表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/24

第二十話:嫉妬の暴走

昼休み。

中庭の空気は、もう以前と同じではなかった。

「ねえ見た?」

「また一緒にいる」

「もう確定じゃん」

ざわめきは、もはや“噂”じゃない。

“前提”になりつつある。

その中心にいるのは、神谷と七瀬。

そして――それを見ている側の空気が、明らかに変質していた。

「……あれ」

神谷が小さく呟く。

視線の先。

女子グループの中心に、一人だけ違う空気の人物がいた。

長い髪。

姿勢はまっすぐ。

笑っているのに、目が笑っていない。

「……誰だあれ」

「三年の人だよ」

七瀬が即答する。

「噂の中心」

「噂の中心?」

「うん」

七瀬はスマホを見ながら言う。

「“七瀬の彼氏横取り疑惑”の発生源」

「語感が最悪すぎる」

そのとき。

その“中心人物”が、こちらを見た。

目が合う。

一拍。

そして――

歩いてくる。

迷いがない。

「神谷くん」

近い距離。

最初の一言は、丁寧だった。

だが温度がない。

「ちょっといい?」

「……何」

神谷は立ち上がる。

七瀬は隣で動かない。

ただ見ている。

女子は軽く笑った。

「最近さ、七瀬さんとすごいよね」

「別に普通だ」

「普通ね」

一拍。

「……じゃあさ」

声のトーンが落ちる。

「なんであの人なの?」

空気が変わる。

周囲のざわめきが、一瞬止まる。

「別に理由はない」

神谷は短く言う。

「好きになるのに理由なんてないだろ」

女子は小さく笑う。

「それ、嘘でしょ」

「嘘じゃない」

「ふーん」

一歩、近づく。

「じゃあ聞くけどさ」

「七瀬さんってさ」

視線が横に向く。

「あなたのこと、本当に好きだと思う?」

神谷が返す前に。

七瀬が言った。

「思ってないよ」

即答。

一瞬。

場が固まる。

神谷の方が固まる。

「……おい」

小声。

女子は少しだけ目を細める。

「ほら」

「やっぱり」

七瀬は続ける。

「好きとかじゃない」

「必要だから一緒にいるだけ」

淡々と。

いつも通り。

でも――その言葉は、今日は少し違って聞こえた。

女子は、ゆっくり笑う。

「それってさ」

「便利ってこと?」

「うん」

七瀬は即答。

その瞬間。

神谷の中で、何かが引っかかった。

(……違う)

いつもならスルーできるはずの言葉。

なのに、今日は妙に刺さる。

女子は一歩下がる。

「そっか」

「じゃあ安心した」

「なにが」

七瀬が聞く。

女子は笑う。

「ただの都合いい関係なら」

「奪っても問題ないよね」

空気が凍る。

神谷の表情が変わる。

「は?」

短い声。

女子は神谷を見る。

「だってそうでしょ?」

「“好きじゃない”って言ったじゃん」

「ならいいよね」

一拍。

「私でも」

沈黙。

その言葉は、冗談じゃなかった。

七瀬が初めて、ほんの少しだけ目を細める。

「……へえ」

低い声。

女子は続ける。

「ずっと思ってたんだよね」

「七瀬さんってさ」

「人の気持ち、平気で踏むんだなって」

その瞬間。

空気が変わった。

七瀬が一歩、前に出る。

「それ」

静かに言う。

「誰の話してる?」

女子は笑う。

「あなたの話だよ」

「全部」

一瞬。

七瀬の表情が消える。

神谷が口を開く。

「やめろよ」

短く。

だが遅い。

七瀬は女子を見たまま言う。

「じゃあ一つだけ」

「なに」

「それ」

指先が、わずかに動く。

「私に言う権利ある?」

女子は一瞬黙る。

でも、引かない。

「あるよ」

「だって」

「見ててムカつくから」

その言葉の瞬間。

七瀬の空気が、変わった。

今までの“無関心”でも“合理”でもない。

ほんの少しだけ。

感情が混ざる。

「……ムカつく、ね」

七瀬は小さく繰り返す。

神谷が気づく。

(まずい)

(これ、いつもと違う)

七瀬は続ける。

「じゃあさ」

一歩。

「見なきゃいいじゃん」

女子は笑う。

「無理」

「だって」

「目立つから」

沈黙。

そのときだった。

七瀬が――

「……行くよ」

それだけ言う。

七瀬が遮る。

「これ以上、話す価値ない

その声は冷たい。

でも――

どこか、抑え込んだ熱が混じっていた。

女子が背中に言う。

「逃げるんだ」

七瀬は振り返らない。

ただ一言だけ。

「違う」

歩き出す。

そして

神谷の手を掴んだ。

強く。

いつもより、少しだけ乱暴に。

興奮していた女子はきょとんとして静かになった。

手を引いたまま。

中庭の外へ出る。

しばらく無言。

「……おい」

神谷が言う。

「今の」

七瀬は歩いたまま。

「うるさかったね」

「そういう話じゃない」

少し間。

「……あれ」

七瀬がぽつりと言う。

「ちょっと嫌だった」

神谷は足を止める。

七瀬も止まる。

「珍しいな」

神谷が言う。

七瀬は振り返らない。

でも――

手は離さないまま。

「別に」

「大したことじゃない」

一拍。

「ただ」

小さく続ける。

「ちょっとだけ」

声が、ほんの少しだけ揺れた。

「めんどくさい」

「もっと早く手を繋ぐべきだったね」

神谷はその言葉を聞いて、何も言えなかった。

(ああ)

(今のは)

七瀬が“理屈で処理できない側に入った”瞬間だった。

そして。

その手は、さっきより少しだけ強く握られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ