0057. 究極の海鮮(お供え)準備といざ再チャレンジ!
「ただいま戻りましたー! 若菜さん、アンネさん、見てください! 最高の『塩辛の材料』を釣ってきましたよ!」
私が意気揚々とギルドのロビーに運び込んだのは、『極北サーモン』の巨大な切り身と、岩のようにゴツゴツした『アビス・タラバ』の巨大な脚だった。
「あの馬車に備え付けられていた『魔導冷却ボックス』、私の知ってるものと大違いでびっくりしちゃいました! あんなに大きな切り身やカニの脚を丸ごと入れても全然平気だなんて、さすがギルドの乗り物はすごいですね!」
(BGM:『絶望の収穫祭 〜不穏なホルン〜』開始)
※これから作ろうとしているのが「ただの美味しいご飯」であるはずなのに、なぜか不協和音気味のホルンが低く響き渡る。「これ、絶対に料理しちゃいけないレベルの素材が混ざっていないか?」という周囲(読者)のツッコミと、とんでもないものが生まれる不吉な予兆をサスペンスフルに煽るBGM。
「…………琴音さん。それ、フロストヴィークの『伝説の主』たちじゃない。……どうしてそんな規格外の大きさのバケモノが、平然と出てくるの?」
若菜さんの顔が、見たこともないような土気色に染まっている。たまたま様子を見に来ていた生産ギルドのアンネさんに至っては、カニの脚に触れた瞬間に(……この鮮度、この異常な魔力量。ありえないわ。これ一つで小国の国家予算の何割かが飛ぶわよ……!)と心の中で絶叫し、立ったまま気絶しそうになっていた。
「それでね、これを狐火ちゃんたちと一緒に料理したいんですけど、どこかキッチンを貸してもらえませんか? 若菜さん、ギルドの仮眠室とか使えます?」
「えっ、仮眠室のキッチン!? だめよ、こんな魔力の塊みたいなとんでもない海産物を焼いたら、匂いと魔力にあてられて冒険者たちが暴動を起――」
「……若菜。小声で失礼するわ」
アンネさんが若菜さんの耳元で、鬼気迫る表情で囁いた。
(「……ギルドのキッチンじゃ、あの子の『異常発光現象』がギルド中の人たちに丸見えよ。またあの大根の時みたいに騒ぎになるわ。……生産ギルドの、一番奥の『VIP用・絶対隔離調合室』を使いましょう。あそこなら防魔壁が分厚いから、多少の天変地異なら隠蔽できる……はずよ」)
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■ 第1次錬成:和風塩辛ブイヤベースの誕生
というわけで、私は生産ギルドの奥深く、銀行の大金庫みたいな重厚な扉の向こうにあるキッチン(調合室)へと案内された。
「よぉーし、まずは『極北の主の炙りハラス』! そして『深淵の帝王カニ出汁の極上和風(塩辛風)ブイヤベース』よ!」
私はバルガスさん特製の包丁(これも余った虹晶の破片で補強済み)を振るい、溢れ出すサーモンの脂と濃厚なカニの旨味を、特大の鍋に閉じ込めていく。
(BGM:『輝くお鍋 〜天上のコーラス〜』開始)
※「アーメン……」という圧倒的な天使のコーラスが降り注ぎ、ただの漁師飯がシステム上限を突破した「神話級の供物」へと昇華(バグ進化)していく瞬間を、無駄に壮大かつ神聖に描き出す異常錬成BGM。
「……わっ、光ってきた!」
【System Detect:神格級食材の『旨味』が臨界点を突破しました】
【System Warning:異常発光を確認。網膜保護のため、サングラスの着用を推奨します】
【Cooking Status:Artifact Grade Dish(神器級料理)】
【Luminosity:50,000 lm(発光度:眩い夕焼けレベル)】
鍋の中から、まるで街の灯台のような黄金の光が溢れ出し、隔離室の壁を突き抜けそうになる。
アンネさんと若菜さんは、部屋の隅であらかじめ用意していた溶接用のゴーグルをかけながら、ガタガタと震えていた。
「……できたわ! 最高の『塩辛風ブイヤベース』!」
「……琴音さん。……とっても美味しそう(そして眩しい)だけど、一ついいかしら」
若菜さんが震える声で言った。
「ヨルム支部長が言っていたのは……『塩辛い海産物』。……それって、お酒のおつまみの『塩辛』のことじゃなくて、単に『塩気の強い特産品』のことじゃないかしら……?」
「………………えっ?」
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■ 図書室での再確認と愛のオーバーフロー
私は慌てて、若菜さんと一緒に冒険者ギルドの図書室へと猛ダッシュした。
「えーっと、流爽人……可愛いから『水蓮くん』って呼ぶことにしたあの子の項目は……。あ、あったわ! この間、興奮して最後まで読んでなかったページ!」
古い図鑑のページをめくると、そこには青白いモフモフのイラストと共に、好きな食べ物がしっかりと記されていた。
『流爽人は、雪解けの塩分を含んだ「氷晶海藻の塩漬け」と、それを和えた「白身魚のなめろう」を至高の好物とする』
「な、なめろう……!? ブイヤベースじゃなくて、なめろうだったの!?(でも、鮭って身は赤いけど生物学的には白身魚だから、この極北サーモンで完璧に作れるじゃない!)……あっ! でも、肝心の『氷晶海藻』が無いわ!」
私が頭を抱えると、若菜さんとアンネさんが「はぁ」と深く溜息をつきながら、紙袋を差し出してきた。
「……あなたがまたどこかで、訳の分からないヤバい素材を採ってきて爆発させるんじゃないかと思ってね。私たちで先回りして、市場で安全な『普通の氷晶海藻』を買っておいたのよ。リスクヘッジってやつね」
「お願いだから、この『普通の海藻』を使って、普通に料理してちょうだいね……」
「若菜さん、アンネさん……準備がいいですね! ありがとうございます! それじゃあ、この海藻と、私の釣ってきた最高のお魚を合わせますね!」
「えっ? ちょっと待って、普通の白身魚も買っておいたのに、そっち(バケモノ鮭)は使うのね!?」
若菜さんの制止も虚しく、私は再び生産ギルドの隔離室へ戻り、愛情を込めて極北サーモンの切り身と氷晶海藻を「トトトトトッ!」と包丁で叩き始めた。
「ごめんね水蓮くん、今度は本当の好物を作るからね! 狐火ちゃんと仲良くなれるように、めいいっぱい美味しくなれー!!」
(BGM:『銀河を呑み込むお供え 〜爆発するオーケストラ〜』開始)
※全楽器が限界突破のフォルテシモで鳴り響くフルオーケストラが、一介のスローライフ冒険者が引き起こした「宇宙の真理すら書き換えかねない超スケールのやらかし」をダイナミックかつ爆発的に表現するBGM。
その瞬間。
【System Warning:Fatal Error(致命的エラー)】
【原因:所有者の『愛着』が規定値をオーバーフローしました】
【異常:発光強度が計測不能(Error)。サーバーサイドの描画制限(ポリゴン数)を超過しています】
【Final Cooking:The Ultimate 'Namerou' of Affection(究極愛着なめろう)】
【Status:Blinding Light(発光度:宇宙の誕生レベル)】
「ぎ、ぎゃあああ! 絶対防魔の隔離室の壁が、発光で透けてるわよ!!」
「アンネ、避難よ! 網膜が……私たちの網膜が焼けるぅぅ!!」
隔離室から漏れ出した圧倒的な光は、生産ギルドの堅牢な天井を突き抜け、六花の街の夕暮れの空に「第二の太陽」を作り出した。
……私は、ただ一生懸命にお魚を包丁で叩いていただけなのだけれど。
「……ふぅ。できたわ! さっきよりずっと温かくて眩しい光がする『なめろう』ね!」
手元にあるのは、もはや「料理」というよりは「発光する宝石(あるいは兵器)」のような何か。
私はこれを大切にお重箱に詰めると、部屋の隅で目を回している若菜さんとアンネさんを横目に、水蓮くんをモフるべく、再びあのダンジョンへと向かう決意を固めた。
(――この時、現実世界の運営チームのサーバー室では、全モニターが物理的に真っ白にホワイトアウトし、エンジニアたちが『またあいつかぁぁ!!』『プログラムになめろう作らせるな!!』と泣きながら絶叫していたのだが……私はまだ、それを知らない。)




