第22話 決意
喧しい音が止んだ。
鼓膜に響いていたため、少しぼゃぁっとするが平気な様だ。
恐る恐るドアに手を掛ける。
もしかしたら、ドアの前にいるのだろうか…
そんな考えがよぎる。
――いない、絶対いない!
強く自分に言い聞かせて、いくつもクレーター型の凹みが付いたドアを開ける……
ドアを開けた先には丁度そいつの後姿が見えた。
ゆっくりと、一階の倉庫のほうへと進んでいる。
そこは、
物陰でよく見えないが、
足のようなものが見える。
その周りは何故か紅くなっているように見えた。
そこは確か野村が突き飛ばされたあたり。
じゃぁ、
あれは、
野村の足であって
野村の血液・・・・?
カッっと体が熱くなった。
近場にある何かを掴んで、思いっきり投げつける。
フォームもなにもあったもんじゃない。
ただがむしゃらに、ただ、標的に向かって投げつけた。
結果、やつの胸に見事に命中して貫いた。
二階から投げつけたから余計に勢いが増したのだろう。
――やった・・・・・!!
心の中でちいさくガッツポーズ。
が、
それもすぐに凍り付いた。
投げたのは体育で使うヤリ。
確かにそいつの胸の辺りを貫いた。
それなのに・・・・
そいつは、何事も無かったかのように向きを変えてこっちを見た。
胸をヤリに貫かれたまま・・・・・
納まり切らない犬歯が覗く口が左右に釣り上がっていた。
貫いたヤリの辺りから黒々とした液体が流れだしている。
だというのに、そいつは動揺する様子が無かった。
苦痛に顔を歪めるのならわかる。だが、そいつの顔は嬉しそうに歪んでいた。
無くしてしまった玩具を見つけたような、ほっとしてそれで何をしようかと期待に膨らませる。
・・・・・イヤ、子供ではなかったか。
その顔は人間のものではなかった。
たとえるのなら・・・・・・
目の前で動くものを見つめる・・・・・・
・・・・・・観察というよりも、興味を示していて・・・・
無邪気で、だからこそどうしようもない・・・・・
・・・・・目の前にごちそうを置かれてお預けを食らっている肉食獣だ・・・
・・・・まだかまだかと、思い切り餌にかぶりつく時を待つような。
「まいった・・・・」
誰にいうともなくぼそりと小さく、本当に無意識につぶやきが漏れた。
なにがまずいのか、全く自分でもわからなかったが。
―いや、まずかったことが多すぎたというべきか。
とにかく、つぶやきとほぼ同時にしゃがみ込んだ。
その上を何かが通り過ぎ、先ほどまでいた部屋のドアを突き破っていった。
勢いよく突き破りすぎたために石灰の入った袋にでも当たったのだろう、白い煙がもうもうと立ちこめていた。
口の中にのどが渇くような、粉っぽい張り付くような感覚がまとわりつく。
視界は白い粉塵の煙によって最悪。
もう、頭は認識している。
―これ以上逃げようがない・・・・・・・と。
―何かないか?何か一つだけでもいい、目の前のやつに一泡吹かせられるような何か・・・・
―おそらく逃げ切れないだろう。
――逃げられないのならどうする?
―決まっている
―逃げられないのなら・・・・
―逃げられないのなら・・・・
・・・・・・・・・・・・
小さく、本当に小さく、呼吸ともいえないのではないかと思えるほど小さく。
一息吸った。
目は相変わらず目の前の煙を見ている。
中から機材が倒れたりする音が聞こえるところから、中で相手も視界を悪くしているというのがわかる。
―・・・・・・・逃げられないのなら・・・・・・
戦うだけだ。
先ほど吸った一息を吐き出し、一途白煙の中へと大きく踏み込んだ。
その瞬間体育用具室は大きな爆発音に発せられた。




