0022. 閑話:【カーター】冒険者登録とパーティー名
街の中は、日本史の授業で見たような明治や大正のレトロな懐かしさと、中世ヨーロッパのファンタジーが絶妙に混ざり合った、見事な『和魂洋才』の光景が広がっていた。
レンガ造りの建物に瓦屋根が乗り、魔力ガス灯の並ぶ石畳を歩くだけで、ゲーマーとしてのワクワク感が刺激される。グラフィックの作り込みはマジで覇権ゲーのそれだ。
そんな感動に浸りながらも、オレは背後の「三体の沈黙の石像」を引き連れて、冒険者ギルドの重厚な扉を開けた。
「すみません。四人とも、新規の冒険者登録をしたいのですが」
オレが受付に声をかけると、NPCの職員から登録書類を渡された。四人でテーブルに向かい、ペンを走らせる。書くべき項目は少なく、すぐに終わったが、問題はその後だ。
「それではカードへの本人登録を行います。カーターさん、こちらの水晶球に触れていただけますか」
言われるがままに手を置く。指紋や静脈認証、あるいはVRデバイスからの生体データの読み取りだろうか。ポゥ、と淡く光った後、完成した自分のカードが手渡された。
【冒険者カード】
所属:冬早国
名前:カーター
職業:見習い冒険者 Lv0
スキル:身体強化Lv0、剣術Lv0、採集(冬早)Lv0、火魔法Lv0
(おお、いかにも初期ステータスって感じだな。悪くない)
ドレット、バーニ、ジルも、順番に無言のまま登録を終えていく。特にトラブルもなく進んでいることに、オレは少しだけホッとした。
「よし、登録は終わったな。……なあ、このまま初クエストを受けてみないか? 初めてだし討伐系にするか、それとも安全に採取系にするか、どっちがいい?」
オレが何気なく問いかけると、三人は揃って、
「「「………………」」」
……返事がない。案の定、見事なまでの無言だ。
しまった。ついいつもの電脳部メンバーに話しかけるノリで、普通のコミュニケーション(多数決)を取ろうとしてしまった。
オレの脳内で、回復したはずのSAN値(正気度)が再びガリガリと削れる音が聞こえる。
「……特に希望がないなら、オレは討伐系に行きたいんだが。いいか?」
今度は三人揃って、コクコクと小刻みに頷いた。
どうやらこいつらは「自分で決めるのは無理だが、誰かが決めたことには素直に従う」というスタンスらしい。
こりゃあ、今後もオレが勝手に決めて動くしかないな。なんだか「俺様系の勘違いワンマンリーダー」みたいで嫌なんだが、背に腹は代えられない。
さて、クエストを受けようと依頼掲示板に向かおうとした時、職員に呼び止められた。
「お待ちください。パーティーでクエストを受注されるのなら、ギルドへの『パーティー名』の登録も必要です」
パーティー名……忘れていた。
本来の電脳部メンバーと一緒に使うはずだった名前をここで消費するわけにもいかない。どうするべきか。
(……みんな、何がいいと思う?)
オレは喉まで出かかったその言葉を、間一髪で飲み込んだ。危ない。そんなこと(パス)を出したら、返ってくるのは永遠の静寂と気まずさだけだ。これ以上、無駄なコミュニケーションコストでオレの胃壁とSAN値を削られてたまるか。
オレは必死に思考を巡らせた。
二ヶ月だけの仮のチームだ。凝った厨二病ネームを付けても痛いだけだし……。
チラリと背後を見る。そこには、大剣や大盾を背負った、見た目だけはいかにも屈強な前衛職(脳筋)の三人が、借りてきた猫のように背中を丸めて立っている。
……せめてゲームの中くらい、もっと勇敢に戦えよ。
そんな切実な願い(あるいは呪い)を込めて、オレはパッと思いついた名前を受付に告げた。
「パーティー名、決めたぞ。みんな前衛で勇敢に突っ込むって意味で、『勇なる者』。これでどうだ?」
三人は再び、無言で、だが力強くコクコクと頷いた。
こうして、名ばかりの『勇なる者』たちは、最初の一歩を踏み出した。
まさかこのパーティー名が、いずれ「(琴音という理不尽な天災による)胃痛に耐える、真の勇者たち」という意味にすり替わっていくことになるとは、この時のオレには知る由もなかったのである。




