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一人だけ別の場所に召喚された勇者(仮)  作者: 鳩ゆうら
第4章
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第八十三話


 俺はフカフカなベッドの上で目を覚ました。 

 が、ここがどこかは全くわからない。

 なぜなら俺の知らない場所たからだ。

 俺は身体を起こして立ち上がろうとしたが、何故かは分からないが腕に力が入らず、起き上がることが出来なかった。

 何故だ? と考えようとしても、頭がぼーっとして何も考えることができない。


「そっ! そら!?」


 急に扉が開き、誰かが部屋の中に入って来た。そして、横になっている俺の上体を起こし、力強く俺に抱きついてきた。


「あっ…………ああか……なんで……あいて……」


 『彩香なんで泣いてるんだ』俺はそう言いたかったのだが、喉がカラカラでうまく声が出せない。

 でも、彩香は俺の言いたかったことに気付いたのか、すぐに涙を拭う。


「私は泣いてない。みんな無事だから。ファールスさんたちはあの後、ツバサ学園にきちんと帰ったし。あの場にいた人たちも誰も死んでない。泣く理由がないから……」

「……………」

「でも、本当に心配したんだから。もう目を覚まさなかったらどうしよって。まってて、すぐにみんなを呼んでくるから」


 そう言って彩香は俺から離れ、部屋から出て行った。


(目を覚まさない? どう言うことだ? 確か……俺は……)


 俺はぼーっとしている頭を回転させ、記憶を呼び起こす。

 最後に残っているのは、フェンシエルを倒し、アルハルムも倒した後のことだ。

 俺は魔物の残党に向けて巨大な雷黒斬を放った。

 見事、雷黒斬は魔物を一網打尽にしたが、威力が強すぎて地面まで抉り、みんなに『やりすぎだ』と怒られた時のことまでは覚えている。

 でも、逆に言うと、そこからは何も覚えていない。

 魔力切れを起こして倒れたのだろうが、それだけでそこまで心配するだろうか?


 そんなことを考えていると、彩香を先頭に多くの人が部屋に押し寄せできた。そして、一瞬にしてベッドを囲むように人だかりができる。

 涙する者や安心してて一息ついている者。みんながみんな、俺のことを心配してくれたようだ。

 そんな姿を眺めていると、美咲が俺の目の前までやって来た。

 手にはコップに入った水を持っている。

「そら……良かった。水が飲みたいだろうけどもう少し我慢して」


 俺は『なんで?』と、疑問に思ったが美咲のことだから、何か理由があるのだろうと考え、欲しい気持ちをぐっと我慢して頷いた。


「まずは今のそらの状態から話すわね……」


 深刻そうな顔をしながら彩香は口を開く。


 俺は思った通り雷黒斬を放った後、魔力切れを起こして倒れたそうだ。

 でも、前魔力切れを起こした時と違ったのは、魔力切れの影響により、今日まで約1ヶ月の間、俺は目を覚まさずに眠り続けていたということ。

 確かに1ヶ月も眠っていれば、心配にもなるだろう。

 1ヶ月もの間眠っていた原因は俺の魔力が多すぎることにあった。

 魔力切れを起こしたら、魔力が完全に回復するまで気を失い続ける。身体の中の魔力を集中てきに回復させるためにだ。

 魔力量が多いいほど、気を失う時間は長い。

 俺は誰よりも多くの魔力を持つ。つまり、魔力が完全に回復するまで、普通の人より何十倍以上の時間がかかるのだ。


 うまく起き上がれなかったのも、1ヶ月の間で身体中の筋肉が落ちていたから。



 続けて彩香は言った。『一生、あの力は使わないで』と、

 今の俺は、魔力を全て使ったことにより、魔力量が桁違いに増えていることだろう。

 普通だったら嬉しいことなのだが、さらに魔力の増えた俺が、再び聖剣アルダートの力を使い魔力切れを起こしたら、全快するまで何ヶ月かかるかわからない。

 人は意識不明の状態が長ければ長いほど、目を覚ます確率は低くなる。

 そのまま一生目を覚まさないってこともあるかもしれないのだ。

 つまりそれは事実上、死んだと同然のこと。

 だから彩香は、これからの戦いで聖剣アルダートの力を使うなと言っているのだ。


 彩香の話が止まったところで、美咲は俺に水を飲ませてくれた。一気に喉が潤う。

 

「そら……あと言わなければいけないことが一つある」


 美咲は俺からコップを受け取り言った。

 とても重要なことなのだろう。みんなが俺を見て申し訳なさそうな顔になった。


(ん? ……申し訳なさそう?)


 真剣な顔ではなく、申し訳なさそうな顔。


「そらの秘密がみんなにバレちゃったの。本当にごめんなさい……」


 何故か彩香が俺に頭を下げてきた。

 俺の秘密? 何のことだ?

 女神レーアス様に召喚された勇者であることは既に秘密ではない。

 だから、俺のことを知らない所で勇者だとバレても謝る必要はないのだが……


「そらが勇者ツバサの孫で、聖剣を扱い、フーライラとフェンシエルを倒したことがバレたのよ」


 えっ!? 全部バレてんじゃん……なんで?

 と、俺は言葉に出す代わりに、目で彩香に訴えかける。


「すまん、奏多……全部俺のせいなんだ」


 答えは別の方から返ってきた。声のした方に俺は首を傾ける。そこにはロン毛の勇者? が立っていた。

 

 

「実は奏多が倒れた時……」

「えっと…………誰だ?」


 さっきまで出なかった声が自然と出て来たと思ったら、ロン毛の勇者の言葉を遮ってしまった。


「誰って俺だよ俺……奥田誠だ」

「嘘をつくな、奥田はそんなにフサフサじゃない。あいつは野球バカでハゲてるんだ」

「ハゲてねぇーよ! 坊主だったに決まってるだろ。この年でハゲてたまるかってんだ」


 確かに顔と声色は奥田誠だ。でも、俺の知ってる奥田誠ではない。


「…………」

「なんで無言なんだよ」

「はいはい、二人とも落ち着いて、ちゃんと奥田くんは本物だからカツラでもないよ」

 

 彩香はそう言いながら、奥田の髪を引っ張る。


「痛い! 桜坂やめてくれ」

「それじゃぁ、少し静かにしててね」


 彩香の圧力に、奥田は無言で頷いた。少し見ないうちに彩香が変わってしまったように感じるのは気のせいだろうか?

 なんと言うか……


「奏多と再会してから、桜坂凶暴になってないか?」


 そう、凶暴になっている気がする。どうしてだろうか?


「何か言った?」

「いえ何も……」

「なんでそらが答えるのよ」


 奥田に共感してしまったからです。なんて言えるはずもない。


「そ、それより、言ってしまったことはしょうがないよ。いつかはバレることだし……奥田も気にすんな」


 会長さんたちにかっこよく宣言してから、即バレたけど。

 そもそも、俺がいろいろ秘密にしていた理由は周りの人を巻きこんでしまうからだ。

 巻き込まれた人たちを絶対に守れると言う自信がない。

 それなら、今から自信がつくほど強くなればいい。みんなだって守られるだけの存在ではないのだから。


「でもよ……」

「でもよ……じゃない。この話は終わり。それよりも、これから俺はどうなるんだ?」


 俺が聖剣を扱う勇者だと知られたなら、これから自由に行動できるとはいかないだろう。

 レーアス様に巫女を探すように言われていると言えば、ミストール様にめ協力してもらえそうだが。

 結局、3人目の巫女も誰なのかわかっていない状態だし。


「まずはリハビリ」

「リハビリ?」

「そう」


 確かに美咲の言うとうりだ。今の俺は1ヶ月分の筋力が低下している。走るのもきついだろう。

 そんな俺は足を引っ張るだけの存在になっている。なんの役にも立たない。

 早く筋力を戻したいが、リハビリには最低でも2ヶ月ぐらいはかかるだろう。


「今日を合わせて2日で筋力をもどす」


 今、美咲はなんと言ったのだろうか? 『2日で』と、聞こえたが……流石に冗談だろう。


「でも、まずは食事。準備が終わったら輝が呼びに来ることになっている。もう少し待って」


 俺は美咲に今のは冗談だろ? と尋ねようとしたが、何もなかったかのように話を続ける美咲をみるに、決して冗談ではないのだろう。


(2日じゃ絶対無理だって……)


 嫌な予感しかしない。


 それからともなくして、輝がエルシーを引き連れ部屋に入って来た。

 エルシーは勇者たちの間を通り抜け、俺のところまでやってくると、腕に抱えていた聖剣アルダートとサフィークを俺に手渡す。


「ムシアミはサフィークの中に入れてあるのです」

「ありがとう」

「はい!」


 元気よく返事をするエルシーを見て、自然と俺は笑顔になった。


 俺は聖剣アルダートをサフィークの中にしまった後、ベッドから起き上がろうとするが、一瞬足がふらつき、後ろに倒れそうになった。

 『やばい』と思ったが、身体は思うように動いてくれない。

 痛みを覚悟して俺は目を瞑る。

 が、いくら待っても痛みはやってこなかった。

 俺は恐る恐る目を開ける。そこにはかっこよく俺を支える輝の姿があった。


「まだ、寝ていたほうがいいんじゃないか?」


 と、輝が言ったとほぼ同時に一部の女子がキャアキャアと騒ぎ始める。

 支えられたまま横を見ると、エルシーは顔が真っ赤にし、『見てはいけないものを見たのです』と呟いていて、美咲と彩香はジト目で俺たちを見ていた。


 俺は『大丈夫だ』と言って体制を立て直す。


「おい、輝のせいで変な目で見られているじゃないか、どうしてくれんだよ」

「俺のせいにすんな、そもそも、そらが倒れそうになるから悪いんだろ」

「それは本当にすまん」

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