第17話sideB-正体-
扉を開けて入ってきたのは南 太一だった。
あいつの視線が俺から南のほうへとずらされると、一瞬体を押さえつけるような悪寒が抜けた。
「やぁ」なんて挨拶をしている。
体育館は蒸し暑い。こうしているだけで汗が噴出してくる。
いくつか南と受け答えをしていたが内容なんて忘れた。
後ろで南が息をのんだようだ。どうやら正体に気づいたらしい。
「私のことを知っているものが始末できるのだからな・・・」
突然女の顔をしたそいつは顔をうつむいて脱力したように棒立ちになる。
「うう・・・・ううぅぅぅぅぅぅううぅぅぅう・・・」腹のそこから搾り出すような低く、そして重い呻き声を上げ始めた。
先ほどまで蒸し暑く、汗が噴出すほどだった体育館だったのに今は全身が総毛立つほどの寒気に体がつつまれていた。
冷や汗が噴出す。
「ぉぉぉ・・・おおおおおおおおおおおお!!!!!」こだまする絶叫。
そいつの体はいつのまにか変色し、体中には青白いラインが根を張るようにびっしりと走っていた。
黒人のそれよりも黒く、プロレスラーの腕よりも太く、空想の吸血鬼のように長い犬歯。
つりあがった口端。
「アア蛙ああああ阿唖亞あAAa吾ああああああああAAああああAA・・・・!!!」
人の声とは思えない叫び声はびりびりとガラスを揺らし、圧倒的なプレッシャーを俺に与えた。
足はすでに竦んでいる。
「逃げたいな」南がぽつりと言う。
「できたらな」正直に言う。
無理だ。足が動かない。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・・」深呼吸のように深く息を吐いてそいつは俺たちに顔を向けた。
「・・・」
絶句・・・
そんな言葉が似合いすぎるほどの沈黙俺たちは動くどころか声すら出すことができなかった。
そんな反応を楽しむようにつりあがった口をしている。
「・・・だよ・・」
ポツリと聞こえた。
「・・・・んなんだよ・・」
また聞こえた。
それは南の声だった。今にも消えそうなか細い声で何かを問う言葉。
俺もそいつも言葉を聞いていた。
ぶつぶつと同じ言葉を繰り返し、それは徐々に大きくなってきた。
「・・・何なんだよ!お前は!!!」
・・・・・
・・・
・・
・
「ククク・・・」漫画のような笑い声が発せられた。
発したのはやつだ。
「そうだな、どうせ死ぬんだ教えてやろうか・・・」
低く、脅迫するような声。
「巷じゃあ、吸血鬼と呼ばれているらしいな」赤く充血している目を細める。
「残念だがそれは俺じゃないんだなぁぁぁぁ・・・」
口をさらに歪めて言う。
「元は俺だから、まぁ、俺が死ねば大体は消えるだろうがな」
よく意味がわからない。
「俺の名前は・・・」
緊張とは程遠い雰囲気だが、俺は一歩たりとも動くことができない。
「『ソウルイーター』だ」
次の瞬間俺の体は何かに殴り飛ばされ、2、3メートル離れた体育倉庫に突っ込んでいた。
悲鳴をあげる暇もない。
―あー、・・・死ぬかなこりゃ・・・
背中を強打したため、呼吸が止まり、意識が朦朧としてきた。
―いってぇなぁ・・・クソ・・・・
目の前が暗闇になった。




