0013. 初ソロクエ feat.狐火ちゃん
「ありがとうございます。それじゃ、行ってきます!」
若菜さんに見送られ、私は期待に胸を膨らませて南12番街へと向かった。南12番街は、合掌造りのロッジが立ち並ぶ、静かで雰囲気の良い住宅街だった。目的の広場に着くと、そこには高さ2メートルほどの「祭りの名残」であるゴミの山が、不格好にいくつか鎮座していた。
まずは仕事の基本、受付からだ。私は周りを見渡し、近くにいた受付担当のおじさんに『依頼受理票』を提示した。
「あの、冒険者ギルドから来ました。ゴミの焼却処理をお願いしたくて」
「ああ、新人さんだね。そこに積んである山を3つ、綺麗に燃やして灰を指定の場所に運んでくれれば完了だ。4つ目からはボーナスが出るよ。……ま、臭いがきついから無理せんでな」
おじさんの忠告に頷き、私は狐火ちゃんと共にゴミ山の一つへ歩み寄った。
「さてと、狐火ちゃん。ここにあるゴミを燃やしたいんだけど、なにかできるかな?」
私がしゃがんで視線を合わせると、狐火ちゃんは「任せて!」と言わんばかりにドヤ顔で九本の尻尾をふわりと広げた。そして、トコトコとゴミ山に向かって小さな前足を踏み出した。
(BGM:挿入歌『浄界の焔〜ゴミ山だって神殿になる〜』開始)
※別名『狐火ちゃんとゴミを焼却する』。最初は単調な作業用BGMからスタートし、焔が放たれた瞬間にパイプオルガンやハープが鳴り響き、後光が差すような「無駄に神聖な浄化曲」へと豹変するアンジャッシュBGM。
ゆったりとしたハープとパイプオルガンの旋律が、広場の空気を一変させる。
(――『焔壁』!)
その瞬間だった。狐火ちゃんの体から、透明感のある真紅の炎が立方体の形に展開され、ゴミ山を優しく包み込んだ。不浄なものを燃やすのではなく、「この世から洗い流して(クレンジングして)」いくかのように、神々しい光を放っている。
「えっ……なにこの音楽?しかも、いい匂い……?」
通常、ゴミを燃やせば嫌な臭いがするものだが、漂ってきたのは「高級なお香」のような、清涼感のある神聖な香りだった。
通りがかった住民たちが足を止め、「おお……」「なんと神々しい……」と、ゴミ処理を眺めているとは思えない表情で手を合わせ、跪き始めた。
「ちょっと、狐火ちゃん?ただのゴミ焼きなんだけど、演出が凄すぎない?」
(AI・ファイ0027の秘匿ログ:警告。個体名『狐火』の【焔属性】が留まることを知らない溺愛を受けたため、対象物の不浄成分を完全分解。副産物として『神聖な灰』が生成されました)
燃え尽きた後に残ったのは、本来の黒い灰ではなく、虹色の粒子が混ざったような、さらさらとした美しい白銀の灰だった。
「わぁ、綺麗……。これ、本当に『灰』なの?」
何の効果があるのかは全くわからないが、とりあえず捨ててしまうのは勿体ない。私は4つの山をすべてこの「クリーン焼却」で片付け、インベントリにその虹色の灰を詰め込み、先ほど指定された灰の投棄場所へと向かった。
そこには、灰を回収・管理している専門の職員がいた。
「すみません。ゴミを燃やした灰を持ってきたのですが、ここに置けばいいですか?」
「ああ、そこに出して……って、な、なんだこの光はぁぁぁ!?」
私がインベントリから灰を取り出した瞬間、職員が「ヒッ……!?」と短い悲鳴を上げて腰を抜かした。驚く私をよそに、職員は奥から眼鏡をかけた気難しそうな年配の鑑定官を呼んできた。
鑑定官は私の持ってきた虹色の灰を一目見るなり、絶句して固まった後、
彼は私に背を向け、職員と額を突き合わせて、ボソボソと消え入りそうな小声で密談を始めた。
(……おい、馬鹿な、ゴミからこれほどの純度が……)
(……まさか、おい、これは『灰』ではない。神殿の聖火台に納める『神聖な灰』では……?)
(……しっ!本人に聞かれるな!これはギルド本部へ極秘伝令だ……今すぐ回収班を呼べ!!)
「あのー?何か問題ありました?燃やし方、足りなかったですか?」
私が声をかけると、二人はビクッ!と肩を揺らし、脂汗を流しながら振り返った。
「い、いえっ!滅相もございません!完璧でございます!素晴らしい灰です!!」
「あ、それなら良かったです。じゃあ、これ置いときますね」
私が呑気に灰を置くと、広場の入り口で私を送り出した受付のおじさんが、なぜか震える手で6つのアクセサリー、グッズを私に差し出してきた。
「あ、あの……これは、ほんの気持ち……いえ、『感謝の印』でございます!どうかお納めください!」
「え、いいんですか?ラッキー!ありがとうございます!」
もらえるものはもらっておく主義だ。私は腕輪やネックレスなどを受け取った。
……若菜さんの言っていた「4〜5個のオマケ」って、これのことかな?ちょっと豪華すぎる気がするけど、ゴミ捨て場にあったならラッキーだ。
なぜか拝むように私を見送る職員たちを背に、ギルドへと戻った。
――ギルドに戻り、若菜さんに報告すると、案の定、彼女は死んだような目をしていた。
「若菜さ〜ん、無事に終わりました!指定の場所に灰を置いたら、なぜかみんな妙にソワソワしちゃって」
「……お疲れ様。現場の鑑定班から頭の痛い特急伝令が届いたところよ。……琴音さん、あなた、もう二度と『ただのゴミ焼き』だなんて言わないでね」
若菜さんは力なく笑いながら、報酬(銀貨1枚と銅貨6枚)を渡してくれた。
「狐火ちゃん、お疲れ様!お揃いのアクセサリー、あとでつけようね!」
私の腕の中で、満足そうに「クーゥ!」と鳴く狐火ちゃん。初めてのソロクエストは、本人の知らないところでギルド上層部を大パニックに陥れつつ、大成功で幕を閉じたのであった。




