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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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第九話:接触

誰もいない場所で、神谷は小さく呟いた。

さっきまでの圧は消えている。

静かすぎるくらいに。

(でも)

手を見る。

(残ってる)

触れた感覚。

あの瞬間、“全部が切れた”あの感覚。

「……あれが鍵か」

歩き出す。

頭の中で整理する。

(距離で減衰)

(視線で固定)

(接触で増幅)

(七瀬で遮断)

「……ルール多すぎないか」

思わず笑う。

でも。

笑ってる場合じゃない。

(もし)

(七瀬がいなかったら)

あのまま。

どうなってたか。

「……考えるのやめよ」

即切り捨てる。

そのとき。

――ぞわっ

背筋に、微かな違和感。

足が止まる。

「……は?」

振り向く。

誰もいない。

(今の、なんだ)

さっきの“圧”とは違う。

もっと薄い。

でも。

確実に何かが“触れた”。

「……残滓?」

ぽつりと呟く。

さっきの女の影響が、まだ空間に残っているような感覚。

(いや、違う)

一歩、動く。

違和感が、ついてくる。

「……おい」

思わず声が出る。

(これ)

(俺から出てないか?)

心臓が一瞬だけ強く跳ねる。

立ち止まる。

呼吸を整える。

(落ち着け)

(確認しろ)

手を開く。

閉じる。

何も起きない。

でも。

「……いる」

確信する。

“何か”が、自分の周囲に漂っている。

見えないけど。

消えてない。

(拡散?)

(それとも残留?)

考えた瞬間。

通りがかった女子高生二人が、ふとこちらを見る。

一瞬だけ。

目が合う。

そのうちの一人が、首をかしげる。

「……?」

それだけ。

でも。

すぐに逸らされる。

普通に会話に戻る。

(……弱い)

(でもゼロじゃない)

神谷は理解する。

「……これ」

「漏れてる」

小さく呟く。

さっきまでは“対象に集中する能力”だった。

でも今は違う。

(広がってる)

(制御してないのに)

背中に冷たいものが走る。

「いや待て待て待て」

思考を止める。

(これ、まずい方向だろ)

そのとき。

「――何してんの」

後ろから声。

「うわっ!?」

振り向く。

七瀬。

「なんでいるんですか!?」

「忘れ物」

手にはコンビニ袋。

「いやタイミング!」

七瀬は神谷をじっと見る。

数秒。

「……なにそれ」

「え?」

「なんか出てる」

「やっぱり!?」

神谷は思わず叫ぶ。

「見えるんですか!?」

「見えるっていうか」

七瀬は少し近づく。

「気持ち悪い感じがする」

「表現ひどくないですか?」

「事実」

ばっさり。

七瀬は眉を少しだけひそめる。

「さっきの残り?」

「たぶん……いや」

神谷は首を振る。

「俺から出てる」

「……は?」

「さっきの接触で、なんか変わったっぽいです」

七瀬はため息をつく。

「進化イベント早すぎ」

「望んでないんですけど!?」

「知ってる」

七瀬は一歩踏み込む。

距離が縮まる。

その瞬間。

「……あ」

神谷が声を漏らす。

“漏れ”が、わずかに引く。

「……やっぱり」

七瀬は呟く。

「近づくだけでも影響減る」

「マジですか」

「完全遮断は接触だけ」

「仕様が細かい!」

神谷は頭を抱える。

(つまり)

(近くにいるだけで安定する)

(でも触れないと完全には止まらない)

「……難易度高すぎません?」

「あなたの問題でしょ」

「ぐうの音も出ない」

七瀬は少しだけ考える。

「で?」

「え?」

「このまま垂れ流すの?」

「嫌です!」

即答。

「じゃあどうするの」

「……」

神谷は黙る。

選択肢は少ない。

かなり少ない。

ゆっくり七瀬を見る。

七瀬は無表情。

「……あの」

「やだ」

「まだ何も言ってません!」

「手伝えって顔してる」

「正解です!」

即答。

七瀬は露骨に嫌そうな顔をする。

「面倒」

「そこをなんとか!」

「やだ」

「一生のお願いです!」

「軽い」

「毎回言ってる気がする」

「気のせいじゃない」

数秒の沈黙。

七瀬はため息。

「……一回だけ」

「神!!」

「違う」

「知ってます!」

神谷は一歩近づく。

「じゃあ、その」

「なに」

「……また、手」

七瀬はじっと見る。

少しだけ間。

「……短時間ね」

「はい!」

手を差し出す。

神谷はそれを取る。

瞬間。

――すっ

空気が静まる。

“漏れ”が消える。

完全に。

「……うわ」

神谷が呟く。

「消えた……」

「でしょ」

七瀬は興味なさそうに言う。

でも。

少しだけ。

ほんの少しだけ。

手を離さない。

神谷は気づかないふりをする。

(これ)

(制御できる)

(ただし――)

視線を落とす。

繋がった手。

(条件付きで)

神谷は小さく息を吐く。

「……これ、運用考えないとまずいですね」

「今さら」

「今さらです」

七瀬はぽつりと言う。

「増えてるよ」

「え?」

「ルール」

「やめてください怖い」

七瀬は少しだけ笑う。

「でもさ」

「はい」

「ちょっと面白くなってきた」

「……え?」

神谷が固まる。

七瀬は視線を逸らす。

「別に」

「いや今の聞き逃しませんよ!?」

「うるさい」

でも。

ほんの少しだけ。

空気が軽くなっていた。

そのとき。

――また。

ぞわっ

「……っ」

神谷の顔が変わる。

「どうしたの」

七瀬が聞く。

神谷はゆっくり顔を上げる。

「……これ」

「さっきのじゃない」

「は?」

「別のがいる」

空気の奥。

見えない“何か”が、こちらを見ている。

今度は――

明確に。

「……増えてる」

神谷の声が、わずかに震えた。

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