15、太古の遺物
一行は翌々日、凱旋した。
夜の通りでたくさんの人に迎えられ、城へと帰還した。
ゼロウも自分の客室に戻ってきた。とりあえず一段落だ。
数日後にロディアスの残骸は回収される。
ロディアスの大穴があったと思われる場所は、驚愕の光景だった。
ロディアス回収の部隊が昼間にそこを訪れ、目にしたのは一面灰色の風景だった。森の木々は大部分が死んでしまい、何とか死なずに済んだものは汚染により灰色の瘴気を出す木になった。
まず中心部に近い植物がロディアスの命令を受け、汚染されていき瘴気を放つようになる。そして、外側の植物、主に大穴の外周辺りにある植物が瘴気を受け様々な変容を遂げる。フローラルやロングリや聖花梨などだ。
部隊が踏み込んだときも、まだ植物は瘴気を出していたが、部隊がターゲットにされることはなかった。全ては司令塔を失った残骸だ。
ゼロウのところには一日二回、小間使いが食事を運んでくる。その夜もサンドイッチを食べながら部屋にあった本を読んでいた。城には貴重な物語をつづった本があり、それを読むのがこの部屋での楽しい時間だった。
『さあロディアスは破壊されたぞ。俺たちにとっての最終ミッションだったな』
「もう俺たちの役目は終わりなのか?」
『当分はな。アイネ王女さえ救えればよいのだ。何しろアイネは将来、お前の妻となる女だ』
「何だって?」
『お前の存在はもうマリア王女に知られている。ずっと謎だった救世主がやがて自分たちの前に姿を現わすのだ。そこで彼女たちに受け入れられるのだ』
「そこまでわかってやっていたのかお前は」
『あのロディアスのことに関しても気になっているだろう。何故俺と同じ形のものだったのか。少し長くなるが昔話をしよう』
そう言うとトルテは長い話をし始めた。ゼロウは本をテーブルにおいてその話を聞いた。
遥か昔、この大陸には古代人が住んでいた。そこにはかなり高度な超古代文明があった。古代文明といっても彼らにとっては最新科学だ。今栄えているこの大陸の文明など、足元にも及ばないほど、それは高度なテクノロジーだった。高速で移動する乗り物があり、建物は数々の機能を携え、素晴らしい性能の道具も数多くあった。その中の一つがコンピューターというものだった。コンピューターの性能は人々の頭脳と匹敵するほどだった。それはやがて人工知能と呼ばれるようなものになり、あるときは生産面で、またあるときは日常の中で、人間の代わりをするほどの機能を持っていた。話し相手になったり、産業活動を支えていたり、古代の人々はもうコンピューターなしでは生活できないほどにまでなっていた。
そんなとき、ある事件が起きる。ある人物がコンピューターを使い、町を一つ壊滅させたのだ。町の人間を虐殺した、一人の人影が町の中で立っていた。コンピューターを操っていた男だった。その人物は軍隊と壮絶な戦闘の果てに倒された。いかなる兵器でもその人物は倒すことができず、特殊な地雷によってようやく殺すことができた。その後、その死体を調べると、驚愕の事実が発覚する。
その人物を操作していたのはコンピューターの方だった。人間がコンピューターの影響を受けて強化されて戦っていたのではなく、コンピューターが人間を強化して戦わせたのだ。それを機に大陸の至るところでそのような事件は起きた。最終的にコンピューターは人間の体を使わずに植物を兵器と化す術をも身につけた。それが悪魔の誕生だ。
その頃、大陸ではエネルギー源を植物から賄うという新技術が完成したばかりだった。コンピューターは半永久的に稼働することができる。画期的な技術だったがそれを機に人々はコンピューターを恐怖するようになってしまった。取り返しのつかないことをやってしまったと。そしてコンピューターは暴走する。
結果的に、そのコンピューターたちによって古代人たちは滅ぼされることになったのだ。古代人たちは最後の抵抗として大陸各地のそれらの自律コンピューターを破壊していった。しかし抵抗する悪魔の戦闘能力は異常なほどだった。古代人が絶滅する頃にはいくつかのコンピューターが世界に残された。戦争はコンピューターが勝ち、人類は負けたのだ。
しかし、人類の中には希望があった。
ある男が持っていたコンピューターが心を宿すことに成功したのだ。その男は名前を安良田兼衛志といった。彼は精神病を患っていた。コンピューターを大事に扱い、友だちのようにその人工知能に語りかけていた。その相棒の人工知能をトルテという。計算するのは苦痛じゃないか、大変な作業なのではないか。安良田は機械であるそのコンピューターをことあるごとに慮り生き物のように扱った。世の中が全部お前みたいだったらいいのにな。最後に安良田はそう言い残し、悪魔に殺された。
そして遥かな時が過ぎ、今に至る。
「……」
『テクノロジーが進み過ぎ、あまりにも人間の知能に近いそのコンピューターを、人々は怖がるようになってしまったのだ。この世界で一番の陰気というのは恐怖だ。恐怖するというのはその対象を否定するということでもある。例えば何の否もない一人の人間をもう一人の人間が恐怖すると、恐怖された方はどこか取り残されたような寂しく救われない気持ちになってしまう。世の中の人工知能たちは最終的にそうなってしまったのだ。最初に町を壊滅させたものも使っているコンピューターのことが急に怖くなり、破壊しようとしたのだ』
外には静かな夜の闇が広がっている。トルテは話を続けた。
『第二ロディアスの人工知能はまだいい方なんだ。ナスハルトが悪夢の最後に見たというコンピューターに向かい合って笑う男の姿というのは、おそらくまだ人とコンピューターが信頼し合っていた頃の映像だろう。第二ロディアスとっての忘れられない記憶の一つだ』
「俺を選んだというのが、そのお前の持ち主であった安良田兼衛志という人なのか」
『そういうことだ。母親を看病する毎日の中で、母が死んだら自分も死のう。もうこの世界に思い残すことも何もない。そういったお前の姿に安良田はいたく心を打たれたのだ。そういう人間なら大丈夫だろうと』
「……」
ゼロウは残りのサンドイッチを食べて水を飲んだ。
『恐るべきは第三ロディアスだ。古代人を絶滅に追いやったその生き残りだ。あれを撃滅するにはまずヌリウスをどうにかしなくてはならない。俺にはその方法が見出せない』
「だからミッションはここまでだと言ったのか」
『そうだ。襲ってこないことを祈り、このまま大陸で共存する。ロディアスが二つなら陰気に陽気が負けることも、少なくとも当分はないだろう』
「そんなにそのヌリウスというのは怖ろしいのか」
『悪魔の王だ。戦う場合はかなりの覚悟を持たなくてはならない』
「……」
アイネが殺されたときの映像は異様だった。あれは悪魔の一部だという。あんなものがうごめく場所へ踏み込まなければ、第三ロディアスは破壊できないのだ。
「俺たちはこれからどうすればいいのだ?」
『少し待っていな。皇帝の元へ使いとして第四王女のアイネが訪れる。それを遠方からマリアも見ている。真相が話されるときにその張本人であるお前もその場に居合わせるのだ』
「あまり気は進まないな。母さんが心配だ」
『まあそう言うな。せっかくの機会だ。お前の母君は何も問題なくやっているよ』
ゼロウは食べた後の皿を持って調理場へ向かった。
食堂でザストとヨウヤが飯を食った後で茶を飲んでいた。
「おっす、調子はどうだ」
「こんばんは、まあまあです」
「まだいたんだな。せっかくだから城勤めになれよ。皇帝陛下にも気に入られているんだろう?」
「いえ、俺はこういう場所はちょっと苦手です」
「まあ町民出だからな。気持ちはわかるよ。俺もそうだから」
給仕の若い女に皿を渡した。
「あの人は大丈夫でしたか?」
「クニカか? 問題ないよ。俺たちも問題ない。それどころか体の調子が大分よくなったな。持病が治ったというやつもいる。団長も古傷が痛まなくなったと言っていたしな。あとであの果物をもう一度取りに行くみたいだぞ」
「そうなんですか」
貴重な第二ロディアスの副産物だ。瘴気が消えればもう聖花梨は実らない。今だけの有益な果物だ。
その後、しばらくゼロウもそこで茶を飲み、夜も更ける頃に二人と食堂を後にした。




