0012. 初ソロクエは押し切られた受注
「それで若菜さん、オススメの街中依頼って何かあります?」
私は、先ほど受け取ったばかりの『初心者用・薙刀』を背負い直しながら尋ねた。本当は持ちたくないけれど、護身用だ。
若菜さんは、相変わらず猛烈なスピードでホログラムウィンドウを操作しながら、チラリと私に視線を向けた
「その耐性と適応力、スルー力すごいわね。うちのバカ支部長と同じようね。まぁ、いいわ。今ある街中依頼でオススメは、ゴミの焼却処理ね。狐火ちゃんは炎属性でしょう」
「うーん、一番最初の依頼がゴミの焼却処理って、ちょっとスローライフの始まりとしては華がない気がします。それに狐火ちゃんの属性は炎属性じゃなくて、『焔属性』ですよ。似てるようですが、違うんじゃないですか?」
「えっ、焔属性なの……?まぁ、正三位だし当然か……。もう上位属性じゃない」
若菜さんが少しだけこめかみを押さえて、驚きの声を漏らした。
「上位属性ってなんだろう。まぁ、言葉からして、炎とか水とか風とかよくある属性が一般的な属性で、それが進化すると上位属性になるってことなのかな」
「そうよ。炎の強化で『焔』、水の強化で『氷雪』、風の多属性で『琥珀風』なんかが有名ね」
「へぇ、いろんな属性があるんですね。まぁ、うちの狐火ちゃんだったら、上位属性でも不思議じゃないですね。こんなにカワイイんですもん」
私が狐火ちゃんを撫でながら胸を張ると、若菜さんは「可愛さと上位属性の強さは、本来イコールじゃないんだけど……」とボソッと呟いていたが、聞こえないふりをしておく。
「……はぁ。そんな上位属性の幻獣にゴミ焼きをさせるのは気が引けるけど、じゃあ、なおさらゴミ処理が合うと思うわよ。火力が違うもの。ねぇ、ぜひお願い。これを放置すると街の衛生環境が悪化して、可愛い狐火ちゃんの散歩コースも臭くなってしまうわ。それに、今すぐ処分しないと腐敗して大変なことになる場所があるの。ねっ、お願い。やってくれるわね?」
若菜さんが拝むようにして頼み込んできた。
衛生環境が悪化するなら、まぁ、やりますよ。狐火ちゃんとお散歩してて、街が臭いのは言語道断だし。狐火ちゃんの美しい毛並みにゴミの臭いがつくのは耐えられない。
「わかりました。やりますよ。でも、何か良いものが出てきたら、報酬でくださいよ。ギルド側から強く勧められてやる依頼になるんですから」
ここは少しでも報酬を上げてもらったり、オマケをもらえるように交渉してみるのが大事だよね。スローライフには先立つものが必要なのだ。
「ありがとうね~!ゴミ処理してくれるなら、『南12番街』のゴミ処理を受け付けてもらえると助かるわ。私の家の近くだから。先日のお祭りのゴミが山積みで、窓を開けるのも一苦労なの。」
「えっ、若菜さんの家の近く?」
「ええ。南街は合掌造りやロッジが並ぶ閑静な住宅街なんだけど、あの辺りの広場に祭りのゴミが結構溜まっちゃってて」
それにしても、焼却してほしいゴミの場所が自宅近くとは。若菜さん、しれっと公私混同をしてるわね。まぁ、ここではそんなのを気にしている人はいないのかもしれないけど。
「それとゴミ処理で何か出て来て、ほしいモノがあったら、持ってきてくださいね。一応、祭り主催側のゴミ処理担当に確認しますから。でも、たくさん持ってこないでくださいね。多くても4-5個ぐらいなら、オマケに付けてあげれると思いますよ」
おぉ~、やったね。オマケを4-5個もらえるようになったよ。
「それじゃぁ、このままゴミ処理に行っていいですか?」
「ちょっと待ってね。街中依頼の受注処理をするから。それと南12番街って、場所わかる?地図も用意するからね」
「あっ、ありがとうございます。場所、わからなかったです。助かりました」
若菜さんが持ってきてくれた地図を受け取り、南12番街を確認する。
どうやら、冒険者ギルドのあるここは「中央5番街」というらしい。南12番街は南門の近くになっているから、歩くと20-30分くらいかな。
「若菜さん、確認し忘れてましたが、達成条件と報酬はいくらですか?」
いけない、浮かれすぎていた。金額とゴールを確認しないで仕事を受けるなんて、社会人失格だぁ。
「達成条件は、基本と成果があるわよ。基本はゴミの山を3つ分焼却して、灰を『飼料穴』に入れること。4つ目以上は成果として追加計算されるわ。報酬は、基本で銀貨1枚。成果は山一つで銅貨3枚よ」
「銀貨1枚……ええと、それってどれくらいの価値なんですか?美味しいものがお腹いっぱい食べられるくらい?」
元・社畜としては、この世界の金銭感覚を早めに掴んでおきたい。私の質問に、若菜さんは指を折って数えながら教えてくれた。
「そうねぇ、この街だと、銅貨1枚で安食堂の定食が食べられるくらいよ。大鉄貨1枚ならちょっと豪華な買い食いができるわね。銀貨1枚なら、新人が受ける街中依頼としてはかなりの破格よ。定食10回分、安い宿なら素泊まりで数日は泊まれる価値があるわ」
(なるほど。銅貨が1000円、銀貨が1万円って感覚かな。基本給1万円で、追加1山につき3000円のボーナス……。ゴミ焼きバイトとしては、かなり割が良いわね!)
「よし、相場はわかりました。狐火ちゃん、初めてのソロクエスト、張り切ってゴミを燃やしに行きましょう!」
「きゅうっ!!」
狐火ちゃんはやる気満々で尻尾を振り、私の腕の中で可愛く鳴いた。
私たちは、公私の混じった若菜さんの切実な祈りを背負い、賑やかな中央通りへと踏み出した。




