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0026. 閑話:【カーター】『勇なる者』と豊穣の奇跡

「……はぁ。なんで、こんなことになったんだ」


オレ、カーターは、泥にまみれたクワを杖代わりに天を仰いだ。

目の前には、無惨に焼け焦げ、さらには琴音さんの薙刀の衝撃波でディープに掘り返された『穂波の村』の畑が広がっている。


「本当にすみません、カーターさん……」

「いや、もういいですよ……。それより、村長さんがこっちをずっと睨んでるのが一番キツいんで」


畑の端では、村長が般若のような顔でオレたちの復旧作業を監視している。

そんな時、琴音さんがインベントリから小さなガラス小瓶を取り出した。


「これ、先日ゴミ処理のお手伝いをした時にもらった『灰』なんです。虹色に光っていて綺麗だったので、全部渡さずに少しだけ手元に残しておいたんですよね。鑑定官の人が小声で何か言っていたのは聞き取れなかったんですが、なんだか『いいもの』らしい雰囲気だったので……。お詫びに、これ混ぜてみてもいいですか?」


「虹色の灰? ……まあ、好きにしろよ」


オレは適当に返事をした。琴音さんがその灰をパラパラと撒き、一生懸命に土を耕していく。すると、


(――チカッ!)


灰を混ぜた場所が、一瞬だけ七色に淡く発光した。

だが、それもほんの一瞬のこと。光が収まると、そこには栄養をたっぷり含んだような、生命力に満ちた深い黒色のふかふかな土が広がっていた。


「わぁ、すごく良い土になった気がします!」

「ああ……確かに、素人目に見ても野菜がよく育ちそうな土だな」


この時のオレは、「性能の良い肥料アイテムなんだな」くらいにしか思わなかった。まさかこれが、一晩で村の生態系を書き換えるような代物だとは夢にも思わずに。

その日は、ひとまず「これなら一週間あれば形になるな」と胸を撫で下ろし、オレたちは六花の街へ戻った。


---


翌朝。


「……な、なんだ? 何が起きてるんだ?」


再び村を訪れたオレたちは、入り口で立ち往生した。

村の中から、驚愕と歓喜が混ざったような、凄まじいどよめきが響いてくる。


「腰が……腰が軽いぞ! 十年来の重みが、嘘のようだ!」

「私もだよ! 階段を上がるのも辛かった膝が、スイスイ動くんだ!」


村の広場では、昨日まで腰を曲げて歩いていたはずの老人が背筋をピンと伸ばしてスクワットをし、足を引きずっていたはずの女性が小走りで収穫カゴを運んでいる。

完全に治癒したわけではないだろうが、明らかに「体の重荷」が取れたような、異常なまでに活気に満ち溢れた表情だ。


オレたちが困惑しながら昨日の畑に向かうと、そこには「白く輝く巨大な柱」が何本も、天に向かって突き出していた。


「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」


パルテノン神殿の柱かと思ったそれは、大根だった。

だが、オレの知っている大根じゃない。

一本一本が大木のように太く、内側から神々しい光を放っている。昨日はただの「良い感じの黒い土」だった場所が、一晩で巨大な聖なる作物の森に変わっていたのだ。


(BGM:『聖女降臨 〜農村オラトリオ〜』開始)

※のどかな農村にはおよそ似つかわしくない、壮大なパイプオルガンと神聖なコーラスが脳内に鳴り響く楽曲。破壊神から豊穣の女神へと認識が書き換わる、圧倒的な「勘違い」を祝福するオラトリオ。


「聖女様! おお、聖女様ぁ!!」


昨日まで般若の顔をしていた村長が、涙を流しながら琴音さんの足元に完璧なスライディング土下座を決めた。


「朝起きて畑を見たら、光り輝く巨大な柱がバキバキと音を立てて生え揃っておったのです! 試しに端っこを一口かじってみたら、五臓六腑に力が漲り、長年悩まされていた腰痛や膝の痛みが、すーっと引いていったのですよ! まるで十歳若返ったような気分だ!」


「ええっ!? い、いや、私はただ灰を混ぜただけで……!」


慌てふためく琴音さん。だが、村長は震える手でその巨大な大根を指差した。


「琴音様、カーター様……お願いがございます。この作物は、わしの知るどんな品種とも違います。これほどの霊力を持ったもの、ただの農村だけでは抱えきれませぬ。……どうか、これを六花のギルドへ持ち込み、鑑定してきてはいただけませぬか? これが一体何なのか、しかるべき機関に調べてほしいのです!」


【クエスト発生:未知の作物の鑑定(六花・ギルド本部)】

視界の端にシステムメッセージが流れる。

オレは、その光景を遠い目で眺めていた。

ふと横を見ると、無口3人組が、無言で、だが極めて敬虔な仕草で琴音さんに向かって十字を切って祈りを捧げていた。


(……おい。……お前ら、いつから彼女の狂信者になったんだ)


胃のあたりが、かつてないほど激しくキリキリと痛み出す。

「綺麗だから残しておいた」という適当な理由で撒いた灰が、一晩で村人の健康寿命を延ばし、国家レベルの重要案件(新種発見)を爆誕させてしまったお姉さん。


(若菜さん……。やっぱり、この人だけはオンラインゲームのパーティーに入れちゃダメなタイプの人(歩くバグ)ですよ……)


結局、罰ゲームの復旧作業は「奇跡の収穫作業」へと姿を変えた。オレたちは巨大な『柱(大根)』を荷馬車に積み込み、再び六花の街へと向かうことになったのである。

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