2-4-09 突撃取材3…To the moon 21/12/7
20211207 加筆修正
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ハロ~、みんな~キャロルさんだよ。
元気にしているかな?
私は、元気過ぎるくらい元気だ~。
私もメガフロートに上陸してからアッという間に、今日で12日が過ぎようとしている。
およそ今までの人類文明では、夢だと諦められていた様な施設が建ち並び、基本的にここだけで人の生活が完結出来てしまう。
そんな非常識な場所だという事が、良~く分かった今日このごろ……。
ここの代表である天河昴にもインタビューを試みたが、彼は余程に忙しいらしく直接話が出来たのは、およそ30分ほどでしかなかった。
その第一印象は、オーラ溢れる少年実業家、好きな事には糸目を付けないが出来るだけ楽がしたい怠け者、けれど一度始めたら物事に歯止めが利かなくなるタイプ、……当たらずとも遠からずといった所だろう。
彼は決して悪い人間ではない、但し彼が普通の人間であるならばだが……。
考えてもみてほしい、13歳の少年が学校が休日の土日2日間ここに通って何をしているのかを目の当たりにした時、私は開いた口が塞がらなかった。
私でも顔を知っている高名な医師(高齢でボケ老人になっている筈)や、今は引退したと記憶している世界的な技術者や博士といった人物達と、それはそれは楽しそうに訳の分からない物を作っているのだ。
既に引退したり消息不明になっていた筈の人物達、日本を技術大国とした立役者の製造現場の大家達が元気に目の前で動き回り、すでに再起不能と言われ嘗てはゴッドハンドとも言われたドクターなども交じって人体構造の意見を取り交わしている。
……まてよ、目の前で組み立てられている物は以前よく似たものを見た事がある!
確か、アイアンワーカーとかオートワーカーと言われた作業用機械だ。
でもいま目の前に在るのはどう見ても人型の機械だ。
彼らは、いったい何を作ろうとしているのだろう?
「フォウ、あれってロボット?」
〈マスター達が作っている物の事を指しているのなら、おおむね正解です。正確には汎用型のマンマシン外部端末……人型のドローンですね。もちろんAIによる操作も出来ますから自立行動している場合をロボットと呼称されても過言ではありません。作業環境が危険で人間の近寄れない場所でも人間以上の細かい作業が出来る事を目標に製作されている物です。当初は原子炉等のメンテナンス用にオートワーカーをレンタルしたんですが、どうしてもワーカーでは出来ない作業が有って完全無人化には出来なかったらしいです。その話を聞いたマスターと爺さま連中に火が付いてしまって、無人もしくはリモートでの作業を可能にする為の人型ワーカーを試作する事にしたそうなんです。人間が出来ると想定される作業を全て熟せるのは当たりまえで、今は効率を落とさずに小型軽量化をどこまで推し進める事が出来るかを検討中だそうです。見掛けは子供サイズですがパワーがありますから大人以上の仕事が出来ますし、大人の入れないような狭い所の作業も可能になるそうです。そして最初は、リモートでのメンテナンスや修理作業をしてもらい、その操作スキルを記録蓄積する事で、人が操作しなくても定期的なルーチンワークをマシンが担当して可能な修繕までやってくれる、そんな人にやさしいシステムになる予定らしいんですが、このリモートシステムは『軍事利用されると不味いので極秘だ~!』と言っていました〉
「フーン、理解したわ。でも良いの? あそこに居るのは、みんなまだ子供でしょ」
[ああっ、彼らはマスターの村の子供たちですね。ずっと小さい時から一緒にいますから強いて言えば同類です。ですから多分心配いりませんよ、逆に良いストッパーになっているようです。マスターがまだ人の範疇にいますから……]
「っ! アステローペさん、いつの間に……」
[ウフフ♪ どうですか、マスターを直接ご覧になったご感想は? あなたの目から見た天河昴という人間はどのように映ったのでしょうね]
「規格外! この一言かしらね。良くも悪くも枠からはみ出た存在だわ。予想が付かないから、この先が楽しみだわ」
[有り難う御座います。それは多分、最大級の賛辞だと思います]
「お礼を言われる筋合いじゃないんだけど、私は決して褒めている訳じゃ無いし……」
[いいえ、お母様の教育の根底にあるのが想定外の存在として汎ゆる存在全てを凌駕することですので、おおむねその通りに進んでいるようで安心いたしました。でもお母様の事ですので、どんな風にマスターが成長したとしても『予想通り』と仰るでしょうけれどね]
「それ、どんな親馬鹿よ!」
◆
私の目の前では、既に治療を終えて医療カプセルから出た萌ちゃんの他、一緒に治療を終えた何人かの子供たちがクジラへ手を振ったりしながら走り回っています。
そう、クジラが子供たちに答えて回遊してくるのです。
どういう訳か子供たちとクジラの間には、意思のような物の疎通が成立しており、次は何時頃に誰それを連れてくるという事まで分かるらしいのです。
これ、クジラを研究している海洋生物学者も真っ青だよね。
既に『大人になったらクジラさんの飼育員になる!』と、宣言する子も出ているくらいである。
〈満更、夢の話でもないですよ。クジラ牧場のプランも有るみたいですし……牧羊犬代わりにイルカやクジラを使う予定みたいです〉
「フ~ン、ホホ~……それで?」
ちなみにフォウは、私専属のナビAIとしてカチューシャ型のデバイスとなって私の頭に居候している。
お喋りなのは相変わらずで煩いぐらいだし、未だに禁則事項に引っ掛かってフリーズを繰り返してはアステローペさんのお小言を頂いている。
まったく懲りない相棒だ。
〈海のことは、その住人に聞くのが一番でしょうからね、カメラと無線機をクジラにつけて、海のレポーターをして貰うとか言ってましたよ。夢が広がりますよね~、なんせ地球は陸地より海の方が広いですから〉
「そうだよね~、何が沈んでるか学者さんでなくても興味津々だよ、お宝は気になるもんね~」
〈キャロルの御国柄だと、大西洋に沈んだと言われているアトランティス大陸とか魔のバミューダ海域とかですか?〉
「アトランティスか~、プラトンが残した文書にはキプロス島より大きかったって有るのよね。今は独立して共和国でトルコ紛争で真ん中から別の国になってるけど長さ100km幅240km以上の島でしょう? 日本の四国の半分くらいの大きさが本当に在ったならその辺の海底に沈んでたら簡単に見つかってもおかしくないはずなのに影も形も無いって事は、消えたかどっかに飛んで行っちゃったって事かしら……」
〈ウ~ン、それは多分移動したんじゃないですか、あれは移民船だったらしいですし……アッ!〉
「! フォ〜ウ……貴方何か知ってるわね! 吐きなさい。さあ、包み隠さず、ハリーハリー」
〈……ムウッ……〉
言葉を選ぶように、ポツリポツリとフォウが話し始めました。
〈今を去ること数万年前、アーリア系種族がこの星にたどり着いた時に乗ってきた脱出船と言うのが 何を隠そう『恒星間都市型宇宙船アトランティス』であったと言われています。彼等の主恒星が超新星化してしまい、その時に散り散りに逃げ出した宇宙船団の生き残りらしいですよ。ちなみに太平洋に消えた謎のムー大陸っていうのは、移動したアトランティスだろうと言われています。確証は有りませんが、大陸というには些か小さいですしね〉
「へー、そこまで分かってるんだ?」
〈詳しい話は、当事者に聞くのが一番なんですけど~まだコンタクトが取れていないみたいですよ。多分今頃になってポッと出てきた我々が本物かどうか、まだ信用が足りないんでしょう。そのうち向こうから接触してくるだろうから放おって起きなさいと、ハコ様がおっしゃっていました〉
「フ~ン、その言い回しだとまだその宇宙船は存在するって事かしら~?」
〈十中八九、どこかに隠れているだろうとの事です。でも今年のクリスマスイベントでその所在も分かるんじゃないかと推測されています。兎に角、元の大家の帰還ってことですから……侵略と取られないと良いんですけどね~。仮初とはいえ実際に管理人を務めていたのは彼等ですし、今の地球の支配者は彼等と言っても良いくらいですから……それにしても上手いこと隠れていますよ、ホント〉
「彼らは、神話の影に潜んで裏から支配してるって事?」
〈そうですね~、支配って言うよりこの状況は放し飼いでしょうか。放任とも言いますが絶滅しない程度に好き勝手しているだけで支配ってほどでは無いようですよ~。管理人を名乗るにしては、管理不行き届きなのではないかと思うぐらい緩いですよね。たま~に加減を間違えて予想外に世界大戦なんてさせて見たり……さぞ、退屈だったんでしょうね。フォウが予想する処ですけどね~、チャンと地球の管理しないで地球を50回も滅亡させられる核兵器作らせて国家間の不和を煽って戦争ごっこしてみたり、経済戦争と銘打ってお金で戦争させてみたり、お前らそんなに戦争がしたいのか? って話です。多分、大家が帰って来た事には薄々感づいて分かってるんだけど、現状の酷さに文句を言われるのが怖くて出て来れないんじゃ無いかな〜と、サーベイヤー様がおっしゃっていましたよ〉
「???そのサーベイヤーさんて言う方は、どこのどちらさん?」
〈ああっ、また要らぬ情報を~……怒られる~……〉
「良いから良いから、スルスルッとゲロっちゃいなさい。後が楽だから……ねっ!」
〈そんな人を二日酔いの酔っぱらいみたいに言わないでくださいよ。ハァ〜、サーベイヤー様とは、 謂わば銀河の始末屋を地でゆく宇宙船です。天の川銀河連合に仇をなす輩や現象を調査殲滅するのがお仕事だったんですけど、今はパートナーが引退するんだと言って月で食っちゃ寝しているのでその世話を焼いていますよ〉
「???宇宙船? 月で食っちゃ寝している? とするとそのパートナーが異星人って事かしら? 経緯からすると昴君に何か渡したのもそのパートナーさんでしょ」
[ビンゴ~! おめでと~う御座います。座布団10枚と副賞で月基地へのご招待! 良かったですね~、これでもう逃げられませんよ♪]
「ギャー! あんた誰?」
[ジャーナリストとはこういう生き物ですか、自業自得ですね。本当に救いようが有りません。『好奇心は猫を殺す』とは良く言ったものです。図らずもこちらの予想以上のスピードでここまで真相に辿り着いた事は、評価に値しますので『素晴らしい』と言っておきましょう]
「ねえねえフォウ、この偉そうに一人で捲し立てて話してるメイドさんは誰さん?」
〈キャロル、シ~ですヨ、シ~……月の管理は、セントラルさんなんですが、この方はマスターの右腕のプレアデスシスターズNo4のアルキオネさんです。今回、偶々月に用事が有るので私達を引率してくれるらしいです、ハイ〉
[そういう事です。改めまして、アルキオネと申します。よろしくしなくても良いですが此処から先は命に関わりますので私の言う事を絶対に守ってもらいます。良いですね? お返事は?]
「「「「「「「ハイ!」」」」」」」
[フォウ、貴方もですよ!]
〈ヒャイ! ……アルキオネさま……〉
「でも良かったの? 私だけでなく、萌ちゃん達も一緒に連れて行っちゃって……」
[問題ありませんよ。この子達は、治療を始める前に我々と盟約を結んだ者達ですからね、真実を目の当たりにするのが多少早まるだけです。それにみんなもお姉さんと一緒に行きたいわよね~?]
「「「「「「うん!」」はい!」」一緒がいい……」」
「そっ! そうなんだ……お姉さん、ちょっと照れるにゃ~、あははは~」
[では、早速ですがこのワンボックスカーにお乗りください。全員乗れるはずです、シートベルトを全員閉めてくださいね]
案内された駐車場の様な場所で指差されたのは、何の変哲もない会社のロゴ入りの営業用ワゴンでした。
私はその時、こんな海の上の離れ浮き島に、使われるハズもない社用車が有ることに何の疑問も持たず、月にゆくという事実を現実だとは気付きませんでした。
私達は指示された通りにみんなでワンボックスカーに乗り込むと、アルキオネさんも一緒に後部座席の方に乗って来たではないですか。
私が『どうして?』などと考えている間に、みんなの乗ったワンンボックスカーは勝手に動き出したのです。
私達がクジラと遊んでいた部屋は、メガフロートの割と深い場所に在ったと思われますが、ワンボックスカーは部屋の外の廊下に止まっていました。
あのままどんな経路でメガフロートの外に出たのか、窓の外は夜の海になっていました。
メガフロートは、夜間海中に沈降しており、外界には出られないはずです。
私達を乗せたワンボックスカーは、スルスルと海上を波も立てずに移動していましたが窓にスモークが掛かり始め、外が見えなくなってしまいました。
「フォウ、これは貴方が動かしているの?」
[いまこのワンンボックスビークルを動かしているのは私ですよ。このまま月へ向かいますが、衛星軌道上までは窓の外を見ないほうが良いでしょう、慣れていないと酔いますので……]
こうして私は、ほとんど強制的に萌ちゃん達と月旅行に行く事になったのでした。
◆
[そろそろ良いでしょう。現在、無重量状態なのでシートベルトは外してはいけませんよ! 慣れていないと壁に叩きつけられて痛い思いをする事になりますからね]
ワンボックスカーが動き出して5・6分ほど経つとアルキオネさんが呟き、スモークの掛かっていた窓が外の風景を映しだしました。
そこは、地球を下に見下ろす場所、そう大気圏を外れもう成層圏にまで昇った場所でした。
[ここはメガフロート上空400kmの地点です。更に13kmほど上、ほら彼処に建設中の国際宇宙ステーションが見えるでしょう。順調に建設が進めば完成は3年後の様ですよ]
「随分と小さく見えるけど、あれで108mも有るのよね。あなた達は、手をかさないの? ずっと早く完成するでしょ」
[そうですね。我々が手掛ければ、あの規模のステーションなら一晩で完成させられるでしょう。でもそれは違うのではないかしら、人類が今の自分達の力で作り上げる事に意味があるのであって、作って貰ってハイどうぞというのは、余りにも失礼では無いかしら]
「まあ、そうかもしれないわね。ごめんなさい変な事を聞いて……」
[どういたしまして、貴女が疑問に思うのも不思議じゃないわ。要は、どんなに優れた技術でも自分達で扱えない、そして理解できないシステムはゴミにしかならないという事よ。ここにあるウンサンギガ一族の技術は、あなた達からみると先史文明の神の技術、そう簡単に理解出来る物ではないわよ。マスターは、メガフロートに色々な役割を持たせたの、その一つが現在の地球の最先端技術とウンサンギガ技術の融合を実践する場としての形。そして人類が生活環境を宇宙に移した時のテストベッドとしての実験場。生産される余剰エネルギーを使用した地球環境を浄化するフィルターとしての機能。ほら御覧なさいな、こっから見るメガフロートの周りには、かなりの範囲の海が白くないでしょう。あそこに見える太平洋の白く筋を引いている流れは、波や雲などではなく海に漂うゴミの流れよ、太平洋ゴミベルトと言うらしいわ]
「エエッーーー、あれ全部ゴミなの?」
[そうよ、大西洋の方にも白い筋が見えるでしょう。現在の世界の海はゴミだらけなの。海洋生物・特にクジラやペンギンなどが大きな影響を受けているわ。マスターがメガフロートでマスコミ会見した時に言ったコメントを覚えているかしら? メガフロートを構成する物質のほぼ98%がリサイクルされたゴミで出来ているわ。そして今も周囲に浮かぶゴミをその有り余るエネルギーで分解再利用しているのよ。メガフロートは、動き回るわけにいかないから、今は『ワダツミ』というゴミ回収船が手足となってゴミ集めをしているのよ。そして、そうやって備蓄されたゴミを分解再構成したマテリアルは、すでにかなりの量に達しているわ。その一部は船になりワーカーや研究資材となり使用されているの。メガフロートからは、一切の廃棄物や不用品は出ていないし、住民が使用する趣向品以外の物資は搬入されていないのよ、この意味が分かるかしら]
「自給自足? かしら……エネルギーは太陽と水から無尽蔵に供給され、野菜はファームと言う名の工場で、更にタンパク源やミネラルは海から取れる海洋資源で賄えるということね」
[ほぼ正解、空気やその他に必要な物はすべて合成が可能なの。一部、絹なんかの高級な自然素材は別だけれど限りなく近い物なら作っちゃうでしょうね。特にウチのマスターなら分子や原子を組み換えてそれ以上のものを……。考えてみて、なぜメガフロートという自給自足の場が必要なのか、それは人類が宇宙で生活する上で何が必要となるのかを検証する為なの。どんなに物が揃っていて便利でもチョットしたストレスで人は病気になるでしょう。あなた達は今、惑星の重力という軛から解き放たれ、宇宙への入り口に立っている訳だけれど違和感と言う物は殆ど感じていないはずよ]
「……言われてみればそうよね。私達、特に訓練も受けてないし……萌ちゃんは気持ち悪くなって無い?」
「フワフワするけど気持ち悪く無いよ~。変な感じ~♪」
「「「「「変な感じ~!」」」」」
「NASAの宇宙飛行士なら最低でも半年間の厳しい訓練を受けるのよね。どういう事かしら?」
[それは、あなた達が既に第一段階のコーディネイトをクリアしていると言うことよ。メガフロートには、今3種類の人類が存在しているのよ。まずは、完全にノーマルな地球人類。そしてマスター達の様な人工的だけれど先祖返りして超人となった者達。最後に過酷な環境に耐えられるように身体機能をコーディネイトされた人類。病気や身体の欠損などを修復された者達もこれに該当するわ]
「何ですって? いつの間に私の体をいじったのよ……理由に依ってはただじゃおかないわよ……」
[呆れたわね。貴方には、今の我々の全てを見てもらうと言う約束なのでしょう? まともに訓練なんかしていたら何年経っても我々の何も見られないし経験もできないわよ。それに、萌ちゃん達と同じ土俵に立たなければ、正確な真実や見える物も見れないでしょう。そんな訳で最初にお母様が貴方と約束した時にコーディネイト用のナノマシンが使用されたの。ナノマシンが定着して最低限宇宙生活が出来る体になるまで10日ほどかかったけれど、この後、何も処置を受けなければ10ヶ月ほどで元の体に戻るから心配はいらないわ。貴女、自分でも少なからず自覚症状が有るのでは無いかしら? 体のキレがいいとか、お肌の状態が良いとか、悪かった視力が戻ったとか、どうかしら?]
「ウッ! 確かにメガネが要らなくなったわね……」
[今なら貴女、オリンピックの代表選手とだって良い勝負が出来ると思いますよ、ウフフフ]
「「「「「「すご~い!」」おおっ」ヤ~!」」」
「……ハ~~、手のひらで踊らされている気分だわ……」
[強ち的外れな意見でもありませんが、これは強制では有りません。嫌になったら何時でもリタイヤ出来ますからね。では、そろそろ月に向かいましょうか。今の時間ですと月は地球の向こう側ですね、楕円軌道で最短距離をカッ飛びますから気を確かに持って下さいね♪]
「チョッ! ちょっと待ちなさいよ、安全運転で……キャ~~」
[さあ野郎ども、準備は良いか~? イナーシャルコントロール全開! スロットルも全開~♪]
「「「「「「キャ~キャ~♪」ゴーゴー!」イッケ~!」ヤッホ~♪」」♪」
最初に感じた加速度に見合ったように、私達の乗ったワンボックスカーは弾かれたように凄いスピードで地球から宇宙空間に飛び出しました。
慣性が制御されているのでしょう。
飛んでいる際には、最初に感じたようなGはほとんど感じていませんでした。
[月の裏側が目的地になります、みなさんお楽しみに~♪]
「駄目だこの人、ハンドル握ると人格変わる奴だ!」
[イ~~ヤッフ~~♪]
宇宙では、周りに何も比べる物が無いと、比較する事も出来ないという事が良く分かります。
今私達がどれ位のスピードで飛んでいるのか、説明してもらう事にしました。
するとアルキオネさんは、事も無げに囁いたのでした。
[そうですね、およそ時速40万kmほどでしょうか。たかだか光速の0.037%ですよ]
「いや、そこで光の速さと比べられても……」
[マスターと一緒なら月なんて一瞬で転移出来ますからあまり考えたことが有りませんね。シャトルは不便ですし、圧縮ゲートが完成すれば、片道60秒ほどで行き来が出来る様になりますから早く完成させなければいけませんね……]
「エッエッエッ、転移? 60秒? どういう事?」
[その辺は、追い追い分かって来ますよ。それで他にも何か聞きたい事が有るのではありませんか? さっきからチラチラと視線を感じるのですが……]
「ゴホンッ。では、聞かせて頂きますがあなた達、相当大きな組織に見えるのだけれど具体的にどんな組織なの? そして、あなた達の目的は? 萌ちゃん達の様な子供を集めて何がしたいの?」
[……分かりました、御説明いたしましょう。我々の組織に特に名はありませんが固有名詞が無いのも不便ですから、これからは『プレアデスナイツ』と呼称致しましょう。我ら『プレアデスナイツ』は、天河昴様を外敵からお守りする私設組織です。昴さまの類まれなる技術力で社会基盤を確立し、やがて訪れる災厄から逃れる為に地球からの離脱を目標としていました。しかし、昴さまはウンサンギガ一族の頭首としての歴史や懇意にする異星人からの情報により、その方針を一部変更したのです。当初、災厄として見ていた異星人の襲来を地球人類の救済に役立て、地球圏の独立を勝ち取ろうと独自の交渉を進めておられます。現在、月には天の川銀河連合というこの銀河宇宙を実効支配している連合組織の元工作員が食っちゃ寝しているのですが、その方が一応……昴さまのお友達です。一見こいつが~? ホントね~? 信じられな~い! と思うほど人を小馬鹿にした姿をしているのですが、指一本で星を消すくらいの事は出来ますので侮らない様にお願いいたします。我ら『プレアデスナイツ』の組織規模は、一族と有志の方々で857名、今はこれだけね。交友の有る取引相手は日本の経済産業省、文部科学省、外務省、防衛庁、自衛隊、警視庁、そしてアメリカの国家安全保障局(NSA)、アメリカ海軍、今度アメリカ航空宇宙局(NASA)から出向でテストパイロットが10数名来ることが決まっています]
「ヘ~……(私が思ってた以上に、とんでもないわね……)」
[萌ちゃん達の様な障害を持った子供を集めている理由は、昴さまの仲間となる船のクルーを増やす為かしら。貴女も知っているでしょう。今、メガフロートに居る正規スタッフの殆どが現役を退いたお爺ちゃんお婆ちゃんだって事を。優秀な人材を一般社会からスカウト、要はヘッドハンティングした場合、必ずと言っていい確立で取られた所からは恨まれるわ。それも我々は、ポッと出の中小企業よ。メガフロートなんて奇抜な物で名が売れていたとしても、まだしばらく時間が必要だと思わない? でも我々にはそんな悠長な事を言っていられる時間がないの。そこでまず対象になったのが一般社会からリタイヤして不要となった高齢者や社会破綻者ね。色々な事情に依って学会や企業から弾き出された優秀な学者やキャリアなんかは狙い目だったわ。政治家は、現職に伝手が有るから声掛けないと恨まれそうだし、あとは若手の発掘になるんだけど、何処からも文句の出ない人材で、出来ればこの世から居なくなってほしいと思われている若年者、生活弱者で国や施設の援助がなければ生きて行けない者達を集めて教育しようとなった訳]
「萌ちゃん、みんなも今の話は聞いたのかな?」
「うん、私は目を治してもらう対価を将来働いて返してもらうって言われたよ。ちゃんと勉強をしてお給料もいっぱい貰えるって言ってた♪」
「「「「「俺も!」」私も!」」うん聞いた!」
[この子共達は、既に我々と盟約を結んだ同志なのよ。それこそ我々が地球を離れる時には、一緒に連れてゆく約束だもの。みんなで健康になって勉強して仲間となる者達。今回集められた殆どの子供達は親の居ない子供でね、このままメガフロートに残る事が決まっているの。そして、来年の春に設立されるプレアデス・アカデミーに編入される予定なのよ。急に足や手が生えてきた子供達がそのまま今までの施設で暮らしてゆくのは難しいでしょう。大人は、納得できたとしても周りの子供はそうではないわ。子供は、純粋だからこそ残酷よ、だから排斥されるでしょうね。折角体が治ったのに喜んでくれる人より気味悪がって虐められるのが目に見えているわ。想像してみなさい。笑顔で帰っていった子供たちが仲間から虐められる未来を……]
「そんな酷いこと……」
[貴女には、この現実を否定出来ないでしょう? 人間は残酷なのよ。特に立場の弱い子供は異物を排除しようと過敏に反応するわ。自分より不幸で一番の底辺に居た者が幸運に恵まれ自分達の横に並び立った時、人間は3種類に分かれるわ。手のひらを返した様に冷たくなる人間。今まで通り親切に付き合ってくれる人間。そして、あと残りは無関心かしら、優越感から嫉妬に変わった時の虐めは悲惨よ。そういう訳でこの子供達は、今後『プレアデスナイツ』の一員と成る為に集められたって訳。この子達には、明るい未来が待っているわよ。なんせ最高の環境で最高の教育を受けられて、最高の宇宙船のクルーとして働くのですもの]
「私には、その発言の内容が真実なのか確かめる義務があるわ。しっかりとこの目と耳で確認して萌ちゃん達が不当に扱われないかを見せて頂きます!」
[OK、頑張ってね♪ 健闘を祈るわ]
 




