彼女の目に映るゾンビの笑顔。
私はこの街が嫌いだ、人間は多く、いつも楽しそうに笑い、涙だけを私達に押し付ける。私達のいる所には悲しみと怒りと不満と寂しさと・・・
そんな物だけを置いていく。
もう直ぐ太陽が空を照らす、ああ嫌な光り。あの光りが空に上がらないならと、
何度夜空の星に願う?っただろう。
ずっと・ずぅぅっと前に、私の体が今の半分ぐらいの大きさのころ、その時の記憶も憶えて無いくらいの前に私は仲間に連れられて来たらしい。
それから、虫を食べ、草を食べ、鼠を食べ、死体を食べて生きて来た。
グール・屍食鬼と言うらしい。
まだ若い私は腕力も無く、人間の死体は骨とか指先しか食べられない。
他のグールが食べてしまうからだ。
だからお腹を空かせたグールは街の端にある、この場所で人間が扉を開けるのを待っている。人間を襲うためでは無い、扉の向こう、鼠や虫が多くいる水場に行く為だ。
人間を襲うのは恐い、彼等は強く、彼等は多い。
見付かれば犬を放たれ、寝床を奪われ、他のグール共々殺されるだろう。
少し前に、この街の端に住むグールが半分ほどになった。
飢えたグールが人間を襲ったせいだ、キズ付いて逃げ延びた人間が街の人間を呼んだのだ。そして太陽の上がっている内に犬に追われ、何人ものグールが槍で突かれ、斧で切られ、矢で討たれて死んだ。
(長老は数が減って、食い扶持が増えたと喜んでいたけれど)
かなりの数が死に、街の人間が満足したのか、それとも別の理由か、とにかく私達は生き残った。
それでも若く弱い私は、食べ物を求めてここにいる。
(・・人間・・早くいけ、日が昇り切る前に、早くいけ)
日が昇る前に水場に入り、日が昇り切る前に戻る。そうしないと水場にとりのこされて帰って来る人間に見付かってしまう。
? 最初に感じたのは匂いだ、水に混じったお腹を刺激する匂い。
次ぎに音、ソレはワイワイと笑い・騒ぐ音。
人間の子供が騒ぐ不快な音では無い、馬車の鳴らすひずめと車輪の音でも無い。
楽しそうで、嬉しそうで、手を伸ばしたくなるような。
ソレは体を水で洗い、飛び跳ねるように街の中へ歩いて行った。
私はそれが本能なのか、それとも飢えていたからか、ソレ達の後をついて行く。
「良し!教会、後は金と・・復活しても憶えていたら何か奢りますよ」
「パーティか?そんなら、肉のいいとこを骨付きで頼むわ」
コッカドゥルドゥ!
「では、頼みますよ神父様、せめて蘇生魔法[ザ〇ラル]くらいはお願いしますよ」 希望は復活魔法[ザ〇リク]もしくは、[レ〇ズ]お金は出しますから頼みますよ。
ホントに。
・・・ソレが箱に入って、犬?とニワトリが立ち去った。私は本能に従い棺[ひつぎ]を開け、素早くソレを掴んで隠し場所に運んだ。
グール達が街中に持つ、秘密の隠れ家。半分減ったお陰で私だけが使っている、小さな隠し場所。ヨダレが出る、こんな大きな死体を食べるのは始めてだ。
・・・こんな楽しそうに笑う死体は始めてだ、悲しみ・恐怖・苦痛の味しか知らない。
グールは死体を食べると、その死体の死ぬ間際の記憶を見る事が出来る。裏切り・絶望・離別の悲しみ・死の恐怖・苦痛・自分が死ぬ驚き。
(でも、コレは違う。多分違う、なんて不思議な感じがする)
痺れるような香、指先が興奮して震え、体の中がうるさい。
ハァハァハァ・・「戴きます」口を大きく開け、先ず一番美味しいと言う頭をガブッ
「なに!?・・何が起こった!?頭が重い!って言うかダレです、頭にくっついている?何がどうなった!?」
飛び起きたソレは声を上げ、私を振り回す。私の歯は頭に刺さり、私の手はソレの顔を押さえましたが、ソレは激しく抵抗し、腹を殴られてウェッてなって剥がされた。
「・・なんで生きてるの?」匂いは死体、目も体も死体、全体的に死体。
それが生きている。私を引き剥がし、手を足で拘束し首を腕で締めているソレに聞く。
「・・生き返った・・のとは違いますね、ここはどこですか?あなたはダレで、今はいつです?」
「・・・『質問に質問で返すな』と小学校で習わなかったの?」
「私の返答は、多分自分が致命的な事になりそうなので控えます。
で、こちらからの質問の答えですが?」
「・・ここは私の隠れ家、私は・・グール、今はもう朝日が昇っているくらい」
そう言うと頭の後で動く感覚、多分周囲を見ているのだろう。
ウゥングッ!首が締まり、息が詰まる、グイグイと締まり続ける首に意識が飛んだ。
それでも、ほとんど恐怖は無かった。暗い穴底で他のグールや人間に怯え、お腹を減らし飢えて振るえるような暗い意識の底に落ちるような恐怖は・・・
(そう言えば・・私はお腹が空いていたんだ・・鼠・・食べておけばよかったな・・)
屍食鬼は死体を、人間の死体を食べる鬼である。生きた死体・ゾンビは彼女の食料となり得るのだろうか。




