0027. 事後報告という名の爆弾投下
城塞都市『六花』の大きな門をくぐる際、見張りのNPC衛兵さんたちの目が完全に点になっていた。
それもそのはずだ。私たちが借りた馬車の荷台には、布で隠しきれないほど巨大で、しかも隙間から漏れ出す「神々しい光」が、夕暮れの石畳を不自然なほど明るく照らし出しているのだから。
「琴音さん……これ、本当にギルドに持ち込むんですよね? 冗談抜きで、国家間の紛争とか起きませんか、これ」
御者台で手綱を握るカーターさんの声は、今にも消え入りそうに震えている。
「大丈夫ですよ! 村長さんにもギルドへ持っていくように頼まれましたし、何より若菜さんに『畑の整地、終わりました!』って胸を張って報告したいですから!」
私の自信満々な答えに、カーターさんは「整地の概念が完全に書き換わってるんだよなぁ……」と小さく呟き、胃を押さえて沈黙した。
振り返ると、荷台に乗っている無口3人組(ドレットさん、バーニさん、ジルさん)は、もはや光る大根の柱に向かって静かに合掌している。すっかり熱心な信徒の顔つきだ。
ギルドの前に馬車を止めると、私は意気揚々と重厚な扉を開けた。
(BGM:『ギルドへの帰還 〜不穏な凱旋〜』開始)
※勇壮なファンファーレに、どう聞いても不協和音が混じった、なんとも言えない緊張感のあるメロディ。凱旋パレードのような華やかさの裏で、世界経済や平穏が音を立てて崩れていく不穏さを象徴する楽曲。
「若菜さ〜ん! ただいま戻りました!」
受付カウンターで顔を上げた若菜さんは、私の姿を見るなり、少し心配そうな、それでいて「今日はこれ以上やらかしてないわよね?」という探るような表情を見せた。
「おかえりなさい、琴音さん。……それで、昨日の今日だけど、畑の整地はちゃんと終わったのかしら? 村長さん、最初は相当怒ってたみたいだけど……」
「はい! バッチリです! 村の皆さんも、腰痛や膝の痛みが楽になったって、泣いて喜んでくれました!」
「……え? 腰痛? 畑の土を均して喜ばれたのよね?」
若菜さんの顔が引き攣る。当然だ、土をいじって村人の腰痛が治るわけがない。
「はい! あとこれ、村長さんからの預かり物なんです。整地した場所にできた……えっと、『ちょっと立派な冬早大根』なんですけど、鑑定してもらえますか?」
私はカーターさんと協力して(といっても、大半は物理特化の彼らに任せて)、布にぐるぐる巻きにされた巨大な物体をギルドのロビーへと運び込んだ。
ギルド内にいた他の冒険者たちも、「なんだなんだ? 柱か?」「光ってないか?」と野次馬のように集まってくる。
「……随分と大きいのね。冬早国の大根の突然変異かしら?」
若菜さんが怪訝そうに首を傾げながら、その布をバサリと取り払った。
「「「「………………!?」」」」
その瞬間、薄暗くなりかけていたギルド内が、真昼のような純白の光に包まれた。
現れたのは、大人の男が二人掛かりで抱えるほどの太さがある、白く輝く巨大な「大根の柱」。それは野菜というより、神殿に飾られる精巧な大理石の彫像のようだった。
「……なに、これ」
若菜さんの声が、微かに震える。
彼女は震える指先でその「柱」の表面を鑑定の魔導具でなぞった。すると、魔導具がかつてないほどの激しい警告音を鳴らし、(バチンッ!)と盛大に火花を散らしてショートしたのだ。
「……琴音さん。これ、どうやって作ったの?」
「え? 耕した土に、綺麗だったから少し手元に残しておいた『灰』を混ぜて一晩置いただけですよ?」
私が首を傾げて答えたその時、奥の事務室から、先日南街のゴミ処理の現場にいたあの気難しい鑑定官が、脱兎のごとき勢いで飛び出してきた。
「この波動……まさか! あの時、私がギルド本部に特急秘匿伝令で報告したはずの『神聖な灰(聖遺物)』を、こともあろうに農業の肥料に使ったのかぁぁぁ!!!」
鑑定官の血を吐くような絶叫がギルドに響き渡る。
「え? 神聖? ただのゴミを燃やした灰ですよね?」
私の呑気な問いかけに、鑑定官は白目を剥いて泡を吹き、その場に卒倒した。若菜さんはゆっくりと両手で顔を覆い、天を仰いだ。
「……琴音さん。あなた、国家最高機密級の霊力を、よりによって『大根』に変えたのね……。整地って……そういう意味じゃなかったのよ……」
「若菜さん? 顔色が悪いですよ? 良かったらこの大根、端っこを一口かじりますか? 五臓六腑に力が漲るって村長さんが……」
「……いらないわよ! そんな恐ろしいオーバードーズ大根、口にできるわけないでしょ!!」
ギルド内は一瞬にして阿鼻叫喚のパニックに陥った。
「神聖な大根だ!」「おい、あのパーティーのコネを何としても確保しろ!」
怒号と歓喜が渦巻く中、私は一人、不思議そうに首を傾げるしかなかった。
「狐火ちゃん、みんな大喜びだね。やっぱりお野菜の力ってすごいんだなぁ」
「クーゥ♪」
私の腕の中で、狐火ちゃんも誇らしげに九本の尻尾を振っている。
こうして、私の「初めてのチームクエスト(ペナルティ付き)」は、ギルドに巨大な衝撃(と若菜さんたちの深刻な胃痛)を残して、歴史的な「爆弾報告」として完結したのであった。




