第25話 化け物
もうもうと拡張された入り口から溢れだす、煙だか石灰紛か分からないもの。
霞がかった視界でそれでも南は真っ直ぐに出入り口をみていた。
全身火傷の上、二階からの転落による全身打撲。
火傷のヒリヒリとした痛みに、しかし打撲により壊れたらしい腕は悶えるどころか、摩ることさえ出来ないほど。
それでも。
じっと見つめる。
拡張された入り口の更に奥を。
煙によって塞がれた視界の更に奥を。
そこにいるはずのモノを探すように。
満身創痍で尚、戦意を失わず。
ガラッ…
わずかに物が崩れる音。
それに過剰な反応を示す。
「糞ガキィィィィィ!!」
続く叫び。
小さく舌打ちをする。
やはり、生きていたか。
(当然か…)
人間の自分が生きてる時点で化け物も当然生きている。
恐らくは、致命傷を与えるためにはこちらが即死するほどの相打ちが必要なのだろう。
唯、残念なことに、既に武器になるものはない。
手足は動かないし、視界は霞がかっている。
意識は繋ぎ止めているのがやっと。
口は粘つく鉄の味。
白い空間から出てきたそいつは、腕が変な方向に捻れていた。
その腕にある妙な模様は紅い色からかけはなれた、黒ずんだ色をしている。先ほどまで明滅していた明るさは全く感じられなかった。
手摺を面倒臭そうに片腕で捻りきり、そのまま目の前に飛び下りる。
「全く、ここまでされたのはいつぶりだろうなぁ?」
全身から血を流し、それでも歪んだ笑顔は南を捕えている。
捕えてはなさない。
「こんな時はどうしてたかな…」
少し考えるように南の全身を見渡し、一蹴り。
「!」
声すら出せずに勢い良く吹き飛ぶ。
「貴様でうさばらしでも、するか」
先ほどまでの、食欲に支配された眼ではなく狂気に取り付かれた目。
ぴくりともしない南のわきまで歩みより胸ぐらを掴み上げる。
人形のように力なくだらんとした南からはぽたぽたと血液が垂れ、床に奇妙な斑点を刻んでいた。
「まだ、死ぬなよぉ?これからたっぷりと生き地獄を味あわせてやる」
「…」
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
瞼を開けた。
少しも戦意を失っていないその眼光は鋭く化け物を貫く。
「…なんだ、その目は。気に入らんな」
言うが早いか右目に指を突き刺す。
「ぐぎゃぁぁ!ぁぁぎぃぃやぁぁぁ!」
不気味な悲鳴を上げ吊されたまま暴れようとするが、自由がきかず痛みをまぎらわすことができない。
「これで少しはましな目をするだろう」
突き刺した指を引き抜き、まとわりついた血液やら体液を払う。
パタタタタ…。
ぬるりとしたそれは、斑点をつけて床を汚した。
「うあぅ…あぁうかっ…はぁ…」
先ほどよりは落ち着いてきたようだがまだまだ荒いままの息。
「脆いな」
一言そういって再生仕掛けているもう片方の手で頭部をひとつかみにしてくる。
握りつぶせそうで、ねじり切れそうな細い首。
「せめていい声で鳴け」
ごとり。
にぶいおとが、した。




