0033. グッズ作製の素材が足りない
「……よし、決めたぞお嬢ちゃん。この『古銀』の遺物6点、ただの生活魔導具にするには勿体ねぇ。久々に俺の職人魂が鳴るってもんだ」
工房の親方、バルガスさんは分厚い指で私の持ってきた遺物たちを愛おしそうに弄りながら、ニヤリと笑った。
「指輪、ネックレス、ブレスレット、ピアス、銀の櫛、そしてこの勾玉。この6点をそれぞれ連動させる。
1. ネックレスは子狐の首輪に。
2. ブレスレットはお嬢ちゃんの腕に。これで常に子狐の状態を把握し、魔力を安定供給する。
3. 指輪とピアスは、魔力の出力調整と……お嬢ちゃんの望む『快適グッズ』の機能を組み込む端末だ。
4. 銀の櫛は、魔力を通して毛並みを整える『究極のブラッシング魔導具』にしてやる。
5. そして、この規格外の魔力を秘めた謎の勾玉……こいつをすべての魔導具を繋ぐ『メインコア』にする!」
「えっと、メインコアって……何ですか? それがあると、どうなるんでしょう?」
私が首を傾げて質問すると、バルガスさんは得意げに鼻を鳴らした。
「簡単に言えば『司令塔』だ。お嬢ちゃんと小狐の魔力、感情、生体情報をこの勾玉が常に読み取って、他の5つのアクセに最適な配分で自動的に魔力を流すのさ。
例えば、小狐が『撫でてほしい』と思ったら自動で櫛がフワフワの極上モードになり、暑いと思ったら指輪とピアスが周囲に快適な空調魔法を展開する。……つまり、指一本動かさずに『完全フルオートの超快適空間』が作れるってことだ!」
「か、完全フルオートの快適空間……!!」
私の目が、かつてないほどギラギラと輝いた。
狐火ちゃんとお揃いのアクセサリーで、しかも最高級のモフモフ&全自動お世話機能付き。これこそ私の求めていた究極の理想のスローライフ・アイテムだ!
「親方さん、天才ですか!? 絶対に、絶対にそれでお願いします!!」
私がカウンターから身を乗り出して食い気味に叫ぶと、バルガスさんはそこでガリガリと頭を掻き、急に難しい顔になった。
「……だが、お嬢ちゃん。これだけの代物を作るにゃ、今のままじゃ圧倒的に『素材』が足りねぇ」
「えっ、素材ですか? この高品質な綿毛草だけじゃダメなんですか?」
「ああ。古銀は魔力の浸透率が高すぎる。その辺の安物の魔石じゃ、出力に耐えられずに一瞬で粉々に砕け散るぞ。最低でも『極めて純度の高い魔石』が4つ。それと、金属と布を馴染ませるための定着材として『森の主』クラスの魔物の液体が要る」
バルガスさんはさらに、羊皮紙のメモを一枚書きなぐって私に突きつけた。
「それとな、この古銀を加工するには、専用の『高濃度浄化溶媒』ってのが必要だ。これはウチのような細工工房じゃ作れねぇ。ギルドの裏手にある『生産ギルド』に行って、腕のいい調合師に発注してきな」
私は狐火ちゃんを抱き上げ、バルガスさんに渡されたリストを手に、教えられた生産ギルドへと足早に向かった。
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生産ギルドの受付で待っていたのは、白衣を着た、眼鏡の似合う知的な雰囲気の女性・アンネさんだった。
「いらっしゃいませ。……あら、あなたが琴音さん? 冒険者ギルドの若菜から話は聞いているわ。……で、今日は調合の依頼かしら?」
私はバルガスさんのリストと、素材の「古銀」、そして以前ゴミ処理の時にもらって少しだけ手元に残しておいた『神聖な灰(※国家最高機密)』をカウンターに出した。
アンネさんは事務的にチェックし始めたが、数秒後、その眼鏡が(ピキッ!)と嫌な音を立ててひび割れた。
「……ちょっと待ちなさい。このリスト、今の生産ギルドでまともに扱える人間なんていないわよ。特にこの『灰』……これ、何なの? 霊力が極限まで凝縮されていて、並の調合師が触れた瞬間に魔力酔いで卒倒するレベルなんだけど」
「えっ、そんなに……。誰か作れる方を待つことはできますか?」
「無理ね。このレシピと素材を扱えるレベルの宮廷調合師なんて、王都から呼び寄せても数ヶ月はかかるわ」
アンネさんの断言に、私はガックリと肩を落とした。
数ヶ月も待てない。狐火ちゃんとの『完全フルオートの至福空間』計画がそんなに先延ばしになるなんて、絶対に嫌だ!
「……あの、アンネさん。もし、私が自分でやると言ったら……ここの『調合室』、貸してもらえますか?」
「はぁ!? 正気なの? 初心者が手を出していい素材じゃないわよ! 爆発してギルドが吹き飛ぶわ!」
「でも、やってみたいんです! 図書室で本は読みました! 狐火ちゃんのブラッシング(快適空間)のために、どうしても今日、早く作りたいんです……!」
「ブラッシングのためにこの国家機密レベルの素材を!? ……あ、頭が痛い……」
私の謎の執念(モフモフへの情熱)と、絶対に引かない目ヂカラを前に、アンネさんは深く深くため息をついた。
「……分かったわ。私が横でマンツーマンで監視する。その代わり、少しでも危ないと思ったら強制終了させるわよ。いいわね?」
「はい! ありがとうございます、アンネさん!」
(BGM:『 レッツ・ミキシング!(※ただし素材は劇薬)』開始)
※理科の実験のようなコミカルな旋律の裏で、危険を知らせる警告音のような低音が密かに混ざる楽曲。お菓子作りのワクワク感と、いつ爆発してもおかしくない劇薬調合の緊張感がアンジャッシュ的に交差する。
私は狐火ちゃんを肩に乗せ、意気揚々と生産ギルドの奥にある特別調合室へと足を踏み入れた。
その後の数時間が、アンネさんの胃壁を若菜さん以上にボロボロにすることになるとは、この時の私はまだ気づいていなかったのである。




