第八十二話 Sランク
エルシーに輝たちを助けに行くといって約15分、目的地に着いた俺は驚いていた。
死人が出ていないのだ。
フェンシエルに魔力を奪われて、魔力切れを起こし、倒れている人がいるのだが、誰一人死んではいない。
この数の魔物を相手に奇跡と言っていいだろう。
俺は辺りを見渡していると、ある人を見つけた。
魔法騎士団長のダーマリーさんだ。
数人の魔法騎士団の団員と一緒にAランクであろう魔物と戦っている。
俺は魔物を斬り倒しながら、ダーマリーさんのところまで移動した。
そして、Aランクであろう魔物に向けて雷黒斬を放つ。
Aランクであろう魔物は、一瞬にして真っ二つになった。
「ダーマリーさん!」
真っ二つになったAランクであろう魔物を見て、何が起きたのかわからないって顔をしているダーマリーさんに声をかける。
「そっソラくん! さっきのは君が!?」
「今のは俺が放った魔法です」
「しかし……雷の魔法なんて聞いたことが……」
そう言いながら、ダーマリーさんは俺が握っているものに目を向ける。
「その剣はまさか聖け……」
「この剣は聖剣アルダートです。それよりも、今の状況を教えてください」
俺は驚いた顔をしたダーマリーさんの言葉を遮った。
「……わかった」
フェンシエルの魔力吸収の被害は大きかった。
倒れたのは魔力量が少ない人だけだったが、現在、4割の人が怪我や魔力切れで動けなくなっている。
戦っているうちに魔力切れを起こしたり、魔力を吸われるという初めての感覚に、調子が悪くなるものが出たようだ。
でも、輝たち勇者の作戦やサポートのおかげで、魔物たちの進行は止まり、未だに死人は出ていない。
ある程度、魔物を減らしたあと、輝たちは何もせずに、じっと様子を見ていたSランクの魔物を倒しに言ったそうだ。
「すみません。俺の方ですが、新魔王軍の幹部を取り逃がしました」
「そうか……。相手は幹部3人だったんだ。よくやった。ソラくん、疲れているだろうが、今の私たちには君の力が必要だ。力を貸してくれ」
「もちろんです。取り敢えず、あのデカブツを倒します」
あのデカブツとは輝たちが戦っているSランクの魔物のことだ。
あれは新魔王軍が乗っていたグロウリードラゴンの親玉だろう。
「アルハルムはグロウリードラゴンから数百年と成長し、進化した魔物だ。ソラくんでも敵わないかもしれない」
俺は人のいない魔物の集団に向かって雷黒斬を何回も放っていった。
「俺なら大丈夫ですよ。この力があれば、アルハルムってやつも倒せるし、そこらにいる魔物なら一掃できますできます。だから、俺がアルハルムを倒すまでに、全員をここから後ろまで下がらせてください」
どっちかと言うと、アルハルムってやつを倒すより、魔物の集団を全て倒す方が難しい。
集団の中に人が混ざっていると、俺の魔法は威力が強すぎて、巻き込んでしまうのだ。
「…………ヤード! ハリス! 今すぐ全班にソラくんが言ったことを伝達していけ」
「しかしそれでは……騎士団の立場が……」
「立場よりも今は人命が優先だ。全責任は私がとる」
「わかりました」
団員の一人が悔しそうに頷いた後、俺たちのやり取りのことを伝えに言った。
「ダーマリさん。あとはよろしくお願いします」
そう言い残し、俺は輝たちの元に向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もう一度いくぞ」
俺がアルハルムの側まで近づいた時、輝の大きな声が声が聞こえてきた。
どうやら、輝たち勇者は二手に分かれているようだ。
アルハルムと戦う者と、その戦いを他の魔物に邪魔されないようにする者。
今のはアルハルムと戦う者にかけた声だろう。
美咲たちが、魔法を放つ準備をし始めた。
そして、魔法を放ち、アルハルムの視線を引きつける。
その間にシャイニングフォースで身体を強化した輝は、アルハルムに向かって走りだした。
輝が斬りかかろうと地面を蹴ったとき、急にアルハルムが翼を羽ばたかせ、空へと飛んだ。
飛んだことに生まれた風圧によって、輝たちが飛ばされ、地面に転がる。
このままでは、輝たちが危ないと思った俺は立ち止まり、アルハルムに雷黒斬を放とうとしたが、やめた。
空中に飛んだアルハルムは俺を見ていたからだ。
俺の放つ魔力に気がついたのだろう。
アルハルムが俺を見て止まっている間に、俺は輝たちの元にたどり着いた。
「そら……おそい」
立ち上がった美咲が俺に近づき言った。
「ごめん。すぐ終わらせようとしたんだけど、フェンシエルって化け物がって! なんで、俺が謝らないといけないんだよ」
「みんな無事?」
「無事だよ。リラはフラフラになってるけど」
今度は輝と彩香が俺のところまで駆け寄ってきた。
「そら……すまん。俺たちじゃ倒せなかった」
「魔物たちの進行が止まってるのも、死人が出てないのも輝たちのおかげだ」
「そら……」
「まぁ、この戦いが終わったら鬼教官としてビシバシ鍛えてやるからな」
「おい!」
「二人とも今の状況わかってるの? いつアルハルムが急降下してくるかわからないんだよ」
俺たちが話している間に、いつの間にかみんな立ち上がっていた。
「久しぶりだな、千代」
俺たちに話しかけてきたのは浅田千代。
日本でクラスメートだったやつだ。
「大丈夫だよ。アルハルムは警戒してるみたいだから。俺が動かない限り、あいつも動かない」
「…………こうやって話すのは久しぶりだね」
「いろいろあったからな」
「ほんと、見ないうちに輝くようになって」
輝が俺の頭の上部分……つまり、おれの髪の毛を見ながら言った。
「ハゲてないから。お前とはさっきまで俺たち会ってたよな……」
「輝、思ったんだけど、お前、白髪増えてないか? 過剰なストレスは身体に毒だぞ」
実際、ただの高校生だった人間が勇者として、この世界からの期待されるのは、凄いプレッシャーだろう。
プラス、輝は勇者のリーダーだ。プレッシャーは人一倍強い。
プレッシャーはストレスにかわり精神的に辛い時があったはずだ。
「ねぇ、奏多くんと輝くん。大丈夫だからってふざけすぎ。彩香と美咲からもなんとか言ってよ」
「ほっとけば良いのよ。今の二人は心の中で褒めあっているだけだから」
彩香の言葉に美咲が頷く。
「そうなんだ……」
「「いやいや、違うから!」」
俺と輝の声が綺麗に重なった。
みんなはニヤニヤとした顔で俺たちを見てくる。
「まぁ、いいや」
輝たちといると、いつも無駄話をしてしまう。
俺の悪い癖だ。
「ちょとあいつ落とすから、みんな気おつけて」
「ちょっ!」
輝が何か言おうとしていたが、俺は気にせずに雷黒斬を空中にいるアルハルムに二撃、放った。
雷黒斬は物凄いスピードでアルハルムに向かっていく。
一撃、二撃目とアルハルムは華麗に避けていった。
が、俺はどんどん雷黒斬を放っていく。
魔力がどんどん減っていくがそんなことは気にしない。
輝たちが見ているんだ、少しぐらいカッコイイとこを見せたい。
雷黒斬が翼に当たるとアルハルムは空中でふらついた。
俺は追撃をかけるように雷黒斬を放つ。
雷黒斬はアルハルムに直撃した。
アルハルムは背を向けながら急降下していき、地面に打つかる。
それから、アルハルムが動くことはなかった。
「そら……お前、この世界に来てから、凄すぎないか!?」
「いや、いまのはやりすぎた」
「ほんとやりすぎ……そして、いいとこ取りすぎ」
「いいとこ取りって……」
よく考えてみると、輝の言うことはあっていたので何も言えなかった。
それに……
「あと一つ残ってる」
残りの魔物を全滅させると言う、最大のいいとこ取りが。




