45話:自分のこと
姉さんの紹介を兼ねたHRは無事とはいえないが終了した。クラスメイトの同情の目が辛い。ついでに、周の目が怖い。
「って姉さん?!」
姉さんは、急に花瓶を持ったかと思うと、「水変えよう」と呟いて、そして、落とす。
「きゃ」
俺がぎりぎりのところで滑り込んで花瓶も花も、中の水も一切無事ですんだ。
「ごめん、落としちゃった」
「まったく気をつけてください」
そして、授業の合間にも、財布をぶちまけたり、バインダー式のノートが新しいのを閉じようとして全てばら撒かれたりと気が休まらなかった。そして、全て俺が後片付けをする。相変わらず、姉さんは姉さんだ。しかし、忘れてはならない。この人は《真海》という名で《死の結晶》という犯罪グループに所属しているのだから。それに、ここに配属されたのだって、《死の結晶》で何かを企んでいるからに違いないのだ。だから、警戒は怠れないのだが、姉さんといると俺の気が緩んでしまう。
そんな風にボーっと姉さんのことを考えていると、昼休みに、急に廊下が騒がしくなった。どんどんこちらへそのざわめきが近づいてくるように思える。
「あ、信也君~!」
お嬢様だった。それは、廊下が騒がしくなるだろう。この人が、何のようだろうか。
「どうかしましたか、おじょ…じゃなかった。静刃先輩」
「ううん、久々に来れたから」
楽しそうに、こちらに近寄ってくる。瞬間、姉さんの目が細まった。
「朱野宮?」
そう、静かに呟くのが聞こえた。俺は、警戒しながら、お嬢様と他愛無い話をしたのだった。
「なあ、信也、お前って朱野宮先輩と、し、し、し、知り合いなのか」
興奮した口調で賢斗が聞いてくる。俺は、そっけなく、「ああ」とだけ返す。
「お前って、案外凄いよな」
「そんなことはないと思うが」
「あのねぇ、信也ぁ。貴方は、自分の特殊性を理解したほうがいいわよぉ」
姉さんは謎の発言をする。特殊って言ったところで、俺には銃くらいしかないのだから。
「特にあなた自身じゃなくて周りがね」
周り、確かに異常な人はいるな。格闘馬鹿の咲耶とお金持ちのお嬢様、気持ち悪い賢斗、猫かぶりの周、《死の結晶》の藍と姉さん。うん、異常だ。特に後ろになるにつれて、異常だ。
「何か違う意味でとってるでしょ。まったく、信也は、相変わらず、自分のことには疎いんだから」
姉さんのそんな声を受け流し、姉さんとともに、姉さんの部屋へと向かうのだった。




