第13話 夜の逃走
「う…うわぁぁぁぁぁ!」
近づいてきたそいつが反対をむいた瞬間、思いっきり殴り付けた。
バキィ!っと固い音がして数歩後ずさる。
手応えはあった。
期待はできないが、少しは効いているはずだ。
拳が少し痛む。そいつは仰け反った体を戻した。
「なかなかいいパンチだな」
―効いてない!?
「生きがいいのはいいことだ」
一人うんうん頷いてこちらを見ていた。
「―っらぁ!」
突然そいつの体が宙に浮いた。
そして、さっき人の頭が弾けたところに倒れこむ。
恐くて体が動かなかった。
ただ震えているだけだったが、仰け反ったのをみて体の震えは止まった。
今できること、―こいつから逃げること!
「―っらぁ!」
反対をむいた瞬間に突き飛ばす。体は、もう、動く!
「逃げるぞ!」
頷くのを確認して玄関に走った。
―頭の中がぐるぐるする。
斎藤は死んでいた。
それどころか通り魔だった。
でもそれは斎藤じゃなくて。
―誰だろう?玄関を出て、公園に入る。
街灯のおかげで、すでに暗闇に飲み込まれている時間だが、よく見渡せる。
「あ…あぁ…」
声にならない。
街灯の下には人がいた。
ゆっくり近づいてくる。
その顔は知っている顔。
たった今逃げてきた顔。
すぐに公園から逃げ出す。
全力で走って、振り切れるものなら振り切りたかった。
走る、走る、走る。
はぁ、はぁ、はぁ。
息が切れても走る。
―昼間にあった斎藤は今の奴だったのか?―斎藤を殺したのはあいつだ!公園から飛び出して走りながら、昼のことを思い出す。
―あいつは風邪をひいてるって言ってたな。
体調がすぐれなかったのは確かだと思う。頭で考えずにがむしゃらに走っていた。
「…!」
先回りされている…。
「もうあきらめなよ」
少年の顔をしたそいつは言う。
どうやって追い付かれたか、彼らは想像できないだろう。
ぜぇぜぇぜぇ…荒い呼吸が聞こえてくる。
呼吸が整うまで待ってから、再び声をかける。
「逃げられないよ」
―くそ!いつのまに先回りしてるんだ!
息一つ乱さず目の前に涼しげに立っているやつを睨み付ける。
にやにやしながら近づいてくる。
急に視界が明るくなった。
懐中電灯の明かりが三人を照らしたのだ。
光の持ち主は近くの駐在所からきた警官のようだった。
のほほんとした顔の警官は三人の顔を順番に見て、ゆっくりと口を開いた。
「ちょっといいかな?」
最近多発している通り魔のための職務質問。
面倒だが、仕事だ。
彼はいつもどうり手帳を取り出した。
名前と職業と何をしてたかぐらいか…みたところ高校生だろう。
「はい、じゃあ名前を教えてくれるかな?」
―…警官だ。
職務質問をするつもりらしく、手帳とペンを取り出した。
歳は25〜30ぐらいだろうか?俺たち三人は立ち止まり、突然の乱入者に安堵と驚きを抱いていた。
警官は斎藤から質問を始めるようだった。
―どうする?どうやってこれから逃げる?頭は混乱の極みに達していた。
―あかさたなはまやらわぁぁぁぁぁぁぁ!何度も頭の中で絶叫する。
できれば実際に叫びたいところだが、さすがにそれはまずいと思う…っと斎藤の顔をしたそいつが、戸惑った顔をしたのが目についた。
ぷしゅうぅぅ…と音を立てて頭が一気に冷静になっていくような気がした。
『斎藤は死んでいる』この事実は避けられないことだ。いくら同じ姿をしていようと、
「斎藤涼という人物は死んでいる」
のだ。逃げるチャンスは一瞬。
「すいません、ちょっと電話していいですか?」
そういって警官から離れる。
通話はせずに携帯のメールホルダを開きメールを送る。
ヴヴヴヴヴ…メールの着信を告げるバイブレーションが尻に響く。
『斎藤が名前を教えたらこっちに逃げろ』とだけ書いてあった。
すぐに差出人をみる。
―何?どゆこと?聞きたいことは有るが今は逃げるのが先決だ。二人の質問に聞き耳を立てる。
「すぐおわるから、名前を教えてくれるかな?」
「あ、…えぇっと…」
少しとまどりながら、
「斎藤涼です」
と確かに言った。
すぐに差出人のほうを見る。
頷いた。―今か!ゆっくりその場から離れて…駆け出す!そいつも駆け出す。警官が気付いた様子はない。一気にその場から脱出した。
やっぱこの小説血生ぐさいそうです…まぁ、明るくはないですけど…狙いどうりってことで良いのかな? 不安だ…




