↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】八百万の幻獣物語 〜「ただモフモフしたいだけなんです!」愛とスキルを『モフモフ』に注ぎ込んだ戦闘力ゼロの社畜OL。懐かれすぎた神獣とのスローライフの裏で、今日もギルドが胃痛で泣いています〜  作者: 蒼葵美
【第5章】 愛着のオーバーフロー:生産ギルド編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/62

0051. 閑話:【若菜】会員証は大事なカードと裏の緊急連絡網

「ふふっ、見て見て狐火ちゃん。すっごく綺麗なカードをもらっちゃったわ」


夕暮れの六花の街。私は、アンネさんから「これさえあれば、生産ギルドの全設備が自由に使えるから……お願いだから、他の人には見せずに大事に持っていてね……」と拝むように渡されたカードを、指先で弄んで眺めていた。


(BGM:『誇らしげな帰路 〜陽気なマンドリン〜』開始)

※陽気なマンドリンの音色が弾む、軽快なカントリー調の楽曲。生産ギルドでの調合を「無事に(※運営的には大惨事)」終え、新しい会員証を手にホクホク顔でギルドへ戻る琴音のどこまでも能天気で誇らしげな足取りを象徴する日常BGM


「えーっと、なになに? カードの種別は……『虹光の零位(プリズム・ゼロ)』? アンネさん、随分と凝った名前を付けるのね。きっと、この虹色のカードに合わせた『特別記念デザイン』か何かかしら」


【System Analysis:当該オブジェクトは、生産ギルドにおける『測定不能な貢献』および『全権委任』を示す、唯一無二の称号です】

【System Warning:一般に公開されているランクを遥かに超越した、生産ギルド総本部長に次ぐシステム外の特異点を指すマスター権限(※現在:仮承認)です】


「『プリズム・ゼロ』なんて、なんだか最新の美容機器の名前みたいで可愛いわね。よし、これを『私は怪しい者じゃありません』っていう証拠にしましょう!」


「クゥ!(……ピカピカしてて美味しそうだな)」


---


「ただいま戻りました、若菜さん! 今日のスローライフの報告です!」


私はその足で冒険者ギルドへと向かった。

受付カウンターでは、若菜さんが「……あと数分……あと数分で今日の定時……私のご飯……」と、机を指で叩きながら祈るように虚空を見つめて呟いていた。


「あら、琴音さん。……その、生産ギルドの方はどうだったの?(※ギルド中が『旨味』の匂いで大惨事なのは知ってるけど)」


「はい! とっても親切にしてくれました。それでね、これをもらったんです。これがあれば、私、どこに行っても変な人だって疑われないですよね?」


私は、自信満々に虹色のクリスタルカード――『虹光の零位』をカウンターにコトン、と置いた。


(BGM:『静止する時間 〜砂時計の音だけが響く〜』開始)

※全ての楽器が消え、「サラサラ……」という砂時計の音だけが耳につく不気味な静寂。琴音が持ち込んだ「神話級」の痕跡や、生産ギルドから回ってきた異常な報告書を前に、若菜の思考が完全に停止し、世界の時間が止まったかのような絶望感を表現するサイレントBGM



「………………」


若菜さんの表情が、音もなく完全に凍りついた。

彼女は震える手でそのカードを手に取り、裏面に刻まれた『複数の支部長の緊急刻印』と『本部長次席・仮権限』の文字を確認した瞬間、白目を剥いて椅子から転げ落ちそうになった。


「……琴音さん。あなた、これ……自分が何をもらったか、アンネからちゃんと説明を受けた?」


「ええ! 『特別記念デザインの綺麗なカード』だって。キラキラしてて素敵ですよねぇ」


「キ、キラキラ……。そうね、そうかもね……ハハッ。もういいわ、今日は……。明日から、あなたのクエスト管理、私が徹底的に『調整(隔離)』するから。……お願いだから、今日はもうまっすぐお宿に帰りなさい。道草も食わないでね」


「はーい! 今日もお疲れ様でした、若菜さん!」


私は元気よく手を振り、狐火ちゃんと一緒に夕暮れのギルドを後にした。


---


■ 裏の緊急連絡網

カラン、とギルドのドアが閉まり、琴音の姿が完全に見えなくなった。

その瞬間、若菜さんはカウンターに「本日業務終了」の札をバンッ!と叩きつけ、猛ダッシュでギルドの奥にある絶対防音の『支部長室』へと駆け込み、極秘の通信魔具をひったくった。


(BGM:『緊急配備 〜緊迫のストリングス〜』開始)

※これまでのコメディ感を一変させる、心拍数を煽るような高音のストリングス(弦楽器)が鳴り響く緊迫の楽曲。もはや一受付嬢の手に負える事態ではないと判断した若菜が、関係するの有能NPCたちへ「特級ハザード(琴音)」の動向を共有し、組織的な監視体制を敷く「裏の顔」を映し出すスパイ映画風BGM


「アンネ!! 誰が『零位(ゼロ)』を渡せって言ったのよ!! あれ、生産ギルドの総本部長に次ぐレベルのとんでもない特権階級じゃない! あなたの一存で出せるものじゃないでしょ!?」


若菜さんの怒鳴り声に、通信機の向こうからアンネの悲鳴に近い反論が返ってくる。


『仕方ないでしょう! あのアーティファクトを隔離するには、彼女に「全権委任(プリズム・ゼロ)」の権限を持たせて、ギルドのシステム保護を強制起動するしかなかったのよ! もちろん本人には「ただの記念デザイン」って誤魔化して渡したわよ!』


『それに、あれはまだ「仮発行」よ! カードの裏面に私と、通信で泣きついた近隣の支部長たちの承認刻印を強引に集めて、緊急用としてシステムを通したの! 正式な認定にはいつか「本部の総本部長」から直接承認を受ける必要があるわ。でも、今はあのバケモノ素材を封印するのが最優先だったのよ!』


そこへ、鍛冶ギルドからバルガスの野太い声が割り込んできた。


『おい若菜、お前は六花ギルドの「支部長代理」だろうが! 実質的な責任者はお前なんだ。お嬢ちゃんの行動範囲をコントロールしねぇでどうする! 今日だけでどんだけ六花の平穏を脅かしてんだ!』


「無理に決まってるでしょう!!」


若菜さんは通信機を握りしめて涙目で叫び返した。


「あのヨルム支部長が働かないから、私が実質的にこの街の平和を背負わされてるのよ!? あの人、街にはいるくせに琴音さんのことになると『いやぁ、彼女は興味深いねぇ』とか言って笑ってるだけで、一ミリも役に立たないんだから!」


若菜さんは憤怒と胃痛に震えながら言葉を継ぐ。


「だいたい、まだ本人に『私が支部長代理よ』なんて肩書き、一言も言ってないのよ!? 彼女、私のこと『ちょっと面倒見のいい、親切な受付嬢のお姉さん』としか見てないんだから! 今さら『私がこの支部の実質的なトップよ、あなたのクエストを制限するわ』なんて、あのキラキラした無垢な目を見たら言えるわけないじゃない!!」


そこへ、ノイズ混じりの新たな通信が入った。


『……若菜、俺だ。もうダメだ、店は畳む。「本日廃業」の札を出した。俺は今日、神の怒りを見たんだ……。田舎に帰って畑を耕す……』


森の入り口の休憩所の主人、ルンドからの絶望に満ちた声だった。


「ルンド! スピード廃業なんて絶対に認めないわよ! 今すぐその札を剥がしてシャッターを開けなさい!!」


『な、なんだと!? なんで俺がそんな目に――』


「いい!? 彼女が明日、またあなたの店に寄るかもしれないのよ!? もし店が閉まってて、彼女が『あらお休み? じゃあ、もっと森の奥まで探検してみようかしら』なんて言い出したらどうなると思う!? 今度こそこのエリアの生態系が地図ごと消滅するわよ!! あなたの店が六花の街の最後の防波堤なのよ!!」


『……ッ!? そ、それは……(絶句)』


若菜さんはバァン!と机を叩き、通信網の全員に向けて力強く宣言した。


「いい、全員よく聞きなさい。彼女には絶対に『自分が世界の均衡を揺らしている規格外の存在だ』と気づかせてはダメ。彼女が『今日も平和なスローライフね』と笑っていられるように、我々が裏で死に物狂いで『平和』を捏造(ねつぞう)するのよ!!」


若菜さんの血を吐くような決死の指令が、夜の六花の街を駆け抜けた。

当の本人が、宿のふかふかのベッドで「明日のお昼ごはんは何にしようかしら」とのんびり狐火ちゃんの尻尾をブラッシングしていることなど、知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。