76: お父さんとドライブに出かける…
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「それで……お前の妹は……元気にしてるのか……」
ラーメンを食べ終えた後……俺は父さんの店の片付けを手伝いながら、いろんな話をした……
「今は高校三年生になりました……もう少し稼ぎを増やさないといけません……」
「そうか……」
「でも、宮島大学の推薦枠を狙えるらしくて……学費のことは少し安心できそうです……」
「けど、その他の出費はまだあるんだろう……」
父さんは道具を洗う手を止めて、真剣な表情で俺のほうを振り向いた……
「はい……そう言えばそうですね……」
「なら、私が手伝おう……」
父さんは手を拭くと、棚の上に置いてあった金庫箱を取りに行って……俺に差し出した……
「父さん……いや、俺は……」
「なぜだ?……たった百万円だ……私なら稼げる……」
「……でも、俺たちは会ったばかりです」
「それがどうした……今まで私はお前のことを一度も気にかけたことがなかった……遅くなったが……今からでも、お前と妹を助けなければならないんだ……」
「…………」
俺は父さんの顔をじっと見つめた……こんなに決断も行動も早い人だとは、想像すらしていなかった……
子供のことなら……どんなことでも何とかしてやる……それが親としてやるべきこと、あるべき姿……
さっき父さんはこう言っていた……可哀想がる必要も、許す必要もない……ただ父親としてやるべきことをやらせてほしい、と……
だから俺は、その百万円の入った箱を、素直に受け取ることにした……
これは、これから妹の面倒を見るための金だ……百万円なんて二年も持たずに使い切ってしまうだろうけど……これが、俺の父さんが初めて見せてくれた、父親としての助けであり、務めだった……
「足りなくなったらまた言いに来い。妹にも……美冬にもそう伝えてくれ……」
「……はい、父さん……」
夜九時頃、店の片付けが終わり、俺はタクシーを呼んでホテルに戻ろうとしたが……父さんが引き止めた……
「アキト……ホテルまで送ろうか?」
「父さん、車持ってるんですか?」
「あるさ……ついてこい……」
父さんは駐車場のほうへ歩いていった……俺は正直、父さんが車を持っていることに少し驚いた……つまり、ラーメン屋の商売はそれなりに成功しているということだ……
「この歳になっても運転できるなんて、信じられないですね……」
「おいおい……こう見えて私も、それなりに走り屋だったんだぞ……ほら、あれが私の車だ……」
最初は電気自動車か、年寄りらしいコンパクトなファミリーカーにでも乗っているのかと思っていた……でも忘れかけていた……そんな車に乗るような人なら、青山なわけがない……
「へえ……結構パワーのある車に乗ってるんですね……」
父さんが乗っているのは……漆黒のGTR R32、いかつい佇まいだった……外装はそれほど大きく手を加えられておらず……ホイールを替えて、スポイラーを外しただけのようだった……
「そうだろう……ほら乗れ、送ってやる……」
「あの、父さん……」
「ん?……」
俺はシートベルトをしっかり締めた……中はハンドルとシートだけがスポーツ仕様に替えられていた……
「せっかく会えたんだし……ドライブでもしませんか?」
父さんは軽く笑って……エンジンをかけた……
「いいだろう……親子のイベントってのはこうでなくちゃな……」
高速道路へと向かう……
「まさか、母さんが父さんと別れたのって、金を全部これに突っ込んだからじゃないでしょうね……」
「何を馬鹿なこと言ってるんだ……あの頃は任天堂のゲーム機すら買う余裕がなかったんだぞ……こんなもの買えるわけないだろう……」
父さんは苦笑いした……まあ……こういう際どい冗談が得意なのは、俺たち二人とも同じらしい……
「この車、どこかいじってるんですか?」
「大したことはしてないさ……足回りを少し柔らかめにセッティングして、ブーストを軽く上げて、ホイールとタイヤを替えただけだ……それでも十分パワーはあるがな……」
高速に乗ると……父さんはアクセルを強めに踏み込んだ、とはいえ法定速度を超えるほどではなかった……
「父さん、この車どのくらい乗ってるんですか……」
「大阪に来て二、三年目からだから……もう十何年か前になるな……」
「へえ……運転うまいですね……誰かと走ったりしてたんですか?」
父さんは首を振った……
「私はただ、環状線のあたりをぐるぐる走ってただけだ……あれ、何て呼ぶんだったか……ザ・ループだったか?」
「走り屋やってなかったなんて……信じるとでも?」
「よせよ……私を何歳だと思ってるんだ……年をとっても、たまには車を走らせたくなるもんなんだよ……」
俺は父さんが昔の話をするのを聞きながら、時々、こんな時間がずっと続けばいいのに、と密かに思っていた……
「父さん……」
「何だ?……」
「再婚はしなかったんですか?」
父さんは大声で笑った……
「まあな……何度か新しい相手を探そうとしたこともあったさ……でも、いつも気づかされるんだ……この世に、お前の母さんより良い女はいないってことにな……」
変な言い草に聞こえるかもしれないけど……あれほど愛し合っていた両親なら、内心ではお互いを思い出すこともあったんだろうな、と俺は密かに思った……
「俺も……何人か付き合った人はいます……本気で口説いたこともあれば、敵同士なのに恋に落ちたこともあるし、相手を騙して惚れさせたこともある……でも結局、俺を本当に愛してくれる人に出会ったのは、三十歳が近づいた頃でした……」
「まるでお前、マフィアか何かの危険な仕事でもしてたみたいな言い草だな……」
「いやいや……でも本当の話ですよ……」
「正直に言うとな……お前の母さんは……見た目は物静かに見えて……実はかなりお茶目な人だったんだ……」
「俺の彼女も、まさにそういう性格です……」
俺たち親子は顔を見合わせて……そのまま二人で笑い合った……親子はよく似るって言うけど……本当にその通りだと思った……
生き方も、恋愛のことも……まるでコピーして貼り付けたみたいに、そっくりだった……
やれやれ……




