第18話 対峙
化け物に変身したそいつは、目の前にいた野村を簡単に吹っ飛ばした。
勢いよく吹っ飛んだ彼はそのまま体育用具室に突っ込んでいった。
けたたましい音を立てていた。
目の前の異形の化け物・・・『ソウルイーター』と自ら名乗っていたそいつはゆっくりと南のほうへと顔を向けた。
発達しすぎた犬歯が口の端から覗き、口端は釣りあがっている。
顔だけ見れば一般にいわれている吸血鬼のイメージに近いだろうが、それは全身にイカ墨でも塗ったかのように真っ黒なのだ。
もとの姿のときに着ていた服は体が膨らんだため、ぴちぴちになっており、袖やすそから覗く顔を含めた皮膚には青白いラインがびっしりと走っている。
「ソウルイーター・・・?」
オウム返しで、名前を繰り返す。
顔を向けたそいつは一瞬で数メートル離れていた南の目の前まで移動した。
「!!」
目を見開き驚愕の表情をした瞬間目の前が何かでふさがれた。
次いで鋭い痛みが鼻を突いた。
「くぁ!」
たまらず声を上げる。
大したことのない痛みなのだが、突然の出来事に体が過敏に反応してしまう。
一歩二歩後退して相手を見据える。
これがただの喧嘩だったら彼もやり返していただろう。
野村が吹き飛ぶ瞬間までは戦うか逃げるかといった選択肢があった。
やられるにしても一発ぐらいは殴ってやろうと。
そんな考えも野村が吹っ飛んでいく様を見て頭から吹き飛んでしまった。
「ぐぐぅ・・・」呻き声にような声を上げながら閉じてしまった瞼を開ける。
生暖かいものが鼻と口の間を流れている。
鼻の奥でじんじんとする鈍い痛み。
目の前にいるそいつは歪んだ笑みをしていた。
怪物に変身する前の斎藤の姿のときと同じ歪んだ笑み。
「う・・・ぐぅう・・」
口で息をしながら、そいつを睨みつける。
ニヤニヤとしているそいつは先ほどと同じ位置にいる。
―遊んでいる・・・
混乱しかけている頭でもそれだけは鮮明にわかった。
いきなり目の前まで詰めてきて一発軽く顔を叩く。
そんな芸当をするって事は向こうの実力はかなり上だと見て間違いがない。
その気なら今の一発で殺すこともできただろうに。
それをしなかった。
鼻がふさがっていてまともに息ができないため思考も徐々に緩慢になっている。
―野村は生きているのだろうか?
そんな心配が南の頭をよぎった。




