第17話sideA-変貌-
社長の後を追って、ついに体育館前まで来た。
確かに二人は中に入っていった。
「あれ?南先輩?どうしたんすか?」
ふと声を掛けられる。
掛けてきたのは 堺・真治と言って俺の一年後輩にあたる。
確か昔から「俺はギターをやる!」と言って、高校に入ってから軽音楽部創部に向けて走り回っているらしい。
「おお、久しぶり」
高校に入ってからはかなり疎遠になっていたが、昔はよく遊んだ間柄だ。
軽く片手を挙げて答える。
「中に用ですか?」
「ああ、ちょっと探してるやつが中に入っていくのを見てね」
「ふーん」とでもいいたそうに俺の顔を見ながら「でも・・・」と付け足してきた。
「さっき他の人が入っていきましたけど、その人ですか?」
―やっぱり入っていったか・・・
心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
「ああ、野村勇二って言うんだけど・・・知ってるか?」
ふと、隣のやつを見た。
中々威圧感のあるそいつは俺を頭の先からつま先まで見た。
―なんだ?こいつは・・・?
「野村先輩なら・・・」
「先輩」と言うってことは俺よりも年下なのだろう。
それにしてもかなりの迫力である。
「さっき中に入っていきました・・・」
低く、ゆっくりと落ち着いた感じの話し方を見る限り高校生らしくない。
ついついそんなことを思ってしまう風貌なのだ。
・・・頭つるっつるだし・・・
「ああ、こいつ一年の野口 一矢って言いいます」
慌てて堺が紹介をする。
「こっち俺の中学の先輩の南 太一先輩」と、俺のことも紹介してくれた。
「よろしくお願いします」
「え・・・あぁ・・・うん、よろしく」
―・・・一体何がよろしくなんだろう・・?
「野村先輩に用があるんですか?」
野口と紹介された一年生が聞いてくる。
威圧感がかなりすごい。
「ああ、ちょっとな」
そう言って体育館のドアに手を掛ける。
「先輩、また今度遊びましょうよ、久しぶりに」
「そうだな、野田君や野村も一緒に遊ぶか」
「いいっすね」と言う声を背中に受けながら重いドアを押し開ける。
ぎぃぃぃぃぃ・・・・・
鉄製ドア特有の金属音を発しながらドアはゆっくりと開いた。
中はそこだけ夏が残っているようにもわっとした空気を溜め込んでいた。
「テメェは俺の親友を殺した!だから俺が、ぶちのめす!!!!誰のためでもない、俺のためだ!!!」
いきなり聞こえる怒鳴り声。
間違いないこの声は野村のものだ。
相手はこの様子だと、「あいつ」か・・・
昨日のことが頭の中に蘇る。
歪んだ笑みをたたえる斎藤涼だった者。
血だらけの家・・・
そして、夢の中にあった、親の顔をした人形。
「・・・出てきたらどうだ?」
知らない女の声がした。
声から察するに20代だろうか?
若い感じがする声だった。
「・・・・南?」
こちらは野村の声。
恐る恐る二人の視界内に体をさらす。
―・・・誰だ?
一人は社長―――野村勇二。
もう一人の女は・・・?
知らない顔だった。
「やぁ」などと馴れ馴れしく挨拶をしてくる。
が、知らない。
「おい、この人は誰だ?」
野村に聞いてみる。
「斎藤だ」
・・・聞かなきゃ良かった・・・・
予想していたが、否定されることを期待していたのだがその願いはあっさりと砕けた。
「あれが・・・?」
分かっていることだが、自然と口にしてしまう。
斎藤の家で一度見たはずだ。
やつの顔が老人に変わるのを・・・・
「まさか南君、君まで来てくれるとは思わなかったよ」
パーティーに来てくれた友人をもてなすようにそんなことを言う。
「これで・・・・・・・・・・」
暑苦しい体育館の室温が少し下がった気がした。
「私のことを知っているやつは全員始末できる」
―――ぞくっ
寒気がした。
生まれてこの方感じたことのない寒気を。
吐き気を催すほどの悪寒。
目の前の女がとても凶悪なものだと体が、心が、認識した。
「・・・逃げたくなるな」
「できればそうしたいけどな」
野村はじっと女を見つめていた。
顔には熱さのためか汗をかいている。
顎からあせが床に滴り落ちるのも気にせずそいつから目を離さないでいた。
「げぇぇぇ・・・ああああぅぅぅおおおおぅぅぅ・・・」
突然呻き声が聞こえた。
それは女の声だった。
先ほどの女が発していたのだ。
顔は床を見ているのか下を向き、両腕はだらんと垂らしている。
時折びくっびくっと体が脈打っている。
「おぉぉぉぉぉぅうううぅぅぅあああああああ・・・・」
人の声とは思えないほど醜い呻き声。
「あああぁぁぁ・・・・」
その声が徐々に小さくなるころ俺は目を疑った。
目の前にいるのは、どう見ても華奢な体つきの若い女なのだが・・・・
「嘘だろ・・・・」
腕が黒く変色し、太さが女の太もも以上になっていた。
「嗚呼嗚アアア亜嗚呼阿蛙アア唖ああ!!!!」
髪を振り乱し、絶叫している女は、もう、女の形をしていなかった・・・・
「・・・・・・・」
いたのは、プロレスラー顔負けの体躯をした、黒い皮膚に血管を浮き出させた怪物だった・・・
「ふしゅうぅぅぅぅっぅううう・・・・」
呼吸なのだろうか?ため息なのだろうか?タイヤから空気が抜けるような音が聞こえてくる。
それは目の前の怪物が放った息。
額には血管のような管が何本も走っていたが、そのどれもが青白く発光していた。
目は充血したように赤く、口は犬歯が飛び出るほど発達しており、くいっと端が持ち上がっている。
全体的に黒い。
「何なんだ・・・・お前は・・・」
やっと喉から声が出た。
そう・・・なんなんだよ・・・
お前は・・・・誰だ?




