第八十話
フェンシエルが黒い雷の斬撃に突き飛ばされたが、フェンシエルは大きな身体をくるっと回転させ何もなかったかのように地面に着地をした。
フェンシエルは再び、また俺たちの方に向かってくると思ったが、その場から動かず俺たちの様子を伺っている。
どうやら、先程の黒い雷の斬撃を警戒しているようだ。
「ソラ様! 一体その剣はなんなのですの!?」
会長さんが驚いた口調で俺に尋ねる。
いつの間にかみんなの視線が俺の手に持つ聖剣アルダートに注がれていた。
「リラたちは見たことがあると思うけど、この剣が勇者ツバサが女神レーアス様に送られたと言われている聖剣アルダートです」
俺は会長さんにトピアリーさん。そして、エルシーに向けて言った。
「何故、ソラ様がその剣を……いくらソラ様が勇者だとしても、聖剣アルダートは勇者ツバサ様にしか使えないはずですわ」
「ファルース様の言う通りです。まさか、カナタくんはツバサ様の血族とでもいうんですか?」
「こっちではカナタ・ツバサは700年前の人物なんで『おかしい』って思うと思いますけど、俺はカナタ・ツバサの孫です。フーライラを倒せたのも、この剣の力のおかげです」
トピアリーさんが『あの噂は本当だったんですね』と、呟いた。
「でもソラ? いま剣から黒い雷がでなかった? 私にはフーライラの雷みたいに見えたけど……」
リラが『そんなことできたっけ?』って顔で俺に尋ねてきた。
「聖剣アルダートから黒い雷の斬撃がでたのかは俺にもわからない……でも、あの黒い雷は……威力は違えどフーライラと同じ力だった。魔力をもっと使えばもっと威力の強い雷が出せると思う」
この世界には雷の属性をもつ魔法は存在しない。
あの雷の斬撃は、聖剣アルダートに注ぎ込んだ俺の魔力によって出されたものだが、魔法って言っていいのかはわからない。
魔力や魔法を吸収するフェンシエルに黒い雷の斬撃は効いたのだから。
まぁ、レーアス様に聞けば何かわかるかもしれないが……
「取り敢えず、あの雷のお陰で助かったのは確かだ……。自分勝手で悪いけど、フェンシエルは俺が1人で倒そうと思う」
フェンシエルには魔法が効かない。リラたちは少し武器が扱えるとしても、フェンシエル相手には分が悪すぎる。
「ソラ様! 私たちも一緒に戦いますわ!」
「そうですよ。ソラくんが強いのは私たちも知っています。でも、何か力になれるはずです」
俺は無言で首を横に振った。
「みんなには新魔王軍の部下を安全なところまで運んで欲しい。多分俺はこの戦いで魔力を殆ど使うことになる。だからみんなには、輝たちが戦っている方で力を使っくれると助かる」
俺はみんなからの答えを待たず、聖剣アルダートに多くの魔力を注いだ。
聖剣アルダートが輝き始め、その輝きは俺の全身に伝わっていく。
「やっぱりか……」
俺はフェンシエルの体を覆うように、薄いなにかに覆われているのが見えた。
あれが魔力や魔法を吸収している正体なのだろう。
俺は両手でアルダートを持ち、少しずつ魔力を注ぎながら、フェンシエルに向かって走り出す。
フェンシエルも俺に向かって走ってくる。
と、思ったがフェンシエルは動こうとしない。
なんでだ? と、疑問に思いながらも、俺はフェンシエル向かって走っていく。
その途中でフェンシエルを覆っていた魔力が消え、フェンシエルの周りに魔力が集まり始めた。
俺は嫌な予感がしたので、走るのをやめて一旦、その場に止まる。
魔力が形を作り、紫色の球体がフェンシエルの周りにいくつも現れた。
あれはフェンシエルが作り出した魔法だ。しかも、上級以上の……
「あれは……絶対まずいよな」
フーライラの雷の威力もヤバかったが、あの紫色の球体はそれと同じくらいヤバイ気がする。
絶対に当たってはいけない。
フェンシエルが吠えると紫色の球体が俺の方に飛んできた。
俺は飛んでくる紫色の球体をよく見て避けていく。
避けた紫色の球体が草むらに落ちると、『ジュー』音がし、紫色の球体が落ちた一帯の草むらが紫色に変色していた。
しかも、草むらは枯れている。
「カナタくん! あれは毒の玉です。絶対に触れないでください。少しでも触れれば、一瞬にして毒が身体全身に周り、死に至ります」
後ろからトピアリーさんの声が聞こえた。
「いやいやいや……嘘だろ!?」
これで、安易にフェンシエルに近付けなくなった。
フェンシエルを覆っている吸収する力も再び出てきている。
「それなら!?」
俺は黒い雷の斬撃をイメージして、聖剣アルダートを横に振りかざす。
ビリッ!
すると、聖剣アルダートから先程よりも大きな黒い雷の斬撃が飛び出した。
しかし、フェンシエルは俺の攻撃を難なくかわす。
かわしたということは、やはり、この黒い雷の斬撃は吸収できないようだ。
フェンシエルは吠え、再び毒の玉を作り出し放った。
物凄いスピードで毒玉が俺の方に飛んでくる。
が、今の俺になら毒玉を避けることは造作もない。
一つ、二つ、三つと毒玉を避けながら、フェンシエルに近づいていく。
残り二つというところで、毒玉が俺を素通りした。
(なんで…………っ!?)
俺は気が付いた。俺の後ろには新魔王軍の部下を安全なところまで運ぼうとしているリラたちがいることに。
あの毒玉は俺ではなくリラたちを狙ったもの。
「くそっ!」
俺は振り返り、黒い雷の斬撃を出そうとしたが辞めた。
ここで黒い雷の斬撃を出して毒玉と相殺させることはできるだろうが、下手したらリラたちにあたりかねないからだ。
俺は聖剣アルダートにどんどん魔力を注ぎながら、急いでリラたちの方に向かう。
全身の輝きがますます強くなる。
が、
(まだ……足りない)
俺はありったけの魔力を聖剣アルダートに注いだ。
すると、聖剣アルダートの輝きが最高潮に達したってくらいに輝き始めた。
眩しすぎて目すら開けることができない。
(これじゃぁ…………前が見えない)
力が増しても今は視界が悪ければマイナスにしかならない。
と、思ったら、急に輝きが薄くなり始める。
ただ溢れるばかりに放たれていた輝きが、洗礼され、誰もが美しいと思えるような輝きに変化した。
(これなら! いける!)
俺は毒玉よりも早いスピードで駆け抜け、毒玉よりも余裕でリラたちの前に辿り着いた。
「ソラ!?」
リラが心配そうな顔で俺を見ていた。
リラだけではない。みんなが心配そうに俺を見ている。
「大丈夫。俺に任せろ」
俺は安心させるように声をかけて前を向いた。
そして、毒玉を狙い聖剣アルダートを縦、横と振りかざす。
ビリッ! ビリッ!
二つの黒い雷の斬撃が毒の玉に向かって飛んでいく。
そして、二つの毒の玉に二つの黒い雷の斬撃がぶつかり、その場で爆発した。
俺は続けて黒い雷の斬撃を飛ばしていく。
「エルシー。危険なことだけど一つ頼みたいことがある」
この状態も長くは持たない。早くけりをつける必要がある。
毒の玉や黒い雷の斬撃は技名? をつけるかもしれません。




