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リコの推理と一人、椅子残り

結局、ゼミが失踪事件の雑談に終始して時間切れとなった。

研究室のメンバーが解散する中、リコはユマ教授に引き留められた……

13


「リコ君は残ってくれる? 融合炉の設計とシミュレーション結果について会話したくて」


ゼミの終わりに私はユマ教授から声をかけられた。

「あ……はーい、わかりましたぁ」


ほかのメンバーはバーチャル環境の会議室から退出し、そして消えていった。

会議机に残された椅子も退出者と一緒に自動的に消えてゆき、最後にはリコの椅子一つになった。


「はぁ。これじゃ私一人、居残りみたいじゃないですか。居残り……いや、椅子残りか。ふふっ」


言葉遊びをしながら私は残った一脚の椅子に座り、机の上に置かれた設計図を覗き込む。

夕方に教授と話した核融合炉の設計図だ。

以前の物から少し修正が加えられていて、その動作シミュレーション結果のグラフもつけられていた。


「再計算した結果も概ね問題なさそうだよ。今、精度を最高レベルで設定してシミュレーションのジョブを投入しているから、明日の朝には結果が分かると思う」


「でも、よく夕方の話からすぐに炉の外の励磁コイル設計の変更点を絞り込みましたね。すごいです」


「そりゃ、君が生まれる前から似たようなことを研究しているからね。きっかけが分かれば早いよ」


ユマ教授は設計図のクロスチェックを早々に終えることができたので安心した顔をしていた。

彼女も会議室の隅に(そな)え付けられた事務机の椅子に座って、大きく「フゥゥ……」と息を吐いた。


「教授、話は変わりますけど、エリック、何か最近あったんですかね」


急に振られた話題に彼女は一呼吸置いてから、こちらに視線を向けた。


「何かって、なに? なんか変だった?」


「いえ、ハッキリとは言えないんですけど、ほら今日のゼミでも。普段はそんなに積極的に話すタイプじゃないのに、失踪事件のことを笑顔で『自殺じゃない?』ってズバッと言っていましたし……」


私は自分の考えを整理しようとした。

いつものことだが、まず最初に来るのが直感なのだ。

理由はわからない。でも何か変だ、何か違和感がある。

でもなぜその違和感を感じているのかに気が付くのは遅いのだ。


「まあ確かにいつもよりはよく発言したね。あれは結構大きな事件だから興味あったんじゃないの? あと確かにずっと笑ってたね。あれはただのアバターの故障じゃないの?」


教授もエリックの顔の違和感には気づいていたが、さほど気にしていないようだ。

バーチャル環境のアバターなんてものはユーザーの持っているデバイスや環境によって表現に幅が出る。

よくあることだ。

当然、エリックの端末の顔検知カメラが壊れていたり、そもそもカメラをオフにしていたら彼のアバターも標準の笑顔で固定されることになるだろう。

当たり前すぎて、教授はその点についておかしいとは感じなかったらしい。


「それよりもリコ、他殺説だよ。そっちの方が興味深いでしょう。確かにあり得るけど、死体なんて現場に残していたらすぐに見つかっちゃうじゃない。普通は死体の処理をするでしょう。でもそのままにしておくことなんてある?」


「普通は人を殺しませんし、死体の処理もしませんよ。全然普通じゃありません。それに今回は失踪した人が結局見つかっていないので他殺の犯人がうまいこと隠した可能性もあれば、自殺した本人がうまいことやった可能性もありますよ」


「ふっ、それもそっか」


教授は肩を揺らして笑った。慣れた手付きで死体を処理する場面を想像して、それが可笑しかったのかもしれない。


「教授、そもそも死体の処理に関しては自殺の方もおかしいですよ。死んだら動けません。自殺した人は自分の死体を見つからないように隠すことなんてできないじゃないですか」


「それはこう、自動でバラバラにして第一居住区にある機械の隙間とかに詰め込めば……」

彼女は両手で空中をつかんで見えない粘土を()ねて千切(ちぎ)って何かに詰め込むようなゼスチャをした。


「相当無理がありますよ。現場はかなり汚れるでしょうし、そもそも失踪した第一居住区の定期点検や失踪事件の捜査で異常があれば見つかるはずですよ」


「自殺なら、そもそもなんで見つからないようにしたんだろうな。他殺なら、犯人が逃げるために犯行の発覚を遅らせるという意味で死体を隠すことはあり得るね」


「オウ博士が言っていましたが『なぜ』という動機は本人でなければ分かりませんね。死にたい人だったら世界から消えたいと思って自分の死体を残したくない、発見されたくもないと思うのはあり得るかもですし」


「じゃあ結局、この失踪事件。自殺か他殺か、そのどちらかもまだ絞り込めないのか」


「いえ、もし自殺の線で死体が見つからないという状況が今言った自殺者本人の『世界から消えたい』からきているのであれば、その最も簡単な方法が除外されているのであり得ません」


「あり得ない? ……あぁ、そうか、人知れず自殺して消えるならば、バラストエリアに出てステーション外に出ればいいだけだね」


「そうです。ただ今回は質量センサーの変化がない、つまり第一居住区から出ていないように見えているんです。そうすると死んだ自分の体の処理の難易度は上がりますよね」


「つまり今回の事件は他殺の可能性がやっぱり高くて、しかも犯人は死体が見つからないように第一居住区に死体を隠しているんだな。確かにリコの推理には違和感ないね」


ゼミの居残りで事件の推理をする私だが、結局私はいつ練れるんだろうという考えもだんだん出てきた。


そんな平日深夜二十三時三十分。


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― 新着の感想 ―
ああ、そうか。 質量センサーがあって、その質量が変わってないから死体は居住区のどこかにあるって事になるのかぁ〜 外から同じ質量分のモノ持ち込んで入れ替えたとか? 今は使われてない場所あるなら外の方…
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