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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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第三十八話:七瀬が、俺の手を離した

大学の正門に人が集まった翌日、神谷は警備員に付き添われて別の出入口から帰ることになった。

七瀬も一緒だった。

「なんか、逃亡犯みたいだな」

「逃亡犯は普通、自分から相談室に通わないよ」

「それもそうか」

二人は人通りの少ない廊下を歩いた。

神谷の手には、七瀬の手がある。

能力が不安定になりそうなときだけ、本人の同意を得て触れる。

何度も確認してきた方法だった。

「……今日も助かる」

「うん。でも、ずっと握ってなくても大丈夫か試そうか」

神谷は少し驚いた。

「どうして?」

「これから先、私がいつでも隣にいられるとは限らないから」

七瀬は優しく言った。

「神谷くん自身が、自分の状態を見て動けるようになったほうがいい」

神谷は頷いた。

「……そうだね」

二人は立ち止まり、手を離した。

神谷は呼吸を整える。

胸の奥の熱は、すぐには戻らなかった。

「……大丈夫そう」

「よかった」

そのとき、廊下の向こうから叫び声が聞こえた。

「誰か、助けて!」

女子学生が一人、階段の手前で立ち尽くしていた。

その前には、見知らぬ男性がいる。

「神谷くんを出せ! あいつに会えば分かるんだ!」

男は興奮していた。

大学の関係者ではないらしい。

七瀬は神谷を見た。

「ここで待ってて」

「七瀬さん!」

七瀬は首を振った。

「私が直接止めに行くんじゃない。警備員を呼ぶ」

彼女は近くの非常連絡用の電話へ向かった。

神谷は女子学生のほうを見る。

彼女は壁際へ後退していた。

男がさらに近づく。

「神谷くんの場所を知ってるんだろ!」

神谷は叫んだ。

「その人は関係ありません! 離れてください!」

男が振り向いた。

「……お前、写真の」

神谷の背筋が冷たくなる。

(まずい)

男がこちらへ歩き始めた。

七瀬は警備員と通話しながら、神谷に目で合図する。

逃げろ。

神谷は頷き、女子学生にも声をかけた。

「こっちの廊下へ。職員室があります」

女子学生が走り出す。

男は追おうとしたが、神谷が距離を取ると足を止めた。

「待てよ! 話したいだけなんだ!」

「今は話せません。警備員が来ます」

神谷は自分の声が震えているのを感じた。

怖い。

それでも、近づかない。

相手の気持ちを刺激するような言葉も使わない。

七瀬が戻ってきた。

「神谷くん、こっち」

彼女は手を差し出しかけて、止めた。

神谷は頷いた。

「今は大丈夫。自分で歩ける」

七瀬の表情が少し緩む。

二人は階段から離れた。

数分後、警備員が到着し、男性を建物の外へ誘導した。

女子学生にもけがはなかった。

相談室で事情を説明したあと、神谷は椅子に深く座った。

「……心臓、止まるかと思った」

「止まったら会話できないよ」

「そういう理屈、今いる?」

「少し笑えたでしょ」

神谷は苦笑した。

「……うん」

七瀬は隣に座った。

「さっき、私が手を離したとき、怖かった?」

「怖かった。でも、七瀬さんがいないと何もできないわけじゃないって分かった」

七瀬は頷いた。

「それが大事だと思う」

神谷は彼女を見た。

「……七瀬さんも、怖かった?」

「もちろん。知らない人が叫んでるんだよ」

「でも、冷静だった」

「冷静なふりが上手いだけ」

七瀬は少し笑った。

「それに、神谷くんがちゃんと自分で断れるって信じてた」

神谷は言葉を失った。

これまで、七瀬は自分の能力を止めてくれる存在だった。

でも、それだけではない。

彼女は、神谷自身が変わろうとすることを信じてくれている。

「……ありがとう」

「うん」

七瀬は手を差し出した。

「今は?」

「……繋ぎたい」

「私も」

二人は手を握った。

今度は、能力を止めるためではない。

怖かった一日を、二人で乗り越えたことを確かめるためだった。


夕方。

大学から、次回の大規模イベントについて注意喚起が出された。

神谷の写真を無断使用した広告は削除要請が進められている。

だが、研究会の関連企業はイベント自体を中止していない。

七瀬は告知を見つめた。

「……次は、もっと大きなことをするつもりかもしれない」

「うん」

神谷は彼女の手を握り直した。

「でも、もう一人で抱え込まない」

七瀬は微笑んだ。

「その言葉、今度こそ信じるからね」

神谷は頷いた。

そして、二人は相談室へ戻った。

まだ終わっていない。

でも、手を離しても、同じ方向へ進める。

それが今の二人の強さだった。

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