0021. 閑話:【カーター】臨時のパーティー作り
オレはカーター。この和風VRMMO『八百幻』において、不本意ながらもパーティー『勇なる者』のリーダーをさせられている。
理由は単純。他のメンバーが全員「無口」で「人見知り」の極致だからだ。まともにNPCや他プレイヤーと対話ができる人間が、オレしかいないのである。
そもそも、なぜオレがこいつらと組んでいるのか。
リアルでのオレたちは、同じ高校の『電脳部』という名のVRMMO同好会のメンバーだ。
本当は別の気の合う連中と組んで、最前線で攻略組になる予定だった。だが、あいつらが学期末テストで赤点を連発しやがったせいで、顧問から「二ヶ月間のログイン禁止」という、ゲーマーにとっての死刑宣告を食らったのだ。
二ヶ月も待っていたら、攻略組から完全に取り残される。
仕方なく先行してキャラ育成を進めることにしたオレの前に、唯一余っていた「赤点回避組」として現れたのが……この三名だったというわけだ。
(BGM:『いざ往かん、勇なる者(※ただし会話はなし)』開始)
※ヒロイックでかっこいい「勇者のマーチ」調のファンファーレが鳴り響くが、メロディの裏で金管楽器がたまに「モゴモゴ……」と人見知りしてつっかえるような不器用なアレンジが施され、パーティーの絶望的なコミュニケーションコストを象徴する楽曲。
ログイン初日。城塞都市『六花』の初期スポーン地点で合流した際、オレは三人に声をかけた。
「カーターだ。戦士をするつもりだからよろしく。お前らは何にするんだ?」
沈黙。
三人は揃って地面のテクスチャを見つめるか、虚空(明後日の方向)を仰ぐかして、一向に視線を合わせてくれない。
「……ド……ドレ……ドレッド。大剣……使い」
「……バーニ、……盾士」(※蚊の鳴くような声。音量レベル1)
「…………ジル。…………剣士」
ドレッドは極度のどもり。バーニは静寂の中でしか聞き取れないささやき。ジルに至っては、単語一つを絞り出すのが限界。
同じクラスになって一年経つが、VR空間に入るとお前らの人見知りはさらに加速するのかよ。
「……お前ら、全員『前衛物理職』かよ」
てっきり、喋らなくて済む魔法職などの後衛を選ぶかと思っていたが、全員が武器を手に突っ込む「脳筋構成」だった。
まあ、敵のタゲ(ヘイト)を取るのに喋る必要はないが、それにしても回復役もいないなんてバランスが悪すぎる。
「あのなぁ、誰か答えてくれ。これから二ヶ月は一緒にやるんだぞ?」
再びの、重苦しい沈黙。
「……ご、ごめ……ごめんな……ごめんなさい」
「……ごめんなさい」(※さらに小さい音量レベル0.5)
「…………………………………………ごめんなさい」
謝罪のディレイ合唱。謝れるだけマシだが、オレの精神力(SAN値)は開始数分ですでに黄色信号だ。
「もういい……。とりあえず街に入って、冒険者ギルドで登録だ」
そこからの道のりも酷かった。
街に入るための入国チェック(NPC衛兵の質問)ですら、こいつらの返答が遅すぎて「怪しい奴ら」として別室送りにされた時は、本気でログアウトして勉強を始めようかと思った。
オレが必死にフォローすればするほど不審者扱いされ、最後にはオレも心が折れて黙り込むしかなくなるという地獄絵図。
ようやく街に入れた頃には、同好会の活動終了時間が迫っていた。
一日遅れのスタートで、この絶望的なコミュニケーションコスト。
「冒険者登録が終わったら、すぐに最初のクエストを受けるぞ。……喋らなくていいから、頷くだけにしてくれ。頼むから」
オレは引き攣った笑いを浮かべ、大正ロマン風の情緒あふれる『六花』の街並みを、無言の兵士たちを引き連れて歩き出した。
この時、オレはまだ知らなかった。
こいつらの沈黙よりも何倍も恐ろしい「般若の絶叫(極道薙刀乱舞)」を、いずれこの街の郊外で聞くことになるということを――。




