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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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第二十八話:感情支配の女が、俺の彼女を名乗り始めた

月曜日。

大学の掲示板の前に、人だかりができていた。

「神谷、見たか?」

佐伯が駆け寄ってくる。

「何を」

「お前、彼女が増えたらしいぞ」

「増えてたまるか!」

佐伯はスマホを差し出した。

学内の匿名掲示板に、写真が投稿されている。

駅前で神谷と見知らぬ女性が向かい合っている写真。

見知らぬ――いや、見覚えがあった。

第23話で現れた『感情支配』の女だ。

写真の下には文章がある。

『神谷くんの本命、実はこの人らしい』

「……何だこれ」

「俺も聞きたい」

佐伯は真顔になった。

「七瀬さんと付き合ってるんじゃなかったのか?」

「まだ付き合ってない!」

「そこを先に否定するの!?」

神谷は画面を拡大した。

写真は、あの女が神谷に近づいた瞬間を切り取ったものだった。

七瀬が神谷の手を掴む直前。

見ようによっては、二人が親しく話しているように見える。

「悪意ある切り取りだな……」

「じゃあ本命じゃないんだな?」

「違う」

「よし。俺の青春相談窓口は閉店だ」

「開店した覚えもないだろ」

そのとき、廊下の向こうからざわめきが起こった。

「神谷くん」

声をかけてきたのは、写真の女だった。

今日は淡い色のブラウスに、大学の来客用カードを下げている。

「迎えに来たよ」

神谷は一歩下がった。

「……何の用ですか」

「冷たいなあ。恋人にその言い方?」

周囲の学生が息を呑む。

佐伯が小声で言った。

「おい、本命がしゃべった」

「本命じゃない!」

女は楽しそうに笑った。

「私、朝倉玲奈。よろしくね」

初めて名前を聞いた。

神谷はスマホの録音機能を使うべきか迷い、まず周囲の人がいる場所を選んだ。

「俺たちは付き合っていません。勝手なことを言わないでください」

「でも、あなた、あの日は私に夢中だったよ?」

「能力で気持ちを変えようとしたからでしょう」

玲奈の目が細くなる。

「……そこまで分かってるんだ」

神谷は答えなかった。

背後から七瀬の声がした。

「神谷くん」

振り向くと、七瀬が立っていた。

表情はいつも通りだ。

ただ、握ったスマホの画面には、問題の投稿が表示されている。

「説明、必要?」

「必要だけど、七瀬さんには後でちゃんと話す」

「うん。今はこっちの人と話そうか」

七瀬は玲奈を見る。

「朝倉さん。あなたが投稿したの?」

「どうかな」

「違うなら、違うと言えばいいのに」

玲奈は肩をすくめた。

「あなた、私が嫌い?」

「勝手に他人の気持ちを操作する人は苦手」

「それは神谷くんにも言えるんじゃない?」

神谷の胸が痛んだ。

反論できない部分がある。

自分の能力も、望まずに他人の感情を歪める。

七瀬が先に口を開いた。

「神谷くんは、それを止めようとしてる」

「結果は同じかもしれないよ」

「結果が同じだからって、意思まで同じにはならない」

玲奈は少しだけ真顔になった。

「……面白いこと言うね」

その瞬間、周囲の学生たちの表情が揺れた。

「え、でも朝倉さんのほうが似合ってない?」

「そうかも」

「七瀬さん、怒りすぎじゃない?」

小さな声が連鎖する。

神谷の胸の奥に、あの嫌な熱とは別の圧迫感が生まれた。

(これ、玲奈の能力か?)

七瀬は周囲を見た。

「みんな、いったん距離を取って。今の話、本人たち以外には関係ないから」

声は静かだった。

玲奈が微笑む。

「あなたは、いつも正論だね」

「正論が嫌い?」

「正論だけじゃ、人は動かない」

「だから動かすの?」

玲奈の笑顔が少し薄れた。

そのとき、大学職員が現れた。

「ここで何をしていますか。来客の方は、どちらの部署へのご用件ですか」

玲奈は一瞬だけ黙った。

「……またね、神谷くん」

「待ってください。投稿の件は――」

「証拠、残しておくといいよ」

玲奈はそう言って、人混みの中へ消えた。

職員が追いかける。

神谷は七瀬を見た。

「……ごめん」

「何で謝るの」

「また巻き込んだ」

七瀬は少し考えた。

「じゃあ、次からは一緒に対策を考えよう。勝手に謝って終わりにしないで」

「……うん」

佐伯が横から手を挙げた。

「質問いい?」

「何だよ」

「お前、彼女候補何人いるんだ?」

「ゼロ!」

七瀬が小さく言った。

「……一人くらい、いるかもね」

神谷が振り向く。

七瀬はもう歩き出していた。

「ほら、相談室行くよ」

佐伯が神谷の肩を叩く。

午後の講義では、神谷の周囲がいつも以上に落ち着かなかった。

誰かが小声で話している。

スマホの通知音が鳴るたび、視線がこちらへ向く。

(……また噂か)

佐伯が隣に座り、スマホを見せた。

「投稿、削除されたぞ」

「本当か?」

「うん。ただ、スクショは残ってる」

神谷は眉を寄せた。

「削除したからって、なかったことにはならないよな」

「まあな」

佐伯は珍しく真面目だった。

「俺、朝倉って人が来たとき、少し変だったんだ」

「変?」

「急に、あの人の言うことが正しい気がした。理由なんてなかったのに」

神谷は息を呑んだ。

「……今は?」

「普通。だから余計に気持ち悪い」

神谷は佐伯に、無理に説明しなくていいと伝えた。

「でも、覚えてることは相談室に話してくれると助かる」

「もちろん。俺も自分の頭の中、勝手に触られたくないからな」

佐伯は少し笑った。

「それに、七瀬さんに誤解されたらお前が可哀想だ」

「……そこは余計だ」

「本当のことだろ」

講義が終わると、七瀬が迎えに来た。

「神谷くん、行こう」

「どこへ?」

「相談室。佐伯くんも一緒」

佐伯は背筋を伸ばした。

「え、俺も?」

「目撃者でしょ」

「……はい」

神谷は思わず笑った。

七瀬がいると、なぜか全員が素直になる。

能力のせいではない。

単に、七瀬の言葉がいつも筋を通しているからだ。

(……こういうところが好きなのかもな)

神谷はそう思い、すぐに顔を熱くした。

「お前、ゼロって言ったな?」

「言ったけど」

「人生で一番大事な計算ミスだぞ」

神谷は返す言葉がなかった。

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