44話:シスターコンプレックス
加奈穂は、とても姉さんに懐いていた。いつも「紀乃お姉ちゃん」と呼んで、くっついていた。今思えば、加奈穂の少々困った考えなしの行動力は、姉さんから引き継いだものなのかもしれない。さて、そんなことを考えるのは、中断して、目の前の現実を直視しよう。まず、俺と姉さんの関係は、会話と名前から分かったはず。そして、俺とこの学校で初めて会ったはずの加奈穂と姉さんが知り合いということが分かってしまった。さて、ここで、一番注意すべきは、俺が、加奈穂の幼馴染の「みやくん」にそっくりだということを知っている生徒会のメンバー、周と生徒会長。その上、周は、俺がシスコンと蔑まれるほどに姉さんのことを語っている。いろいろ教えたが、それを覚えてないことを祈りたい。ようは、もう気づいているであろう加奈穂は置いておいて、周が、親友と「みやくん」が同一人物であることを喫茶店で知っている以上、俺が親友であることを覚らないようにしなくてはならない。一体どうやって、この観衆を欺くか。
「紀乃さんと会うのって、本当に久しぶりです。わたしが引っ越す前だから」
余計なことを言い出す加奈穂のせいで、誤魔化しにくくなる前に、どうにかしなくては。
「って、姉さん?!」
俺が、どうにか誤魔化そうとした直前に、姉さんは、周の元に移動する。
「そのネックレス、よくお似合いね」
もしかして、と、藍の方を向く。藍が、ちょっと苦笑をしている。まさか、とは思ったが、藍が、俺と周の関係を事前に教えていたらしい。
「大事にしてね、弟からのプレゼント」
一瞬、聞き取れた。まずい。姉さんの奴、ばらしやがった。キョトンとする周は、見る見るうちに、顔を青くする。そして、真相に行き着いたらしい。姉さんは、無駄に被害を増やす天才だ。相変わらず。
「相変わらずですね、姉さん」
溜息混じりに言うと、姉さんは、にやりと猫のように、目を細めて、明るく楽しそうに言い放った。
「うん。だって、後片付けは、全部信也がやってくれるじゃない」
「ええ、散らかす分には一向に構いませんよ。でも、無駄に被害を拡大させないでくださいよ。それに関しては、天才的なんですから」
「褒めても何もないよ?それともハグでもする?」
「褒めてないです!」
そんな会話に、周りの意識が集中しているのが分かる。それと同時に、周囲で、ボソボソと「漣、なんて不憫な」や「散らかす分には構わないって、シスコン?」など、不本意ながら、色々と話が出ているようだ。
「と言うわけで、早速、今日の放課後、あたしの新しい部屋の片付け手伝ってね」
笑顔で、にこやかに、俺に押し付ける。
「手伝ってじゃなくて、やっといての間違いでしょ。別にいいけど」
溜息混じりに、言い返すと、周が、ボソリと、呟く。
「相変わらずのシスコンめ、死ねばいいのに、それと死ねばいいのに」
恐ろしい。聞こえてないほうがよかった。恐怖。一瞬見えた、周の笑顔が、異様に怖い。ああ、とんでもないことになってきた。




