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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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第三十七話:俺の能力で、千人が同時に俺を好きになった

『次回実証試験 参加予定者一〇〇〇名』

資料を見た神谷は、思わず七瀬に電話した。

「千人って、何の単位だと思う?」

「急に算数の問題?」

「俺の能力を使う実験の参加人数らしい」

「……それは笑えないね」

玲奈が相談窓口を通じて提出した資料には、市内の展示ホールで行う新商品体験会の概要が記されていた。

主催者は研究会とつながる関連会社。

資料の欄外には、神谷の写真と『特級モデル』という文字があった。

「俺、行きませんからね」

大学の相談室で、神谷は念を押した。

「参加の同意なんてしてません」

「分かっています」と担当者。

七瀬が資料の一行を指差した。

『事前取得済みの反応データを使用』

「神谷くんがいなくても実験するつもり?」

「そんなこと、できるのか……?」

玲奈からの説明では、能力そのものを録画や写真に保存する技術は確認されていない。

研究会が持っているのは、能力に影響されやすい人の反応や行動の記録だけだという。

「なら、千人を操れるとは限らないんですね」

「そうです。ただし、心理誘導や無断撮影という問題は別に残ります」と担当者。

神谷は頷いた。

分からないことを、分かったふりで恐れたくはなかった。

翌日、イベントは予定どおり開催された。

神谷も七瀬も、水野も会場には行かなかった。

大学側と相談して、安全な場所から情報を確認することにした。

午後三時。

最初の異変は、佐伯のメッセージだった。

『お前、モデルデビューした?』

『してない』

『いや、広告に顔出てるけど』

添付された画像を見て、神谷は固まった。

大学の中庭で撮られた自分の写真。

その下には『あなたが本当に信頼できる人』という文句が添えられている。

「……盗撮写真じゃないか」

七瀬が画面を覗き込み、顔を険しくした。

「勝手に顔を使ったんだね」

ほどなく、SNSに似た投稿が現れ始めた。

『この人、誰? 会ってみたい』

『写真だけなのに、前から知ってる気がする』

『なんか安心する顔』

一方で『怪しい広告』『気持ち悪い』という反応もある。

誰もが神谷を好きになったわけではない。

だが、投稿数は増え続けた。

会場にいた人の証言によれば、巨大なスクリーンに神谷の顔が映し出され、司会者が『信頼できる人物を思い浮かべてください』と呼びかけたという。

続いて商品を選ばせる。

反応を測る端末も配られていたらしい。

「……俺の顔を、信頼の合図に使ったのか」

神谷はスマホを握りしめた。

「好かれるのと、信頼させられるのは違う。なのに、どっちも勝手に利用してる」

夕方、大学の正門付近で警備員から連絡が入った。

『神谷さんに会いたいという来訪者が複数います。

構内で待機してください』

神谷は窓から外を見た。

最初は十数人だった。

やがて人が増え、門の前に長い列ができた。

「写真の人、ここにいるんですよね?」

「少し話したいだけなんです!」

「この人が勧める商品なら、間違いない気がして……」

誰かがスマホを掲げる。

別の人が神谷の写真を印刷した紙を持っている。

「何で俺の写真が……」

声が震えた。

佐伯が駆け込んできた。

「おい、外すごいぞ。お前、宗教の教祖になったの!?」

「なってない!」

「じゃあ何でみんな会いたがってるんだよ!」

「俺が知りたい!」

佐伯は窓の外を見て、口を閉じた。

門の向こうでは、二人の来訪者が言い争っていた。

「先に並んでたのは私です!」

「話せればいいんでしょ、順番なんか!」

一人が門へ身を寄せ、警備員が制止する。

少し離れたところでは、困惑した表情の男性が友人に腕を引かれていた。

「俺、何でここまで来たんだろう」

「広告を見たからだろ」

「そうなんだけど……会わないといけない気がして」

神谷はその声を聞き、胸が痛くなった。

自分が追いかけられて怖い。

けれど、あの人たちも自分の判断に自信を持てなくなっている。

「七瀬さん。俺が出れば、少しは落ち着くかな」

「逆だと思う」

七瀬は窓の外を見た。

「顔を見たら、もっと近づきたいと思う人もいるかもしれない。今は出ないで」

神谷は唇を噛んだ。

「でも、あの人たちを放っておくのも……」

「放っておかないよ。職員さんと警備員さんが対応してる。私たちが勝手に動くより安全」

担当者はすでに警備を増員し、警察にも相談していた。

神谷には建物内での待機が求められた。

神谷は窓から離れた。

そのとき、SNSに新しい投稿が流れた。

『会場で千人が神谷さんの写真に反応したらしい』

すぐに見出しが独り歩きする。

『千人が同時に一人の男を好きになった』

「……千人が?」

神谷は息を呑んだ。

数字だけが先に走る。

会場の定員と実際の参加者数は違うかもしれない。

『反応した』ことと『好きになった』ことも同じではない。

それでも、千人という言葉の重さは変わらなかった。

「俺の能力で、千人が同時に俺を好きになった……?」

「まだそう決まったわけじゃない」と七瀬。

七瀬は画面を指差した。

「広告を見て普通に興味を持った人もいる。変だと思った人もいる。研究会が作った見出しに、私たちまで乗せられないで」

「……うん」

神谷は呼吸を整えた。

「でも、確かなことはある。俺が許してない写真で、人を集めてる」

「それは証拠にできる」

二人は広告の表示時刻、URL、スクリーンショットを整理して担当者へ渡した。

夜になるころ、来訪者は警備員の案内で少しずつ帰っていった。

混乱した人には、大学側が相談先を伝えた。

誰もが納得したわけではない。

門の前で泣く人もいた。

自分の行動を説明できず、俯いて帰る人もいた。

神谷は窓越しに頭を下げた。

「……俺は、何も頼んでないのに」

「そうだね」

「なのに、あの人たちが苦しんでる」

「責任を取るべきなのは、勝手に仕掛けた側だよ」

七瀬の言葉は、慰めではなく事実だった。


その夜、玲奈から相談窓口を経由して追加の説明が届いた。

『能力そのものを写真に移せる証拠はありません。

研究会は過去の反応データから影響されやすい人を選び、広告を配信した可能性があります』

神谷は長く息を吐いた。

能力をコピーされたのかは、まだ分からない。

けれど、自分がいなくても人の気持ちを揺さぶる仕組みを、組織は作ろうとしている。

さらに、イベント主催者のサイトに新しい告知が出た。

『次回体験会では、特級感情誘導モデルを公開予定』

その下には、小さく一行。

『モデル本人の参加は不要』

神谷は画面を見つめた。

自分が拒否しても、勝手に使われる。

そして次は、もっと多くの人が巻き込まれるかもしれない。

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