第24話 暗闇
いまだに暗闇の中に、いた。
四肢は動かず、目を開けているのかどうかすら、怪しい。
回りは暗く、黒く、先も果ても見えない。
「・・・」
彼はそこに横たわるのみで何もしていない。
そこに
「彼」
と言う存在があるのか?
動かない四肢と見えない暗闇は限りなく自分の存在を不明確にする。
それでも彼は自分をなくさなかった。
無くせなかった。
自分の中の明確な自分。醜く、汚く、狡猾で、認めたくなくても認めている。
(ー俺は・・・)
暗闇は容赦なく意識をも浪費させる。
刻一刻と自分を形成する自分が消えていく。
(死んだのかな?)
ふと浮かんだ想像もすぐに水泡となってどこかへと消える。
(・・・)
思考さえも暗闇に侵食され、存在事態が危うくなっていても慌てていない。
ーいや、とうに
「危機感」
が消えてしまっているのかもしれないが。
自分を自分が認識できなくて誰が自分を初めて認めるのだろうか。
自分が自分であるために今日まで自分という人格を自分に形成させてきていたというのに。
「死」というものがもしもこのようなものだとしたならば。
(…なんて、つまらない)
自分が自分でなくなる。
それはつまり他人が自分と一緒になり、さらにいえば自分すらも自分ではなく他人になってしまうということ。
(それは、困る)
ならば思い描こう。
たいしたことのないささやかな抵抗かもしれないけども。
この暗闇で、自分というものをできうる限り思い描こう。
今まで自分が目で見て、肌で感じて、耳で聞いた自分を表現するすべてをまぶたの裏に思い描こう。
(このまま消えるように死んでたまるか)
ささやかなだけれどもはっきりとした死への抵抗。
「俺は、まだ、生きているんだ」
何も見えない、何も聞こえない、何も感じないはずの世界でなぜか、その声は響いた。




