セキュリティーカメラ
研究室の会議スペースでリコとユマ教授はステーション内で発生した男性の失踪事件について会話を続けている
「そもそも、共用スペースであればセキュリティーカメラありますよね」
「え? いまさらな発言だね」
ユマ教授は少し驚きつつも気の抜けた冗談を聞いたように口もとを緩めた。
確かにいまさらだ。
そもそもステーション内はさまざまなところにセキュリティーカメラが設置されている。これには様々な理由があるが、その理由のひとつがステーション内での一定以上の重量物の移動を管理下に置き、制限するためだ。
居住区に疑似重力を発生させるため、洗濯機の脱水のようにステーションは回転している。ステーション全体が巨大な遠心分離器のようなものだ。
この回転体の重量のバランスが崩れたらステーション全体が異常振動し、大きな事故につながる。
そんなことがないように、ステーション内の質量の配置はリアルタイムでセンシングされているのだ。
今回の失踪事件でも当然、ステーション管理局はカメラ映像をチェックしたのであろう。
それでもまだ行方が分かっていないということは、第一居住区の共用部分を出入りするカメラには不審な人物の映像は無かったということなのだ。
「不審な人物は映っていなかったということですよね」
「リコ、不審な人物ってのは、どう定義する?」
「定義……ですか? もし他殺であれば凶器を持った血まみれの殺人鬼に見えるとか、他人の目を気にして必要以上にキョロキョロと周りを見ている人が不審人物です」
「そうだね。そこまであからさまに不審な人物であれば、カメラの映像ですぐに分かるから犯人は捕まっているだろうね。ただ今回はそこで検挙されていない。つまり不審じゃない人しかカメラには映っていなかった」
教授は当たり前のことを会話の途中に楔のように打ち込んで、少しずつ条件を絞り込んでいる。
「えっと、つまり犯人は血まみれでもなく凶器も持っていない人の中にいるってことですねー」
私は座っていた椅子の背もたれに寄り掛かり、天井を見上げるようにして少しため息交じりに言う。結局、カメラの映像では分からないのかと思う。
「凶器は手荷物に隠して移動すればカメラに映らないね。返り血はまあ拭くなり掃除して着替えれば、これも手荷物に汚れた物を隠して移動できるね。そもそも他殺した方法も分からないから、返り血を浴びているかどうかも分からないけど」
深夜で少し眠くなり疲労を感じてきた私とは対極的に、教授はやや早口気味で語っている。
長いこと研究職をしていると、今のようにいろいろ考える思考の肉体労働には耐性があるんだろう。
彼女はいつの間にか椅子から立ち上がり、机の周りをゆっくり歩きながら話を続ける。
「ただ、死体。管理局はそれなりにちゃんと捜査をしたと思う。それを考えるとやはりこれは被害者の男性が失踪した第一居住区の区画内に留めて隠しておくのは難しすぎるだろう。どうにかして死体を移動させる必要がある。これが面倒だよね」
彼女はこういうとピタリと歩くのをやめて私の方に向き直り、スッと右手をこちらに向ける。
明らかに『はい、どうぞ』と私に続きを言わせたいんだろう。
「面倒ですけど、例えば犯人は被害者を殺して死体を持ち出す際に重量センサーで質量の移動が感知されないように事前に死体と同じ重さの荷物を持って第一居住区に入り、その重りと死体を取り換えて運び出せば、不可能ではないですね」
「そう、その通り!」
嬉しそうに言うユマ教授は、研究で問題を解決するための意見を出し合うブレストの時のように少しテンションが高めだ。
「それなら大きな荷物を持った犯人が移動する姿が映っているはずですよね」
「そもそも、管理局も同じことを考えただろうからセキュリティ―カメラの映像で、ある程度の大きさのカバンやバッグ、箱などを持っている人物には聞き込みや調査を書けたと思うよ」
「それがあればすぐに事件は解決しているはずですから、そうじゃないんですよね」
うーん、結局、解決の糸口は見つからないのか。なぞは深まる。。。




