↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/50

第三十一話:俺の能力を買いたい人間が、また現れた

大学の相談室には、三人の職員が集まっていた。

神谷と七瀬が提出したメッセージは、すでに学内警備へ共有されている。

「『一人で来てください』という要求には応じないでください」

担当者が言った。

「分かっています」

神谷は答えた。

隣の七瀬も頷く。

ただし、二人の間には少し距離があった。

昨日のことが、まだ完全には解決していない。

「それと、駅前で接触してきた女性について、来客記録を確認しました」

職員が資料を開く。

「朝倉玲奈という名前で登録されていますが、所属先として書かれた団体は、大学の正式な取引先ではありません」

「……やっぱり」

七瀬が呟く。

「団体名は?」

担当者が紙を示した。

『人間関係研究会』

神谷は思わず顔をしかめた。

「名前が無害そうすぎる」

「名前だけで判断はできません」と担当者。

「ただし、複数の学生に接触した形跡があります。学内への立ち入りについては確認を進めています」

相談が終わり、二人は廊下へ出た。

神谷は七瀬に声をかける。

「……昨日のこと、もう一度謝らせて」

「もう聞いた」

「うん。でも、俺、ちゃんと分かったから」

七瀬が立ち止まる。

「何を?」

「守りたいって思うのは俺の気持ち。でも、離れるかどうかは二人で決めることだって」

七瀬はしばらく神谷を見た。

「……そうだね」

「次は勝手に決めない」

「次がないのが一番だけど」

「それは本当にそう」

七瀬は少しだけ笑った。

「じゃあ、昼ご飯食べよう」

「……いいの?」

「お腹すいた」

神谷はほっとした。

その瞬間、スマホが震えた。

知らない番号からの着信だった。

二人は顔を見合わせた。

「出ないほうがいいかな」

「録音できる環境で、相談室の人に確認してから」

神谷は頷いた。

しかし、着信は切れた。

直後にメッセージが届く。

『正式な条件提示を行います。

拒否も自由です』

続けて、PDFのような添付ファイル。

神谷は開かず、相談室へ戻った。

担当者の前で確認すると、そこには契約書の体裁をした文書があった。

『特級感情誘導能力の独占使用権』

『契約期間:五年』

『対価:初年度一億円』

神谷は声を失った。

「……一億?」

七瀬も画面を見つめる。

「桁、間違ってない?」

「いや、ゼロが八個ある」

「神谷くん、計算できるんだ」

「今そこ!?」

だが、笑いはすぐに消えた。

契約書の末尾に、細かな条項がある。

『必要に応じ、対象者の心理反応を測定する』

『協力者の同席および接触条件は、研究会が指定する』

神谷は眉を寄せた。

「……これ、俺だけの契約じゃない」

七瀬も気づいた。

「私を『協力者』として扱うつもりだ」

神谷は画面を閉じた。

「断る」

「待って」と七瀬。

神谷が顔を上げる。

「断るのは賛成。でも、返信する前に証拠として保存して、相談室と警察に相談しよう」

神谷は頷いた。

「……そうだね」

担当者も言った。

「金額が大きくても、契約の正当性が確認できるわけではありません。脅迫と関連する可能性もあります」

神谷は契約書をもう一度見た。

一億円。

大学生が普通に生活していたら、まず目にしない金額だ。

でも、その数字の向こうに、誰かの自由を奪う仕組みが見えた。

「……俺の能力を買って、何をするつもりなんだろう」

七瀬が静かに答えた。

帰り道、神谷は契約書の金額を思い出していた。

一億円。

普通なら、人生が変わるほどの大金だ。

「七瀬さん、一億円あったら何する?」

「奨学金があれば返して、あとは貯金かな」

「現実的!」

「神谷くんは?」

「引っ越す。防犯設備がしっかりしたところ」

七瀬の表情が少し変わった。

「……そうだよね」

神谷は苦笑した。

「豪邸とか高級車じゃなくて、まず鍵の心配をしなくていい家が欲しい」

七瀬は黙って頷いた。

「でも、そのために人の気持ちを売るのは嫌だな」

「うん」

二人は駅前の交差点で立ち止まった。

神谷が言う。

「俺、能力があることをずっと不幸だと思ってた」

「今は違うの?」

「不幸な部分はある。でも、どう使うかは自分で決めたい」

七瀬は少し笑った。

「それなら、最初の一歩はもうできてるよ」

「……何?」

「一億円を断るって決めた」

神谷は目を丸くした。

「そう言われると、すごいことした気がする」

「まだ返信もしてないけどね」

「現実に戻すの早い!」

信号が青に変わった。

二人は歩き出した。

神谷は思った。

もし、あの能力がなかったら。

七瀬とは、ただ同じ学部の学生としてすれ違っていただけかもしれない。

それでも、能力を肯定する理由にはならない。

大切なのは、出会ったあとに何を選ぶかだ。

夜になって、神谷は契約書のコピーをもう一度見た。

『独占使用権』という文字が、やけに大きく感じられた。

能力は自分の意思で手に入れたものではない。

けれど、使い方まで他人に決められるのはもっと嫌だった。

神谷はノートに書いた。

『能力があることと、能力を提供する義務は別』

書いてから、七瀬に写真を送る。

『これ、合ってると思う?』

すぐに返事が来た。

『合ってる。

あと、私の協力を勝手に契約に含めるのも論外』

『だよな』

『一億円で私を雇えると思ってるなら、まず時給の計算からやり直してほしい』

神谷は笑った。

『時給いくらならいいんだ?』

『時給の問題じゃない』

『そうだった』

少し間を置いて、七瀬からもう一通。

『でも、ジュース一本なら相談には乗る』

神谷は声を出して笑った。

大金の契約書を前にしても、二人の会話はいつも通りだった。

そのことが、今夜は何より心強かった。

「人の気持ちを、値札のついた商品にするつもりなのかも」

神谷はスマホを握り直した。

一億円では、買えないものがある。

それを、相手はまだ理解していないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。