第七十五話 城の中で
俺は走っていた。
軽装を着た、エルシー様をお姫様抱っこをしながら。
何故、エルシー様をお姫様抱っこをしているのかと言うと……
軽装に着替え終え、部屋を出てきたエルシー様に、『私は走るのが遅いので、ソラ様のペースに合わせることができないのです。だから、お姫様抱っこで運んで下さいなのです』
と、言われたのだ。
断ることができなかった俺は、エルシー様をお姫様抱っこして、西門前に向かっている。
顔を赤くし、俺をずっと見つめているエルシー様を見て、改めて思った。
戦いに参加するのはまだ早いんじゃないかと……
「あのぉ、エルシー様は今、何歳なんですか?」
「私は12歳なのです」
見た目どうりの年齢だった。
(12歳か……)
「どうして急に私の年を聞いたのです?」
「ただ気になったからですよ」
(やっぱり、安全なところに避難してもらった方が……)
いくら無の巫女だからと言っても、エルシー様はまだ、小さな女の子。しかも、国の王女様だ。
エルシー様は12歳と言っていた。日本だったら中学一年生だ。
そんな女の子を戦わせてもいいのか?
この世界が日本ではないのはわかっている。
それでも……
(俺は勝手だな)
『私は新魔王軍と戦わなければならないのですか?』
と、聞かれた時に『そうです』と言ったのは俺なのだ。
でも、今の俺はエルシー様には戦わず、避難して欲しいと思っている。
人が死ぬ姿を見せたくないのだ。
それは、彩香たち勇者やリラたち巫女に当てはまる。
「エルシー様、やっぱり……って……ミストール様!?」
俺がエルシー様に安全なところに避難して欲しいと、言おうと思ったら、リフホーネの王、ミストール様が護衛を引き連れ現れた。
「止まれ! 貴様、こんな時にエルシーをどこに連れて行くつもりだ! しかも、お姫様抱っこなんてしおって! 私でもしたことがないんだぞ!」
ミストール様の声が城中に響き渡る。
「お父様、うるさいのです」
『うるさい』と、言われたミストール様はしょんぼりとした顔になった。
「私たちは急いでいるので、そこを退いて下さいなのです。あと、お姫様抱っこについては……お父様には関係のないことです」
そう言ってエルシー様は、ミストール様からプィっと顔をそらした。
「私には関係のない……まさか!? 反抗期なのか。いや、待て……反抗期のエルシー……ますます可愛いじゃないか!」
流石、娘を持つ国の王。何を言っているのかさっぱりだ。
護衛の魔法騎士団の後ろから、エルシー様に似た赤い髪の女性が出てきた。
「こんな夫ですみません。貴方が勇者カナタ・ソラ様ですね」
「そうです。えっと……」
「申し遅れました。私はエルシーの母のエリザ・リフホーネと申します。お会いできて光栄です」
エリザ様が頭を下げてきたので、俺も慌てて頭を下げた。
「ソラ様は無の巫女であるエルシーを、戦場に連れて行くのですか?」
エリザ様の言葉にミストール様と護衛の人たちが驚きの声を上げる。
「どう言う事なんだ。エルシーがあの無の巫女!? エリザ! 説明してくれ! そもそも私は……」
「貴方は黙っていて下さい」
「はい、すみません」
エルシー様のことになると、可笑しくなるミストール様を、エリザ様は一言で静かにさせた。
「お母様とお父様は元々いとこ同士だったのです。その時の格差みたいなものが今も続いていてですね。お父様はお母様に逆らえないのです」
俺は苦笑いするしかなかった。
「それで、エルシーを連れて行くのですか?」
「俺は…………」
なんて答えたらいいのだろうか。
今の俺は、エルシー様を戦場に連れて行きたくない。
が、エリザ様がエルシー様のことを無の巫女だと知っているのなら、巫女の使命についても知っているはずだ。
「私は新魔王軍と戦うことが、危ないってことは知っているです。でも、私は戦うのです。私のことはソラ様が守ってくれるので、心配しなくていいのです」
そうだ、俺は約束したんだ。
「俺はエルシー様を連れて行きます。エルシー様は俺が守ります」
俺はエリザ様をまっすぐ見て言った。
エリザ様はニッコリと笑い……
「いいでしょう。ですが、ひとつ条件があります」
「条件ですか?」
「貴方になら簡単な条件です」
多分この人は、俺がカナタ・ツバサとエルシャ・リフホーネの孫だと気づいている。
俺だっら簡単な条件。
(魔物を全滅させろ、なんて言われたらどうしよう……)
無茶振りだけはやめてほしい。
「これからずっとエルシーのことを呼び捨てで、呼んであげて下さい」
(えっ!? それだけ?)




