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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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5/10

第五話:効かない存在

翌日。

「……寝不足すぎる……」

神谷 恒一は重い足取りで大学の構内を歩いていた。

「鍵も変えたし……とりあえず大丈夫、だよな……」

ポケットの中の新しい鍵を握る。

「……ほんと、洒落にならん……」

「何が?」

「うわっ!?」

横から声。

「びっくりしすぎ」

「……誰ですか」

「同じ学部だけど」

「……すみません、覚えてなくて」

「だろうね」

あっさり。

興味なさそうに言う。

「普通、そういう反応もっと傷つくけど」

「……すみません」

「別にいい」

短い返事。

視線が軽い。

――“軽すぎる”。

(……あれ?)

「で、何が洒落にならないの」

「え?」

「さっき言ってたでしょ」

「……ああ」

(なんだこの感じ)

昨日までとは、明らかに違う。

距離が、普通。

視線が、普通。

空気が――普通。

「ちょっとトラブルで……」

「ふーん」

「……それだけですか」

「それだけだけど」

「興味ないんですか」

「あるわけないじゃん」

「……」

(なんだこれ……)

「初対面で他人のトラブルに食いつくほうが変でしょ」

「……それは、そうですけど」

「で?」

「で?」

「なんか話したいんじゃないの」

「……」

(この人……)

神谷はじっと見る。

「何」

「いや……」

「顔」

「顔?」

「じっと見すぎ」

「……すみません」

「変な人」

「いやあなたに言われたくないんですけど」

「失礼」

「どっちが」

「で、用ないなら行くけど」

「……ちょっと待ってください」

「なに」

「……一つ、いいですか」

「やだ」

「即答!?」

「面倒そうだから」

「面倒じゃないです!」

「じゃあ簡潔に」

「……俺のこと、どう思います?」

「は?」

「いや、その……」

「ナンパ?」

「違います!」

「じゃあ何」

「……」

(どう聞けばいいんだこれ……)

「……普通に答えるよ」

「……はい」

「背高いね」

「……はい」

「顔もまあ、悪くない」

「……ありがとうございます」

「でもそれだけ」

「……それだけ?」

「それ以上でも以下でもない」

「……」

(……効いてない)

「で?」

「え?」

「それ聞いて満足?」

「……」

心臓が、変な音を立てる。

(初めてだ……)

(“普通”だ)

「……名前、聞いてもいいですか」

「なんで」

「いや、さっきから話してるのに知らないのもどうかと」

「別にいいけど」

「お願いします」

「……七瀬」

「七瀬さん」

「呼ばなくていい」

「いや呼びますよ」

「勝手にどうぞ」

そっけない。

でも――

(楽だ……)

異常なほど。

「神谷」

「知ってる」

「……え?」

「さっき呼ばれてたし」

「あ、そうか……」

「あと、ちょっと有名」

「え?」

「女関係で」

「やめてください!」

「事実でしょ」

「否定はしきれませんけど!」

「で?」

「で?」

「そのトラブル、また女絡み?」

「……はい」

「だと思った」

「……助けてくれません?」

「やだ」

「即答!?」

「面倒」

「ですよね……」

「自分でなんとかしなよ」

「……はい」

正論。

ぐうの音も出ない。

「でも」

「え?」

「巻き込まれそうなら切る」

「冷たい!」

「当たり前でしょ」

「……ですよね」

「他人だし」

「……はい」

でも。

(それが普通なんだよな……)

神谷は小さく息を吐く。

「……ちょっと安心しました」

「は?」

「いや、その……」

「意味わかんない」

「ですよね」

「変な人」

「よく言われます」

「自覚あるなら直せば」

「直せたら苦労してないです」

「ふーん」

興味なさそうに返す。

でも、離れない。

「……」

「……」

少しの沈黙。

気まずくない。

(なんだこれ……)

(めちゃくちゃ楽だ……)

「じゃ、行く」

「あ、はい」

「巻き込まれないようにね」

「努力します」

「無理そう」

「否定できないのがつらい」

「じゃあね」

「はい」

七瀬は、振り返らずに去っていく。

「……」

神谷は、その背中を見送る。

「……効いてない」

確信する。

「……マジでいるのか、こういうの……」

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