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0024. 閑話:【カーター】村への移動と戦闘準備

ユミルさんに言われて待合スペースで待機していると、若菜さんに案内されて一人の女性プレイヤーがやってきた。


(……うわ、めちゃくちゃ綺麗な人だな)


それが、琴音さんを初めて見た時の率直な感想だった。

身長は170センチを優に超えているだろう。背が高く、すらりとしたモデルのようなスタイル。銀髪に大正ロマン風の和服を着こなす落ち着いた雰囲気は、学校のクラスにいる女子たちとは比べものにならないほど大人びて見えた。


「琴音です。チームクエは初めてなので、よろしくお願いします」

「初めまして。リーダーのカーターです。戦士をしています。……右が大剣使いのドレット、左が盾士のバーニ、最後に後ろにいるのが剣士のジルだ。よろしく」


緊張のあまり少し堅苦しい挨拶になってしまったが、彼女は優しく微笑んでくれた。背後の三人は案の定、長身の和風美人を前にして顔を真っ赤にし、完全にフリーズしている。


早速クエストの受注処理を済ませ、目的地へと向かう準備を整える。


「さて、移動手段ですが、ギルドの馬車を借りましょう。琴音さん、荷台に座られますか? それとも、御者台ぎょしゃだいで一緒に座られますか?」


内心では、この後の「惨劇(沈黙)」を予想して彼女を御者台に誘ってみたのだが、琴音さんは腕の中の小狐を撫でながら少し遠慮がちに「狐火ちゃんもいるので、荷台で大丈夫ですよ」と答えた。


(……あ、これ、琴音さんの精神(SAN値)が死ぬやつだ)


案の定、出発してからの3時間(ゲーム内時間)は地獄だった。

オレが御者台で馬を操る背後で、荷台からは一切の会話が聞こえてこない。ドレット、バーニ、ジルの三人は、美人の琴音さんを前にしていつも以上に強固な「石像化」を果たしている。

最初の15分ほどは琴音さんの気遣いに満ちた明るい声が聞こえていたが、それも次第に小さくなり、やがてカポカポという蹄の音だけが虚しく響くようになった。


(……ごめん、琴音さん。本当にごめん……!)


オレは心の中で土下座しながら、予定より少しでも早く着くように馬を走らせた。

時折「大丈夫?」と声をかけるたび、死んだ魚のような目で力なく頷く琴音さんの表情は、今思い出しても泣きたくなるほど申し訳ない。


ようやく目的地の『穂波ほなみの村』が見えてきた時、琴音さんは「救われた!」と言わんばかりの顔で馬車を降りた。


村に到着後、村長からリトルボアープの被害状況を聞く。

風車と水車が回るのどかな農村だが、畑の作物が森の奥から来る群れに食い荒らされているという。

準備を整え、森の境界線に立ったオレは、琴音さんに作戦を尋ねた。


「琴音さん、どうしますか?」

「そうですね……皆さんの幻獣も召喚しつつ、ギルドからもらったエサを撒いておびき寄せてみましょう」


彼女の提案に合わせ、ドレットたちが無言でそれぞれの相棒(使い魔)を出す。

そして、琴音さんもずっと腕の中に抱いていた小狐を、足元へと下ろした。


「……えっ?」


オレは思わず二度見した。

その小狐には、小さな体に不釣り合いなほど立派な、九つの白い尻尾がフサフサと揺れていたのだ。


(九尾……!? 待てよ、初日にギルドの掲示板のスレで見たあの噂……『六花の街でユニークランクの神格幻獣が召喚された』っていう……まさか、これか?)

(それに、ここ数日ギルドで変な噂も流れてたな。『南街のゴミ処理クエストで、ゴミを燃やしたらとんでもない灰が出てきて、神殿の連中まで巻き込む大騒ぎになった』とかいう……。まさか、あの狐の炎が原因……?)


オレの頭の中で、いくつかのとんでもない点と点が繋がりそうになる。

だが、目の前の琴音さんは初心者用の支給品である『薙刀』をいかにもおぼつかない手つきで握り、「大丈夫かなぁ」なんて不安そうに小狐を見守っている。


あんなに愛くるしくて小さな小狐が、本当に戦えるのか? ましてや、神殿をパニックに陥れるような凄い灰を生み出す炎を吐くわけがない。もしかして、ただの「九本尻尾があるだけの珍しい観賞用ペット」なんじゃないか?

首元に付いている鈴のようなアミュレットのせいか、特別なプレッシャー(威圧感)も一切感じない。


(いや……もし本当に上位神格の幻獣だとしたら、とんでもないことだぞ。……いやいや、あんな初心者っぽい人がそんなの連れてるわけないか。見間違いというか、似た別種だろ)


オレが自分に言い聞かせるように剣を抜き放った、その時。

森の奥から、ズシン、ズシンという地響きのような無数の足音が響いてきた。


「来ますよ。……全員、戦闘準備!」


オレは剣を構え、叫んだ。

この時まではまだ、隣にいる「長身のおしとやかな美人」と「可愛い小狐」が、この数分後に血も涙もない般若と化して、村の畑を灰塵に帰すなどとは、夢にも思っていなかったのである。

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