作戦開始!
日は落ちて夜も更けてくる。
町は小さな明かりがポツポツとついていた。
家の中の光りとは違う他のなにかが光っている。
ザイルさんの村では見かけなかった光りだ。
鑑定か解析を使えば何か分かっただろうが、今から作戦の為、無駄なMPを使いたくはなかった。
僕は二つの袋を肩に提げて町の出口に立っていた。
必要な道具はイケメン商人さんから用意して貰い、格安な値段で購入した。
もし襲われなかった場合に備えて旅に必要な品は、すでに購入しておいた。
買うときに嫌な顔をされた。お金も無くなった。
これから恐らく戦闘になるだろう。勝てるかわからない。
けれど、作戦はある、練習もした。
成功する可能性が上がるように努力した。
出来る事はすべてやった。
だから僕は迷いなく町の外へ一歩踏み出した。
僕は少し歩いて町の光りが届くギリギリまで歩いてから作戦を始めた。
―――視点変更、クライン・ジーニアス
見張り役をしていた人が報告に帰ってきた。
「町から一人出て来やしたぜ?」
「一人か、なら新入りの肩慣らしにちょうどいいだろう、ガイナス!お前の隊だけでやってみろ!」
「はっ!わかりました!」
「因みに男か?女か?」
「男です!」
「んだよ奴隷商の奴に売れねぇじゃねえか」
報告を聞いていた盗賊頭領は男とわかると残念そうに地面に寝そべる。
「おい、新入り行くぞ!黙って付いてこい!」
「はい」
僕の体は僕の意思と関係なく動いてしまう。
頭領の命令だからだ。
悔しく思いながらも体は勝手に歩いていく、どんなに力を込めようとしても自分の意思とは関係なく歩いていく。
僕とは別に5人が男に付いていく。全員盗賊だ。
今まで町を襲っていた、盗賊だ。
僕は一人で勝てる自信があった。
それだけ毎日、魔物と戦ってきた。盗賊も倒したことがあった。
レベルも兄さんには敵わなかったけど、それでも他の人よりは高かった。
でもあの頭領には勝てなかった。一対一なら勝ててた!
あいつもそれがわかるとすぐに仲間と一緒に攻撃してきた。
卑怯者だ、正々堂々と勝負するようにみせて仲間に僕の背後から襲わせたのだ。
そして負けた僕は殺されもせずに、あいつの手駒に無理やりさせられた。
兄さんの言う通りだった。
策もなく飛び出した僕は、盗賊のいいカモだった。
考えが足りなかった。考えが甘かった。
今の頭の中には後悔しかなかった。
それでも体は勝手に動いていく。
僕は今から町の人を襲うだろう。
僕に命令して殺させるのだろう。
どうして僕はこんなにも無力なんだろう。
町の皆を守りたかった。あの町の人が笑顔で毎日過ごせるように、あの町の人が知らない所で、あの笑顔を守りたかった。
それでも僕の体は命令の通りに前の男に付いていく。
ついに道を松明で照らしながら歩いている人影が見えた。
(気付いてくれ!速く逃げてくれ!)
僕は口を開く事すら出来なかった。
僕の前の盗賊が合図をだした。
盗賊たちが一斉に人影を囲んだ。
(ああ、なんで気付いてくれないんだ!速く逃げて!僕は殺したくなんかない!)
しかし命令はされなかった。
その人影は水で出来ていた。
水が人の形をしていた。火も浮かんでいるだけだった。
どういう状況なのか理解出来なかった。
すると他の盗賊から悲鳴があがった。
悲鳴を上げた盗賊を見ると魔物に襲われていた。
この辺でも夜にしか行動しない魔物、昼間に出現しているやつより圧倒的に強い魔物。
魔物は僕の体より二回り大きく、密に生えた黒い毛皮と短い尾、牙をむき出し、鉤爪は鋭く尖って太く短い四肢でのそのそと歩いていた。
その二肢で立ち上がる。胸に星のマークがあった。
その魔物が辺りを見渡して吠えた
「ガァアアァァァ!!」
魔物の名前はスターベアー。
今この場にいる僕以外の盗賊達ではきっと倒せないレベルの魔物だった。
「新入り!囮になれ!俺達を逃がせ!」
僕をここまで連れてきた盗賊が叫んだ。
そう言われて僕の体は勝手に動いて腰にある剣を抜いた。
スターベアーに襲われていた盗賊を助けよう駆け寄る。
次の瞬間辺りが暗闇に閉ざされた。
―――視点変更 カガミ・カズマ
僕は道から草むらから降りて、道に添うように隠れながら進んでいた。
僕は商人さんに用意して貰った黒いフード付きのローブを身に纏い暗闇に潜んでいた。
ローブは装備品ではなく、服に該当するアイテムで特に防御力や特殊な効果は無かった。
装備品に該当するローブは鉄貨以上するものが多く、高くて買えなかった。
(ヤバイヤバイヤバイ!あんな魔物に勝てるわけがない!どうする?町に逃げる?とりあえず作戦は失敗!)
僕は焦っていた。思考が纏まらない。
魔法も集中力が乱されて解除された。
あんな魔物に襲われたら僕は死んでしまうだろう。
魔法で囮の人形を作り、盗賊を誘い出して魔法を解いて辺りを暗闇にして、盗賊がアジトに帰るように仕向ける予定だったのに、魔物の出現は予想外だった。
今も魔物に襲われているだろう盗賊達の悲鳴が上がっている。
(どうする?現状を確認する為にもう一回魔法で辺りを照らす?駄目だ!魔法の発動は近くでしか発動出来ない!僕の居場所がばれる!)
僕はその場で動けずにいた。
何も出来ずにただしゃがんで盗賊達の悲鳴を聞いていた。
少しして盗賊の悲鳴が少なくなってきていた。
(この悲鳴の数なら見つかってもにげれるだろう、ただあの魔物に見つかると逃げ切る自信はない、最悪盗賊を囮にして逃げる)
そう決断した僕は行動に移した。
僕はファイアを念じて小さな火を灯す。僕がコントロール出来る小さな火だ。大きさは野球ボールより少し大きく辺りが明るくなる。
すぐに火を移動さつつ、僕はその場から道の反対側に移動する。
魔物が襲ってきた辺りを照らす。
そこには4人盗賊が倒れていた。
残り二人は辺りが明るくなった事に気付いて火が寄ってきた方向を見るがすでに僕はその反対側にいるため、見付かることはなかった。
その隙に、二人に魔物が襲いかかる。
一人は逃げようとしてこっちに走ってきた。
もう一人は魔物と対峙して、戦闘を続けていた。
僕はこっちに逃げてきた盗賊に3発のウィンドをぶつけて転ばせた。
そして立ち上がろうとする盗賊に、最後のウィンドで運んだグレイプニルを腕に触れさせた。
盗賊は立ち上がり走り出そうとしたが、そのまま倒れてしまう。
グレイプニルが発動したのだ。
発動を確認した僕は、再び魔物の方を見る。
盗賊の一人が勇敢に戦っていた。
僕は観察のスキルを使った。
クライン・ジーニアス
職業:盗賊
HP3251/8742
MP6357/6521
スターベアー
魔物
HP1524/6574
MP2541/4124
盗賊はスターベアーを圧倒していた。スターベアーの攻撃を避け、カウンター気味に剣を振るう。スターベアーが体勢を立て直そうと距離を離す、盗賊はすぐにスターベアーとの距離を縮め剣を流れるように振り抜く。
(あの盗賊強いな、ジーニアス?どこかで聞いたような、どこだっけ?)
そんな事を考えていたが、気付くと盗賊がスターベアーを倒した。
盗賊は辺りを見渡すと。回りに倒れている盗賊の服を脱がしだした。
その服で盗賊の手足を縛っていた。
(何やってるんだあいつ、仲間じゃないのか?でも職業は盗賊だし。ジーニアス?誰の名前だったっけ?)
僕が誰の名前か思い出そうとしていたがなかなか思い出せずにいた。
「町のだれか!すまないがそこの男は君が縛ってくれ!僕はそいつに命令されるとその通りに動いてしまう!だからその男には近づけないんだ!僕はクライン・ジーニアス、カイラム・ジーニアスの弟だ!」
盗賊がそう言って辺りを見渡していた。
(カイラム?あのカイラムか!そういや弟が盗賊に拐われたとか聞いていたな、なるほど通りで盗賊を捕まえる訳だ)
とりあえず僕はグレイプニルを装備させた男を観察した。
ガイナス・フォートレス
職業:盗賊
HP542/3556
MP5/1562
「てめぇ!裏切るのか!」
男がそう叫んだ。
(まずい!あの弟が言うことが本当なら!)
僕はそう思うとウォーターを発動してガイナスの顔を水で覆った。
「ガボゴボガボゴボウ!」
ガイナスは急に顔を覆った水で溺れた。
ガイナスはパニックになり力を入れようとするがグレイプニルのせいでまともに動く事が出来ずに、そのまま倒れた。
僕はすぐにウォーターを解除した。
すると観察で見ているステータスが変わっていた。
ガイナス・フォートレス 状態異常:気絶
職業:盗賊
HP542/3556
MP5/1562
どうやら観察で状態異常は確認出来るらしい。
魔法で出来た火や水は解除すると、すぐに消えて無くなるので、人工呼吸とかの救命措置は必要なかった。
僕はファイアを発動して辺りを明るくして道に上がる。
僕は弟に話しかける。
「こいつは気絶させたから大丈夫だよ!」
「そうか、すまない。君の名前を伺っていいか?」
「カガミ・カズマ」
「そうか、カズマ君のおかげで彼らの支配から逃げる事が出来た。ありがとう」
弟はこちらに頭を下げる。
兄より態度がいい、しかもさっきのやり取りで僕の好感度は上がっているみたいだ。
しかも弟には獣耳が付いてなかった。
「いえ、気にしないでください。あなたのおかげで予想より多くの盗賊を捕まえる事が出来ました」
「そんなことは、あなたの魔法のおかげで、僕は囮にならなくてすんだ。あのまま明かりが付いたままだったら僕は囮になり、他の盗賊は逃げていただろう」
そこで僕は疑問に思っている事を弟に聞いてみた。
「あいつは頭領じゃないよね?なんで命令を聞かないといけなかったの?」
「頭領に<あいつの命令を聞け>って命令されたからね。まあ他にも色々命令されたけど」
「今の状況では特に関係ない命令ってことか」
「そうだね、とにかくそいつもはやく縛らないと」
「大丈夫、一人分は捕まえれるようにアイテムを用意してもらったから」
僕はイケメン商人から用意してもらっていたアイテムを、肩に下げた袋から取り出した。
アイテム名:捕縛の縄
種類:呪縛系
使用方法:盗賊系職業の者をこの縄で縛る
効果:この縄で捕まえた盗賊は身動き、スキルの発動が出来なくなる。
追加効果:無し
材料:まだら蜘蛛の糸、ひめらぎの樹脂、油蛙の体液
ランク:D
盗賊専用の捕縛アイテムだった。
捕まえたけどスキルを使われたら僕は一撃で死ぬ可能性があったのでこのアイテムを用意してもらった。銅貨1枚分もしたけど。
僕は袋から縄を取り出してガイナスの体をしばった。
縛り方がわからないので適当に体に何周か巻いてから固結びにしておいた。
(亀甲縛りとか勉強してたらよかったかな?)
僕はノーマルなので、あまりそういう事の知識はなかった。
僕は弟と話あって二人で男5人を運ぶのは無理なので、僕だけガイナスを運んで他の町の人に手伝ってもらう事にした。
その間は弟が残りの盗賊達を見張る事になった。
僕は辺りを探して数本枯れ木を集めて火をつけた。
また魔物が出てくる可能性があるから明かりは必要だと弟に言われたからだ。
急いでガイナスを担いで町まで戻った。
町につく頃には僕は息を切らして横腹も痛くなっていた。
町の入り口にはリースさんとカイラム、その他に数人しかいなかった。
(あのイケメン野郎!必要最低限の人数しか呼んでなかったな!ばか野郎!)
とりあえずガイナスを地面に置いてリースさんに事情を説明した。
するとカイラムは慌てて町に使いを一人やり、他の人達とクラインの元へと走って行った。
(準備を怠っているから、慌てるんだ!これで盗賊団を取り逃がしたらどうしてくれようか!)
「大丈夫でしたか?怪我はしていませんか?」
リースさんがこっちを心配していたが、僕は特に怪我もなく、ただ息を切らしていただけだった。
「大丈夫ですよ、それよりカイラムの弟の方が魔物との戦闘で怪我をしていると思います」
「クラインが…そうですか…」
(そうか、弟はクラインって名前だったか、あんな場面で名前を聞いたから覚えられなかったよ。)
「それよりそこの盗賊はどうするんですか?」
「そうですね、このアイテムで奴隷にして町の中に入れさせます」
リースさんは手につけている指輪を指していた。
僕は鑑定を使った。
アイテム名:奴隷化の指輪
種類:身分系
使用方法:装備して相手の額に指輪を当てる
効果:職業を奴隷にする
追加効果:購入範囲外に持ち出すと壊れる
材料:制作不可能
ランク:A
特別補則:このアイテムは土地購入者またはその権利を所持している者のみ装備可能
(制作不可能とかあるんだ、まあ、あんなアイテムが制作出来たら、世界は奴隷だらけになってるか、良くできた世界だね、しかも町からは持ち出せないとか、装備者を限定とか厳しいね。それでも悪用出来ない事は無いと思う、土地購入者が悪用しようとすれば、いくらでも出来るし。町や国でも全部が安全とは言えないかな?)
リースさんはガイナスの額に指輪を当てる。
ガイナスはまだ気絶していた為に何の抵抗も出来ずに奴隷にされた。
リースさんは指輪をガイナスからはなして、メガネをかけて何かを操作していた。
「もしかしてリースさんのステータス系アイテムってそのメガネですか?」
「はい、そうですよ。ランクも高くないので色々面倒な点が多いですね」
「なるほど」
僕は納得してからガイナスを町の中に入れた。
「その盗賊の縄を解いていいですよ、今は私の奴隷になってますから、私が命令すれば逃げる事は出来ませんから」
「わかりました」
僕は捕縛の縄とグレイプニルをガイナスから外して袋に入れた。
リースさんは男に近付いて男の体を起こしてから、右腕を大きく振りかぶり。
バチン!!
いい音が辺りに響いた。
どこかの業界では綺麗な女の人に叩かれたり蹴られたりしたらご褒美だと聞いたが、僕は嫌だなと思った。
ガイナスは目が覚めて、辺りを見渡していた。
「ここは、町?」
「はい、では盗賊団のアジトの場所を言いなさい」
「ここから、南西に行ったところの山の中腹に盗賊団のアジトがあります。、?、!?」
ガイナスはスラスラ答えた後、驚いたように顔を歪ませた。
どうやら奴隷になった事を理解したようだ。
「現在アジトに何人盗賊がいますか?盗賊頭領のレベルは?」
「アジトには現在15名、レベルは85です」
「そう、ありがとう、それじゃあ今から来る人達とアジトに行って、盗賊団を壊滅させてきなさい。その後は私のところまで捕まえた盗賊達を連れてきなさい」
「わかりました」
ガイナスは悔しげに頭を下げた。
「これでアジトもわかりましたね」
「そうですね、」
すると装備を整えた男達がこっちに走って来ていた。
リースさんは先頭の男に事情を話して、指示を出していた。
男達は指示を聞くと急いでガイナスを連れて町の外に走り出した。
リースさんはこっちに近付いて頭を下げた。
「これでようやく盗賊団も討伐出来ます。カズマさんありがとうございました」
「僕はほとんど何もしていませんよ、活躍したのはクラインですよ」
「それでも、あなたが切っ掛けになったのは間違いありません、明日になれば、お礼の品を用意します
ので受け取って頂けませんか?」
「わかりました、それでなんですが、今の所持金がないので今日の宿がありません、何処かで泊めて貰えませんか?」
「わかりました、今日は私が宿を用意しますので、休んでいってください」
「わかりました」
僕は用意してもらった宿に泊めてもらった。
部屋に着いた僕はすぐにベッドに横になる。
すると手の指先が震えていた。
怖かった、魔物が出てきた時はもう駄目だと思った。
けれどクラインのおかげで助かった。これから僕はあんな魔物が出る中でレベルを上げる事が出来ずに進まなければならない。
やっぱりこのままでは無理がある、いずれ死んでしまうだろう。
(あんな魔物が出てくるんなら、これからはどこかの町で暮らした方がいいよね。
でもあのスキルがあるかぎり無理なんだよね。
そもそも家を買うお金無いし、けどこれからどうしようかな?
夜の対策を何かしらしておかないと、途中で寝ることも出来ないし。
今までは夜でもそこまでは強くはなかったんだけどな。
何かアイテムで対策出来たとしても、高くて買えないだろうしな。
盗賊団の問題は解決出来たけどあんな魔物が出てくるんなら詰んでる状態は変わらないかな?
どうにか出来ないかな?
イケメン商人にでも聞いてみるかな?)
そう考えると僕は風呂に入る。
緊張からくる疲れのせいか、風呂場で危うく寝そうになった。
僕は湯に浸かりながら、ある事を考え始める。
対人戦闘にならなくてよかった。恐らく今日以上に怖く、疲れるだろう事はわかっている。
この世界に来ても、なかなか前の世界の常識を忘れる事は出来ない。
出来れば殺したくないと、頭の隅の何処かで思ってしまう。
そんな余裕はないのに、そんな考えではいずれ殺されてしまうのに。
僕が到底敵わない魔物を一人で圧倒出来る人がこの世界にはいる。
そんな人が僕を殺そうとしたら、一撃で僕は死んでしまうだろう。
だから僕は今日から甘い考えは捨てようと思った。
僕のステータスでそんな事を言っていたら、この世界では生きてはいけない。
だからもし次に襲われる事があるなら殺そう。
その人にどんな事情があろうと、僕はまだ生きてこの世界を楽しみたい。
いろんな町や国を見てみたい。少しでも多くの風景を見てみたい。
前の世界では考えもしなかった。
僕はこの世界に来てよかった。まだまだ楽しめる事がこの先たくさんあるだろう。
それを少しでも多く体験してみたい。
だから生きてよう、少しでも長く、1秒でも長く。
そう決意して僕は風呂から上がり、眠りについた。
今日も気持ちよく寝れそうだ。
とりあえず主人公の意識改革はできたかな?
生きようと思えるようになるまでこんなにかかるとはめんどくさい主人公ですね!
誰だ!こんな設定にしたのは!
僕ですね、まあのらりくらり続けていこうと思います。




