私はその場を去ろう、と考えた。

「……。誰かしら。」

「おや、俺の気配に気づくとは、流石だね。」

「……。どうして私の事を認識しているの?」

「それは君という存在の不証明を発動しているから、かな?それとも、君自身という、リリエル・アステリア・コーストという存在を認知しているから、かな?」

 誰かに見られている、と認識した、そんなはずはないのに、こんな場所にいる私を認識出来る存在がいるはずがないのに、確かに私は「認識されている」と感じた。

 気配の方向を見る、そこには、隻腕だろうか、右の袖がふらふらと風に揺られていて、片腕しかないであろう事が伺える、青年が立っていた。

「貴方は誰?」

「俺かい?俺はディン、ディン・レイラ・アストレフ。この世界群、年輪の世界の守護者。ま、ここに居たら、貴女まで見つかってしまうから、取り合えず場所を変えようか。」

 青年は、飄々とした様子で私を見ていた、と思ったら、視界が歪んで、そこは私が潜伏をしていたホテルの一室だった。

「……、どういう事……?」

「おや、転移魔法って言うのには触れた事が無かったか。今のは同時転移、って言って、複数の対象を別の場所に転移させる魔法だよ。」

「魔法……?貴方は何者……?まさか、魔法使いだなんて馬鹿げたことを……。」

「今しがた説明しただろう?俺は守護者、世界群を守護する為に生まれて来た者。魔法使いじゃない、貴女に用事がある守護者だ。」

「……。」

 アコニートを構える、私はこの存在を知らない、世界群という単語、守護者という肩書、ならば、私を殺しに来たのかもしれない。

「そう構えないでくれ。用事があって、であって貴女を殺しに来たわけじゃない。」

「……。その用事は?」

「貴女に、とある世界を守る為の手伝いをして欲しい。ひいては、それはこの世界群、この世界を守護する形にもなる。」

「……。それをして、私に何か得があるというのかしら?」

 構えた刀は下げるわけにはいかない、この存在、ディンと名乗った青年、存在の不証明を発動していたにもかかわらず、私の存在を認知している存在、あるいは、それは……。

「貴女が復讐を遂げたいと願っている神、その情報提供。」

「……、何処でそれを……。」

「人間の思考を読む事って言うのは、俺にとっては当たり前だからね。貴女は読みづらい類って言うべきかな、心を閉ざすすべを持っているから、心を読むのに一苦労したけれど、逆説的に言えば、それだけの事を出来る存在っていうのは、必然的に限られてくるからね。貴女が運命を狂わされた元凶、貴女の言葉を借りて、神と称したその存在、その定めを俺は知ってる、その宿業、俺と奴との関係値、そしてそれに含まれた貴女や、他に俺が声をかけている存在達の関係値。それらを統合した時に、声をかけて協力体制になった方が、俺としてもやりやすいと思ってね。」

「私の、運命を狂わせた神……。」

「ただ、情報提供は交換条件だ。とある世界が、その神によって干渉を受けている、その干渉をもって、世界群の破滅を目論んでる、って言う話だ。俺はそれに対するカウンダー、とでも言えば良いのかな、貴女達的に言えば、敵対組織の存在だ、とでも言えば良いだろうかね。敵対するもの同士として、同盟関係を築きたい、それが、俺が今この世界にやってきて、貴女に接触した目的だよ。」

 世界群という言葉を、私は聞いた事がない、転移という魔法、守護者という存在、それらは、この青年が何か「私と同じ特別な存在」である事の証左に成り得るだろうか、ならば、その青年が出す情報にも、乗る価値はあるのだろうか。

「世界群、とはどういう意味合いなのかしら?世界と言うのであれば、別の星という事かしら?」

「どちらかと言うと、パラレルワールドという言い方が近いかな。パラレルワールドとは少し違う形状だけれど、この世界群はそもそもが一つだった、一万年前に俺の先代がそれを数千の世界に分けた、それ以降、この世界はこう呼ばれてきた、年輪の世界と。その世界群全体にかかわる神、それがリリエルさんの運命に手出しをしてきた存在の正体だ。それ以上の事は今は言えない、ただ、それは確かな事実だよ。」

「パラレルワールド……?その神は、いったい何を目論んでいるの?私一人の運命を狂わせたとしても、意味がないでしょう?それこそ、私がその世界群とやらを破壊する方向性にでも持っていきたかったのかしら?」

「どうだろうな、敵も狡猾だ、腹の内を見せる程馬鹿じゃない。ただ、その神に運命を狂わされた存在、は明確にいる、俺自身がそうだった様に、そして俺の関係者がそうだった様に、それは確実に存在する。ただ、俺もそのことを知ったのは最近の話でね。敵を知らずに世界を守ってきた、なんて馬鹿げた話だよ、まったく。……。ただ、貴女が欲しがっている情報、復讐を果たすべき神の話、を知りたいのであれば、協力してくれると助かるかな。」

 この青年は、一切嘘をついていない、そう判断できるだけの能力は持っているつもりだ。

 この青年は、本当のことを話している、本当に、私が復讐を遂げるべき神の情報を持っている、それだけが事実だ。

 いるかどうかも分からなかった情報提供者、存在すらあやふやだった、誰も知り得なかった神の情報を持っている、ならば、私の答えは決まっている。

「……。それで、交換条件は?」

「とある世界の守護の手伝い、だよ。貴女は知らないだけで、世界を超える術を持っている、星の力のチャンネルの合わせ方次第、って言う事だな。俺の言葉が信じられないのなら、一回か二回か、世界を渡るだけの力を発動してみると良いな。それが、俺の言葉が真実である証左にもなる、と俺は思ってるから。それが真実だと知ったら、俺に協力してほしい、それが交換条件だ。」

「世界を、渡る力……?」

「文字通りの力だよ、結界によって別たれているこの世界群、俺達以外の種族が超えられないはずのその結界を、貴女は超える術を持っている、って言う事だな。試しに発動してご覧?世界を渡る為の力、って言うのを考えて発動すれば、己ずと俺の言葉の証明にもなる。」

 言われて、世界を渡るという事を想像してみる、この青年が嘘をついていないのであれば、私にはその世界群とやらを行き来するだけの力がある、という事になるのだろう。

「……。」

 確かに、世界を渡ると感じ取った瞬間、それが出来ると感じた、世界が幾千にも分かれている、とまではわからなかったけれど、確かに「この世界ではないどこかに通じるパス」を持っている事は認識した。

「……。貴方について行けば、私は復讐を遂げられる、その情報を頂くという認識で良いのかしら。」

「それで良いよ、今はね。ただ、復讐を遂げるだけの力があるのか、については、自分自身で気づかないといけない事だ、神殺しなんて、おいそれと人間が成して良い事ではないからね。それが星の力という特異体質の持ち主であったとしても、それは変わらない。」

「……。もう一つだけ、良いかしら。」

「なんだ?」

「なら、この力の根源は何?私以外の人間が、星の力なんて行使ししている様を見た事はない。なら、この力の根源は?」

「それは目下の所調査中だ。俺も知らない事が多い、敵と戦うにしても情報不足でね。やれやれ、まったくもって危うい事をしてた、って俺自身呆れてるよ。まあ、そこに関してはまた今度でも良いだろうさ。貴女にとって大切な事は一つ、神の所在の情報だろう?俺はそれを持っている、ただし、それをタダで寄こすほどお人よしでもなければ、タダで寄こしておいそれと人が死んでいくのを眺める程、人でなしでもない。だから、貴女には協力をして欲しい、そう言う事だよ。」

 この青年、ディンと名乗ったこの青年は一切嘘をついていない、嘘をついていたらわ狩る、声音、声の震え、目線の動き、それらで嘘か本当かは判断できる、それ以前に、この青年は嘘をついていない、と何処か確信めいた何かがあった。

「……。その世界へは、どうやって向かえば良いのかしら?」

「俺の気配を辿ってくれれば楽だけど、そのタイミング的にはまだもう少し先でね。座標を送るから、それが送られてきたら、その世界に飛んでくれればいいよ。」

「……。情報は確実なのよね?もしも私を欺こうと考えているのなら……。」

「それだけはないと断言するよ。俺は決して、貴女達に嘘はつかない。勿論、掟として言えない事はあるけどな。」

 それだけを言うと、青年は消えた。

 消えた、文字通り、気配が云々ではなく、この世界から消えた。

「私の、復讐するべき神……。」

 いるかどうかすらわからなかった、情報提供者、ここを逃したら、私は生涯その神に復讐を遂げられない、そう感じた。

 だから、ではないけれど、乗ってみよう、乗ってやろう。

 世界を守るだなんて事に興味はない、ただ、私は私の目的を遂行する為に、私の復讐を遂げる為に、その話に乗ってやろう。


「……。ここともお別れ、あのかしらね。」

 あれから三日が経った、検問を抜けられずに、レガンに滞在していた私は、ディンという青年から座標を送られた、と感じた。

 感じた、と言うべきか、送られてきたと直感したというべきか、とにかく、それを実行する日がやってきた、という話だ。

 世界を渡る術、それを持っている理由、それを与えられた理由、運命を狂わされた理由、その元凶たる神。

 それにけじめをつけるまで、この世界には戻ってこないのだろう。

 もし、けじめをつけられたとしたら。

 私は、どうするのだろうか。

 それはわからない、私には、未来なんて言うものは見えない。

 ただ、今は彼に従うのが賢明だろう、それだけは理解していた。

 そして、世界を渡る、世界は、年輪の様に折り重なっていた、そのすべてが別の世界だと認識した、私はその中で、中央へと向かっていった。

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