第六村話 村への帰還
「俺が良いって言ってるんだ、文句あるか?」
捜索隊の男にギロリと一瞥をくれると、ザラーは肩を怒らせ歩いていく。
「ありがとう! ザラー!」ロッテの声に柔らかな喜色が宿った。
――
村に着くと、辺りには煌々と篝火が焚かれ、大人たちが待ち構えていた。
「戻ってきたぞ!」
「ロッテは無事か!?」
「ニンゲンも一緒だ!」
皆がざわめく中、シャールテさんが人混みを抜け出し、駆け寄ってくる。
「ロッテ!」
「おかあさん!」
ロッテを降ろしてやると、まっすぐに母親の胸に飛び込んでいった。
ロッテが母親の服を握りしめ、声をあげて泣いている。村の連中も、張りつめていたものが切れたのか、安堵したように息を吐いていた。
その光景を見て、俺もようやく肩の力を抜く。
背後からザラーの声がした。
「ツアール、これから村長の所に行くぞ」
「……わかった」
「いまさらお前に出ていけという話をするつもりはない。だが、村に滞在するならそれなりの手順が必要だ」
「ありがとう、ザラー」
「ロッテのためだ、勘違いするなよ。少しでもおかしな事をしたら、その時は容赦しない」
「ああ、分かってる。それじゃ案内してくれるか?」
「それには及ばんよ」
人垣を割って声の主が姿を現した。長いあごひげを蓄えた顔にはいくつものシワが刻まれている。背は低いが、体つきはしっかりしている。周囲の反応からして、この人が村長なのだろう。
村長の鋭い視線が俺に向けられる。
「儂はこの村の長を務めておる、ロドロムじゃ。まずはロッテを救出してくれたこと、礼を言う」
ロドロムはそういうと、ペコリと頭を下げた。
「だが、だからといって身元不明なニンゲンを、村に滞在させておくかは別問題じゃのう?」
そう言って、辺りの人々を見渡すロドロム。
その視線を受けたザラーが面倒そうに頭を掻いたあと、ぶっきらぼうに口を開いた。
「ニンゲンは気に入らねぇ。だがツアールは命を張った。それは本当だ」
そこで一度言葉を切り、俺を睨む。
「少なくとも、腰抜けではない。俺は滞在を認めるぜ」
「ザラー、ありがとう」
「……事実を言っただけだ」
それだけ言うと、ザラーはふいと顔をそむけた。
周囲の人々も、あのザラーが言うなら、といった感じで肯定的な意見が広がっていく。
「ふむ、それならば当面はザラーが責任を持って面倒をみるように」
「はあっ? なんでそんな――」
うろたえるザラーだったが、すぐさまロッテが喜びの声を上げた。
「ザラー! ありがとう!」
「――問題を起こせば即刻追放だ」
「ツアールは、そんなことしないよ!」
ロッテの言葉を肯定するかのように、いくつもの淡い光が俺たちの傍を漂い始める。
それを見た村人たちがざわめいた。
「小精霊だ、あんなに沢山」
「きれい……」
「あのニンゲン、祝福を受けているのか?」
光の群れは俺の周囲をくるりと回ると、空へと消えていく。
精霊たちには助けられてばかりだ。いずれお返しが出来るとよいのだが……。
「本日はこれにて解散。ザラーとツアールは明日、儂の家まで来るように」
村長の言葉を受け、ひとまず解散となった。
「ツアール、かえろ?」
「え? 俺は……」
「あらあら、ツアールさん。今さら他所の子になるつもりなんですか?」
「えー! だめだよ! ツアールはわたしが持ち主なんだから!」
シャールテさんの言葉に反応して、ロッテが俺の腕を掴む。
小さなその手を、振りほどく事は出来なかった。
「……そうだったな」
頭を優しく撫でてやると、ロッテはウットリと目を細めた。
「かえろう」
「うん!」
シャールテさんと俺でロッテの手を繋ぎ、家路についたのだった。




