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0017. 初料理 for 狐火ちゃん

図書室で、迷った末にレシピ数の多い『初級者向けレシピ本』を銅貨2枚(約2000円)で購入した私は、ホクホク顔で若菜さんのもとへ戻った。


「若菜さん、レシピ本買いました!これから寮に戻って、狐火ちゃんに美味しい料理を作ってあげようと思います!」


私の宣言に、若菜さんは事務作業の手を止め、意外そうな顔で私を見た。

「えっ、琴音さん、あの寮で料理を作るの?……無理だと思うわよ。あそこの共同キッチンは、今や誰も使わなくなって半分物置と化しているし、みんな近くの安い食堂で済ませているんだから」


「えぇ、そんな……。せっかく市場で良い食材を買い込んだのに、これじゃあ狐火ちゃんのご飯が作れないじゃないですか!」


ショックのあまり、九本の尻尾と同じくらい肩を落とす私を見て、若菜さんは少しだけ困ったように眉を下げ、「……しょうがないわね」と苦笑を漏らした。


「昨日、うちのクラッガがとんでもない迷惑をかけたお詫びとして、特別にギルドの仮眠室に付いているキッチンを貸してあげるわ。あそこなら魔導コンロも調理器具も揃っているし、幻獣の子に料理を作るくらいなら十分よ」


「本当ですか!ありがとうございます、若菜さん!」


飛び上がって喜ぶ私に、若菜さんはしれっと指を一本立てて付け加えた。

「ただし、交換条件よ。明日は『南10番街』のゴミ処理を引き受けてちょうだい。あそこ、最近カラス代わりの魔鳥がゴミを散らかして、異臭がひどいのよね。私の家がある南12番街からギルドへの『通勤ルート』にあるから、毎朝目について本当に気が滅入るの」


(なるほど、通勤経路の清掃ね。若菜さん、私のことを『便利な高性能掃除機』だと思ってないかしら?まぁ、特別なキッチンを貸してもらえるなら、喜んでお掃除させていただきます!)


こうして私は、ギルド職員専用エリアにある清潔なキッチンへと案内された。


(BGM:『初めての「幻獣料理」』開始)

※お鍋がコトコト鳴る音や包丁がまな板を叩くトントンというリズムをパーカッションに組み込んだ、温かみのあるワルツ調のクッキングBGM。琴音の楽しげな鼻歌が重なるような、至福の日常曲。


今日作るメニューは、市場で手に入れたブロック肉を丁寧に包丁で叩いて作った『特製ミートボール』と、スモークサーモンの『フィッシュキッシュ』。そして、厚切りベーコンと八百屋で買った野菜をたっぷり煮込んだ『和魂洋才スープ』の三品だ。


【幻獣料理】スキルを発動させると、驚くほど手際よく包丁が動く。


「さあ、スープの仕上げに市場で見つけたこの『紅蓮香(辛味スパイス)』を隠し味に……」


焔属性である彼女のために、ピリッとした刺激を加えて味を調えていく。ふわりと、食欲をそそる香ばしいお肉とスープの匂いがキッチンに充満した。


「クゥ、クゥー!」

キッチンの足元で、狐火ちゃんが期待に満ちた瞳で見上げてくる。

その九本の尻尾は、まるで軽快なピアノ協奏曲(コンチェルト)を奏でるピアニストの指先のように、滑らかに、そしてリズミカルに波打っていた。


その時、ふと背後に「視線」を感じて、私は窓の外に目を向けた。


(シュバッ……!)


純白の雪の上を、飛ぶようにして滑る小さな影があった。

体長30センチほど。鎌鼬かまいたちのようにしなやかな体に、銀色の小さな鎧を纏った小獣――図鑑で読んだばかりの『イタチ・ヴァルキリー』だ!


その子は窓のすぐ外で立ち止まり、ガラス越しにこちらをじっと見つめていた。

鎧の隙間から覗く小さな鼻をヒクヒクさせ、換気口から漏れ出す和魂洋才スープの芳醇な匂いを必死に嗅いでいる。


「あら、あなたもお腹が空いているの?良かったら一口……」

私がそっと窓に近づくと、その子は驚いたように雪を蹴り、氷雪の刃をきらめかせながら一瞬で銀世界の中へと消えてしまった。


「……すばしっこい子ね。いつかあの子にも、私の料理をお腹いっぱい食べさせてあげたいな」


名残惜しさを感じながらも、私は完成したばかりの熱々な料理を器に盛り付けた。


「さあ、狐火ちゃん。お待たせ、私たちの『初料理』だよ。召し上がれ!」

「クーゥッ!!」


狐火ちゃんは目を輝かせ、私の作った料理をそれはそれは美味しそうに頬張り始めた。

幸せそうにモフモフの頬を動かして食べる姿を見て、私の心は至福の満足感で満たされていく。


……が、そこでふと、お腹から盛大な音が鳴った。

「あ。……狐火ちゃんの分に全力になりすぎて、自分の分、作るの忘れてた」


目の前で極上のフルコースを夢中で食べる神獣の横で、私は一人、空腹の虫と戦う羽目になった。

これもまた、スローライフの醍醐味(?)なのだろうか。


私は明日こそ自分も美味しいものを食べようと心に誓い、心地よい疲れと共にログアウト(就寝)するのだった。

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