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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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第三十六話:感情支配の女が、敵ではなくなった

朝倉玲奈から届いたメッセージを見て、神谷はしばらく動けなかった。

『私も最初は、協力するだけのつもりだった』

七瀬が隣から画面を覗く。

「……どうする?」

「返事したい。でも、罠かもしれない」

「うん。だから、まず共有」

二人は大学の相談室に戻った。

担当者は内容を確認し、これまでの記録に加えた。

「直接会う約束はしないでください。本人が助けを求めているなら、適切な窓口を案内しましょう」

神谷は頷いた。

返したのは短い文章だけだった。

『危険な状況なら警察や大学の相談窓口に相談してください。

直接会う約束はできません』

既読がついたのは十分後だった。

『……正しい返事だね。

前の私なら笑ったと思う』

それきり返信は途絶えた。

翌日、大学の担当者から連絡が来た。

朝倉が自分から相談室に連絡し、第三者の同席を条件に話をしたいと言っているらしい。

「神谷さんと七瀬さんが出席する必要はありません」

担当者は念を押した。

「ただ、本人が二人にも謝罪したいと言っています。どうするかは、お二人が決めてください」

神谷は七瀬を見た。

「俺は、話を聞きたい」

「私は……怖い」

七瀬の返事は正直だった。

「また能力を使われたら、神谷くんが傷つく」

「うん」

「でも、話せるなら聞きたいとも思う」

二人は担当者に同席を依頼し、会議室で短時間だけ面談することにした。

途中で中止できること、近づかないこと、能力を使わないことを先に確認した。

朝倉玲奈は、以前より疲れた顔をしていた。

「……こんにちは」

いつもの挑発的な笑みはない。

「まず謝らせて。神谷くんの意思を無視して、気持ちを動かそうとした。七瀬さんにも嫌な思いをさせた」

七瀬はすぐには答えなかった。

「謝ったから、なかったことにはならないよ」

「分かってる」

「じゃあ、話を聞く」

玲奈は机の上で手を組んだ。

「私の能力は『感情支配』。名前ほど万能じゃない。相手の中にある感情を強めたり、別の感情を一時的に前へ押し出したりする。何もないところに本物の恋を作れるわけじゃない」

神谷は眉を寄せた。

「俺に近づいたときも?」

「安心していい、と思わせた。危険だと分かっている相手を、一瞬だけ信じたくなるように」

神谷は背筋が冷たくなった。

「あれは、俺の意思じゃなかった」

「そう。ごめんなさい」

玲奈は視線を落とした。

「最初は、人前で緊張する人を落ち着かせる仕事だと聞いていた。講演会や相談会で、怖さを和らげる。そういう使い方なら、悪くないと思ったの」

七瀬が尋ねた。

「いつから変わったの?」

「イベントの参加者に、商品を買いたい気持ちを強めるよう言われたとき。断ったら、私が能力を使った記録を公開すると脅された」

「記録?」

「研究会が、能力の発動条件や対象者の反応をずっと集めてた。本人の同意が曖昧なものまで」

神谷は思い出した。

見つかった監視者。

偽会社員。

少女の写真。

「子どもの写真を送ってきたのも?」

「私は知らない。でも、研究会には能力者本人だけじゃなく、その周りの人を調べる班がある」

玲奈は声を落とした。

「あなたたちを引き離せと言われた。七瀬さんがいなければ、神谷くんの能力を管理しやすいから」

七瀬の指が、机の下で小さく動いた。

神谷が彼女ではないと言い、七瀬が泣いた日。

あれは神谷の恐怖から出た言葉だった。

でも、その恐怖を作り出すような脅迫は、確かにあった。

「……私たちの喧嘩まで、計画に使われたんだ」

玲奈は頷いた。

「本当に、ごめんなさい」

神谷は深く息を吐いた。

「朝倉さん。あなたが組織に脅されたことと、俺たちにしたことは別です」

「……うん」

「俺はまだ許せません。でも、もう誰かを操りたくないなら、その選択は信じたい」

玲奈の目が潤んだ。

「信じる、って……そんな簡単に言わないで」

「簡単じゃないです。だから、これからの行動で見せてください」

担当者が玲奈へ支援窓口を案内した。

必要なら法律相談にもつなげるという。

玲奈は帰り際、七瀬へ言った。

「あなたのこと、ずっと嫌いだった」

「知ってる」

「私の力が効かないからじゃない。自分の気持ちを、自分のものだって言えるから」

七瀬は少し考えた。

「それ、今からでもできるよ」

玲奈は何も言わず、頭を下げた。

会議室を出たあと、神谷は七瀬に聞いた。

「……怖かった?」

「うん。今も少し」

「来てくれてありがとう」

「神谷くんも、ちゃんと私に聞いてくれたね」

七瀬は小さく笑った。

「そこは褒めてあげる」

「補習、終わり?」

「追試が残ってる」

「厳しい!」


その夜、玲奈から担当者を通じて一枚の資料が届いた。

『次回実証試験 参加予定者一〇〇〇名』

神谷は数字を二度見した。

「……千人?」

資料の下には、実施予定日が記されていた。

わずか十日後だった。

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