0052. 次は何のクエストにしようかな
狐火ちゃんのためのお揃いグッズ製作も無事(?)に終わって、採取、討伐、生産と、一通りの基本クエストも経験することができた。
ところどころで、理不尽というか「解せぬ」現象も多々あったけれど、まぁ、この世界(VRMMO)特有のちょっと変わった仕様なんだと思って、おおらかに流すことにしよう。
それで、今日からは何をしようかな。
とりあえず冒険者ギルドへ行き、若菜さんに、狐火ちゃんとのんびり楽しめる場所やおすすめのクエストがないか聞いてみることにした。
(BGM:『穏やかなギルドの朝 〜コーヒーの香り〜』開始)
※朝の光が差し込むギルドで、淹れたてのコーヒーの香りが漂ってくるような、静かで心地よいアコースティックな日常曲 。前話の「緊急配備」によるピリついた裏側の空気を一切感じさせないリラックスした旋律で、琴音が「次は何をしようかな」と純粋にワクワクしながら依頼掲示板を眺める、平和なスローライフの原点に立ち返るようなひとときを演出する
「若菜さん、おはようございます! 見てください、この間お見せしたお揃いグッズ、ちゃんと二人で着けてみたんです。並ぶとさらに可愛いと思いません?」
私はカウンターに身を乗り出して、左手首のブレスレットと、狐火ちゃんの首元で揺れるネックレスを自慢げに見せた。
若菜さんは一瞬、私の腕で無駄に神々しいオーラを放つ『絆の輪っか(神話級オーパーツ)』を見てピクッと頬を引き攣らせたが、すぐに完璧な営業スマイル(※昨夜の過酷な緊急会議を経て鍛え上げられた鉄の仮面)を浮かべた。
「あら、琴音さん。……ええ、とっても可愛いわね。そのブレスレット、なんだか……世界を救えそうなほど(物理的に)輝いているわよ。……それで、今日はどうされたんですか?」
「今日は何か良いクエストがないかなと思って。狐火ちゃんとのんびり、安全に楽しめるような場所を紹介してもらえませんか?」
「う〜ん、そうですねぇ……(※来たわね。絶対にフィールドには出させないわよ)」
若菜さんは手元のバインダー(という名の、琴音を安全な閉鎖空間に隔離するための極秘リスト)をペラペラと捲った。
「琴音さんはあまり戦闘が好きじゃないかもしれないけれど、この間、この街の近くに『初心者向けの新しいダンジョン』が生成されたの。そこに行ってみるのはどうかしら?」
「ダンジョン……ですか」
正直、あまり興味がない。だって戦闘しないといけないじゃない。
ギルドでの最初の戦闘訓練も、この間のボアープ討伐チームクエストも、私にとっては思い出したくないポンコツムーブの連続。このままじゃ黒歴史化が止まらないのよね。
「若菜さん、私の悲惨な戦闘センス(プレイヤースキル)だと、ダンジョンなんて行っても悲惨な結果になるだけですよ。また新しい黒歴史を生産する自信しかありません」
「……………………………。………そっ、そんなことは…………無いわよ?」
「ちょっと! なんでそんなに間が開くんですか。しかも疑問形って、フォローになってないじゃないですか! せめてちゃんと否定してくださいよ、私だって自覚してるんですから……」
「……まぁ、自覚しているなら……無茶はしないでしょ? 死なない程度に……いえ、ダンジョンを『壊さない』程度に頑張れば……大丈……夫……じゃないかしら」
若菜さんの目が、ものすごく泳いでいる。
やっぱり、私の戦闘力ってギルドの受付嬢から見てもそこまで絶望的なのかしら。(※若菜さんは『琴音がダンジョンの構造そのものをバグで破壊するのではないか』と危惧しています)
「そりゃあ、無茶なんてしませんよ。そもそも戦うのが嫌なんですから。……って、なんでダンジョンに行く流れになってるんですか。行きませんよ、そんな暗くて怖いところ」
私がきっぱり断ると、若菜さんが「やれやれ」といった様子で、大げさに首を振った。
アニメやマンガでよく見る、有能なキャラが「これだから素人は」と呆れるようなあの仕草。目の前でやられると、なんだかちょっとイラッとするわね。
「……ふぅ。琴音さん、よく考えて。ダンジョンに行かないなら、街中の雑用か、ルンドの店周辺での採取クエストを繰り返すだけになるわ。でも、そればっかりしていても、冒険者ランクは上がらないわよ?」
「別に構いませんよ。だって狐火ちゃんをのんびりモフモフできれば十分だもの。生活できるくらいのお金が稼げれば、それが私の目指すスローライフです!」
若菜さんが、さっきよりもさらに「残念な子」を見るような目で、深く、深〜くため息をついた。
「……はぁ。琴音さん、あなたはずっとこの六花の街にいるつもり? 私は嬉しいけれど、他の異邦人たちはどんどん次の街へ向かっているわよ。新しい冒険を探したり、まだ見ぬ新しい幻獣……例えば、もっとモフモフした珍しい子とか、群れで生活するモフモフとかを探しにね」
「……!!」
モフモフ。群れで生活するモフモフ。
その魔法の単語に、私の耳と、隣にいた狐火ちゃんの耳が同時に「ぴんっ!」と跳ねた気がした。
「隣の街やその先に行くには、険しい街道を通る必要があるけれど、そこには今の森よりも強い魔物がたくさんいるわ。今の琴音さんのままじゃ、辿り着く前にボロボロになっちゃう。護衛を雇うにしても、今のランクじゃお金も信用も足りないでしょ?」
「……はっ! そうだ、そうだったわね。狐火ちゃんだけでも世界一幸せだけど、この世界にいる他のモフモフ幻獣たちも保護して、撫で回さないと! 私の夢である『モフモフ・ハーレム』が完成しないじゃない! 若菜さん、大切なことに気づかせてくれてありがとう! 私、今すぐ次の街へ向かって出発してみます!」
「クゥーン!(いざ、新天地へ!)」
私は勢いよく踵を返し、狐火ちゃんと一緒にギルドの出口へ向かってダッシュしようとした。……が。
ガシッ!! と。
本日も絶好調な若菜さんの凄まじい握力が、背後から私の腕を万力のように掴んだ。
「ちょっと! 何、急に行こうとしてるのよ! ……いい? はっきり言うわよ、琴音さん。今のあなたの戦闘……いえ、絶望的な『操作能力』じゃ、隣の街に辿り着く前にボロボロになって詰むわ。間違いなく、100パーセントね」
「えぇっ!? そ、そんなにはっきりと……!?」
あまりにも容赦のない、そして的確すぎる宣告に。
私はギルドの受付カウンターの前で、カチンと石のように固まってしまったのだった。




