0062. 春の約束と次なる国への船出!
極寒の漁港フロストヴィーク。
かつて私が「伝説の主」を釣り上げ、漁師さんたちから北海の豊穣聖女と拝み倒されたこの港に今、一隻の巨大な魔導ヴァイキング船が停泊している。
凍てつく海面に映る船体は、これから始まる長い船旅を予感させるように、堂々とした威容を誇っていた。
(BGM:『新たな航路への旅立ち 〜勇壮なオーケストラ〜』開始)
※金管楽器が高らかに鳴り響き、新たな世界への期待と壮大なスケールの旅立ちを祝福するような力強く勇壮なフルオーケストラの旋律 。さらに広大な世界へと飛び出していく高揚感をMAXに引き上げる楽曲。
「わぁ、大きい……! 狐火ちゃん、水蓮くん、あの船で南の交易都市へ行くのよ!」
「クゥ!(……潮風も悪くないわね)」
「キュイ(……海路か。武人として、船酔いなどという不覚は取らぬぞ)」
腕の中では、九本の尻尾を誇らしげに揺らす狐火ちゃんと、イッカクフードを深く被り直して気合を入れる水蓮くん。二匹とも、私の腕の特等席を巡る無言の押し問答を続けているけれど、今はそれも微笑ましい。
船着き場には、わざわざ六花の街から見送りに来てくれた若菜さんとアンネさんの姿があった。
さらに、私がヌシを分けた漁師さんたちも「聖女様、行っちまうのか!」「またいつでも戻ってこいよ!」と、大量の保存食(お土産)を抱えて集まってくれている。
「琴音さん、本当に行くのね。……いえ、あなたを止めることなんて、この世界の誰にもできないのは分かっているけれど」
若菜さんが、呆れたような、それでいて少し寂しそうな顔で私を見た。
「はい! ガストロノミアで最高のスパイスを手に入れて、秋夕国でツヤツヤのお米を食べてきます。もっともっと、この子たちを幸せにしたいんです!」
「……あなたなら、南の国でも『なめろうの輝き』で事件を起こすんでしょうね。……いいわ、これ、ギルドから特例で預かった『非常食セット(※特級保存食)』よ。道中でお腹が空いたら食べなさい。それと、これは私個人の……予備の胃薬よ。一応持っておきなさい」
「ありがとうございます、若菜さん! 大事にしますね!」
私は若菜さんからずっしりと重たい包みを受け取ると、ふと思いついたように、白銀の雪に覆われた六花の街の方向を振り返った。
「そういえば、若菜さん。私、春になったらまたここに戻ってきますね。その時は……みんなで、あの大きな桜を見ながらお花見しましょう!」
「……桜? 琴音さん、この北国に桜なんて――」
若菜さんの言葉が途切れた。
私の脳裏には、まだこの世界には存在しないはずの、天を突くような巨大な一本桜が満開の花を散らす光景が、なぜか鮮明に浮かんでいた。それはきっと、私の【魔使力】か何かが無意識に引き寄せる、未来の約束。
【System Event Registered:The Advent of the Great Sakura(伝説の巨桜降臨イベント・登録完了)】
【Condition:Kotone's Return in Spring(発動条件:琴音の春の帰還)】
【Status:Legend in the Making(状態:伝説を構築中……)】
「……ええ。約束よ、琴音さん。その時は、美味しいお酒と……そうね、あなたのあのお料理が出るのを、楽しみに待ってるわ」
若菜さんは、私の言葉に宿った不思議な確信を感じ取ったのか、穏やかな笑みを浮かべて頷いてくれた。
「アンネさんも、次はもっと光る……じゃなくて、美味しいお料理、食べに来てくださいね!」
「……ええ。サングラスを三重に準備して待っているわ。……元気でね、琴音さん。あなたは、この街に一番『熱い』風を吹かせてくれたわ」
アンネさんは少し照れくさそうに、けれどしっかりと私の手を握ってくれた。
ふと見上げると、ギルドの馬車の陰で、ヨルム支部長が「かーっ、寂しくなるのう!」と言いながら、ヒラヒラと手を振っているのが見えた。
錨が上げられ、重厚な帆がガバッ!と風を孕む。
魔導ヴァイキング船がゆっくりと、氷の海を力強く割って南へと滑り出した。
「さようなら、六花の街! さようなら、皆さん!」
(BGM:『冒険は続いていく 〜軽快なバイオリン 〜』開始)
※重厚なオーケストラから一転、潮風に乗って舞うようなスタッカートの効いたバイオリンの旋律へシフトする 。壮大なファンタジー世界を旅していても、琴音の根底にあるのは愛しい狐火ちゃんや水蓮くんとの「もふもふ至上主義」の平和な日常であることの証明。舞台がどれだけ大きくなっても、彼女のブレないスローライフはこれからも楽しく続いていくことを約束する、希望と笑顔に満ちたエンディングBGM 。
どんどん遠ざかっていく港。手を振る友人たちの姿が、白銀の景色の中に溶け込んで小さくなっていく。
私の前には、果てしなく続く深い青の海と、その先にある未知の美食、そしてまだ見ぬモフモフたちの世界。
「さあ、二人とも! 次はどんな美味しいものと、可愛い子に出会えるかしらね!」
「クゥーン!(……私だけを見てなさいよ!)」
「キュイイ!(……主、南への一番乗りは我だ! 全速前進を命ずる!)」
二匹の元気な鳴き声が、澄み渡る冬の空にどこまでも響き渡る。
和服をなびかせる少女と、二匹の騒がしいモフモフ。
常識破りのスローライフお散歩は、今まさに新しい章を捲ったばかり――。
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『第一部・六花の街編』完




