↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/50

第四十六話:神様に、能力を返すことにした

第四十六話:神様に、能力を返すことにした

七瀬が保護されてから三日が過ぎた。

研究会の関係者については、警察が事情を調べている。

大学は、学生の安全確保と相談体制の強化を発表した。

玲奈の提供した資料は重要な手掛かりになったが、事件の全容が明らかになるには時間がかかるらしい。

「……終わった、って言っていいのかな」

学食で神谷が呟くと、七瀬は箸を置いた。

「少なくとも、今日は誰も私たちを連れ去ろうとしてない」

「それを平和の基準にするの、嫌だな」

「私も」

二人は苦笑した。

七瀬は大学に戻ったばかりだった。

無理をしないように、と何度も言われている。

それでも本人は「講義のノートが三日分たまるほうが怖い」と言い張った。

「七瀬さん、もう少し休んでも」

「神谷くん。心配してくれるのは嬉しい」

「うん」

「でも、休むかどうかは私が決める」

「……はい」

「よろしい」

いつもの会話が戻ってきた。

神谷はそれだけで嬉しかった。

ただ、心の奥に一つだけ、答えの出ていない問題が残っている。

『モテモテ(特級)』。

能力は、あの日から落ち着いている。

けれど、完全に消えたわけではない。

神谷はノートを開いた。

『今後、どうするか』

その下に二つの選択肢を書く。

『能力を持ち続ける』

『能力を封じる』

七瀬が覗き込んだ。

「……決めるんだ」

「うん。そろそろ」

「私に相談してくれる?」

「もちろん」

神谷は顔を上げた。

「七瀬は、どう思う?」

七瀬は少し考えた。

「能力があってもなくても、神谷くんは神谷くんだよ」

「……うん」

「でも、神谷くんがずっと怖い思いをするなら、封じる方法を探してもいいと思う」

「……そうだね」

「ただし、私に合わせて決めないで。私は能力を止めるために付き合ってるわけじゃないから」

神谷は頷いた。

「分かってる」

七瀬は一瞬、言葉を止めた。

「……今、付き合ってるって言った?」

神谷も止まった。

「……言った?」

「言った」

「……七瀬さんが?」

「私が」

二人は顔を見合わせた。

「……まだ、正式には」

「そうだね」

「……」

「……」

七瀬が顔を赤くして、ノートを閉じた。

「能力の話に戻ろう!」

「今の、流していいの!?」

「今は戻る!」

神谷は笑った。

この会話を、能力のせいだと思いたくない。

だからこそ、決めようと思った。

その夜。

夢の中で、神谷は白い空間に立っていた。

見慣れた抽選箱。

見慣れた神様。

「やあ。久しぶり」

「最近、出現頻度が高くないですか」

「最終回が近いからね」

「何の!?」

神様は笑った。

「さて。決めた?」

神谷は頷いた。

「能力を封じたいです」

神様の表情が静かになった。

「消去ではなく、封印?」

「はい。過去の出会いまで消したくない」

「理由を聞いてもいい?」

神谷は考えた。

自分を追いかけた人たち。

自分を怖がらせた人たち。

七瀬と出会った日。

手を繋いだ日。

喧嘩した日。

七瀬が泣いた日。

そのどれも、簡単には忘れられない。

「能力があったせいで、苦しいこともありました。でも、その時間を全部なかったことにしたら、今の俺まで消えてしまう気がするんです」

神様は頷いた。

「……そうね」

「俺は、これから先、誰かの気持ちを勝手に増幅したくない」

「本当に? その力があれば、誰からも好かれるかもしれないのに」

「好かれることと、信頼されることは違います」

神谷は答えた。

「信頼は、時間をかけて作りたい」

神様は少しだけ微笑んだ。

「いい答えね」

「じゃあ、方法を教えてください」

「その前に、一つ確認するわ」

神様が指を鳴らす。

空中に、三つの言葉が浮かんだ。

『消去』

『抑制』

『封印』

「消去は、能力そのものを過去から取り除こうとする。因果に影響が出る危険がある」

「はい」

「抑制は、あなたが今やっていること。自分の意思で出力を弱める。でも、不安定なときには戻るかもしれない」

「……はい」

「封印は、能力の発動経路を閉じる。過去は変わらない。ただし、もう自分の都合で元には戻せない」

神谷は息を呑んだ。

「……それが代償ですか」

「そう。必要なときだけ使う、という選択肢もなくなる」

神谷は少し考えた。

今まで、能力を使いたいと思ったことはほとんどなかった。

むしろ、使いたくない場面ばかりだった。

でも、もし将来、誰かを助けるために必要になったら。

そんな迷いも、確かにある。

「……それでも、封じたいです」

神様は頷いた。

「分かった。ただし、今ここで勝手にはやらない」

「……え?」

「あなた自身が、現実の世界で、もう一度選ぶ必要がある。目を覚ましたあと、封印を望むなら、自分の言葉で宣言して」

「何て?」

「『他人の好意を、私の都合で増幅しない』」

神谷は眉を寄せた。

「……意外と普通ですね」

「難しいのは言葉じゃない。決め続けること」

「……なるほど」

神様は少しだけ寂しそうに笑った。

「最初に渡したときは、こんなことになると思わなかった」

「ほんとですよ」

「ごめんなさい」

神谷は驚いた。

神様が、また謝った。

「……でも、七瀬さんに会えたことまで後悔してません」

神様は頷いた。

「それなら、よかった」

白い空間が薄れていく。

「神谷くん」

「はい」

「最後に一つだけ。封印しても、恋愛の問題は全部解決しないからね」

「……分かってます」

「相手の誕生日を忘れたりしたら、能力がなくても怒られるわよ」

「神様、急に生活感ある!」

目を覚ますと、朝だった。

神谷はベッドに座り、しばらく手を見つめた。

そして、静かに言った。

「他人の好意を、俺の都合で増幅しない」

胸の奥で、何かが小さく音を立てた。

鍵が閉まるような、かすかな感覚。

次の瞬間、長く付きまとっていた熱が消えた。

神谷は深く息を吸った。

静かだった。

驚くほど、静かだった。

「……返した、のかな」

スマホを手に取る。

七瀬にメッセージを送った。

『能力、封じたかもしれない。

今日、会って話したい』

返事はすぐに来た。

『分かった。

朝ご飯は食べてきて』

神谷は笑った。

神様より、ずっと頼りになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。