第三十一話 交流会
俺は重い足取りでステージに上がる。
ステージの上からは、座っている生徒たちが一同に見渡せる。
俺はリラたちの方を見ると、みんな俺を見ていた。と言うより……席に座っている全校生徒が俺の方を見ている。
「先ずは自己紹介からどうぞ」
そう言って男性は、生徒会長がいる所まで下がっていった。
「俺……私の名前は、カナタ・ソラです……えっと……一年Sクラスに所属しています……えっと……」
俺はこんな大勢の前で話すことは初めてだ。それにもかかわらず、シルドさんからの無茶振りで『為になる話』までしなければならない。
(どうしよう……話す内容が何も思い浮かばない……)
俺が何も話さないから、大講堂の中はシーンとなっている。
何か話さないとそう思った俺は……
「先程紹介があったように……私は火属性と水属性の上級魔法を魔法の試験中に使いました。決して、試験会場を燃やしたのはわざとではありません。試験会場を凍らせてしまったのも、その炎を消す為です」
試験中に起きた事は事故だと伝えたくて言ったのだが……俺の言葉により会場がざわめきだした。
「あの噂は、本当だったのか!?」「ハプニングの原因って……」「あれは夢じゃなかったのか……」
(あれ? なんか……間違えた?)
席に座っている一年生から三年生の生徒たちが、俺の話をし始めたので、妙に恥ずかしい気分になる。
(そっそうだ! 為になる話しをすれば……)
早く話して席に戻ろう。
「私は魔法だけではなく、武器も扱えるようになった方が良いと思います。上級魔法の効かない魔物と戦う時には特に重要です」
フーライラみたいに上級魔法が効かない魔物が、再び現れるかもしれない。
その時は武器だけで戦うしかないのだ。
「誰かを守るには、必ず力が必要です。この学園では多くのこと学べます。ここで学んだ事を新たな力として生かしていきましょう」
俺が話し終えた後、盛大な拍手が起こった。
俺は顔を赤くしながら元の席に戻る。
「為になる話しも聞けた事ですので、隣の会場に移動を開始したいと思います」
俺たちは生徒会の誘導に従って隣の会場に移動を開始した。
「皆さん飲み物は行き渡りましたか? ……行き渡ったと言う事で、これより交流会を開始したいと思います」
先程司会をしていた男性が、グラスを上に掲げると、それに合わせて生徒たちと先生たちもグラスを上に掲げた。
この世界は日本と同じで、飲酒は二十歳からだ。だから、グラスの中は酒ではなくただのジュースだ。
出遅れた俺は、急いでジュースの入ったグラスを上に掲げる。
「かんぱ〜い」
「「「かんぱ〜い」」」
男性が乾杯と声を掛けると、生徒たちと先生たちが唱和した。
「美味しそうな食べ物がいっぱいあるよ!」
「リラちゃん落ち着いて……」
俺たちの目の前には、多くの豪華な料理が用意されていた。リラが興奮する気持ちもわからなくはないが、
「それにしても、人が多すぎないか……」
「しょうがないじゃない。ミサキは勇者様なんだから」
「それはわかってるけど……あれは……」
俺たちの目の前には、生徒たちが美咲を中心に群がっている。ここからでは、美咲の姿は全く見えないのだ。
それぐらい美咲の周りには、多くの生徒たちが集まっている。
だから今、俺の周りには、リラとペリルそれにカカリの三人だけしかいない。
「多分ですけど……後ろにいる人たちは、ソラ君をずっと見ていますよ」
リラを落ち着かせたカカリが俺の後ろを見ながら言った。
「後ろ?」
俺がゆっくりと後ろに振り返ると、多くの生徒たちが、俺から一斉に目をそらした。
(まじて!?)
俺は前を向いて後ろを向く、何の意味のない行動を繰り返した。
最初と同じように、生徒たちが一斉に目をそらしているが、最初より目をそらす人が増えているのは気のせいだろうか。
「ソラの近くには、カカリが居るから近寄れないのよ」
カカリは王族なので、貴族や普通の生徒は、カカリの前では、迂闊な言動や行動をとる事ができないそうだ。
そう説明があった直ぐに、この学園の生徒会長であり、貴族でもある女性が俺たちの前に現れた。
「カナタ・ソラ、交流会は楽しんで頂けているでしょうか?」
「楽しんでるも何も……今始まったばかりじゃないですか?」
「そっ! そんなこと、私も知っていましたわ」
「……………………」
「そんなことより、私、マリナ・ファルースは、カナタ・ソラに模擬戦を申し込みますわ」
「何で俺が模擬戦を……」
「貴方が本当に上級魔法を使えるのか、この目でしっかりと確かめる為ですわ」
俺たちが話していると、あの男性が急に姿を現した。
「 それでは模擬戦の開始は、こちらにも準備がありますので……3日後に行いましょう。ソラ君、模擬戦は、対人戦ではないので上級魔法をバンバン使っていただいて結構ですので安心してください。マリナさんは、模擬戦のルールを知っていると思いますが、後で、『模擬戦ルール書』を寮まで届けさせて頂きます。ソラ君には拒否権はありませんよ。こんな面白そうなこと……」
こうして俺は、シルドさんの言葉により、するとは一度も言っていない模擬戦をする事になったのだ。




