第二話:与えられたもの
その夜。
「……疲れた……」
神谷 恒一はベッドに倒れ込んだ。
「なんなんだよ、あの状況……」
目を閉じる。
「モテる? 引き寄せる? 無防備?」
思い出すだけで頭が痛い。
「そんなの、知らねえっての……」
そのまま、意識が落ちていく。
――そして。
――過去を思い出す。
野球ボールが当たって気絶したところ見知らぬ空間にいた。
「……ん?」
ざわ、と意識が揺れる。
暗闇の中、声が響く。
『次、あなたの番です』
「……は?」
目の前に並ぶ、奇妙な列。
人のようで、人じゃない影。
「……なんだ、これ」
『抽選を行います』
「抽選?」
『あなたの“生”に付与される要素です』
「いや意味わかんねえって……」
『前へどうぞ』
「いやちょっと待――」
気づけば、前に立っている。
目の前に箱。
『引いてください』
『死を選ぶと死んでしまいます』
「……マジかよ」
半ば呆れながら、手を突っ込む。
「どうせ夢だろ……」
紙を引く。
開く。
「……なんだこれ」
そこには、短く書かれていた。
『モテモテ(特級)』
「は?」
『おめでとうございます』
「いやいやいやいや!」
『当たりです』
「いや何が!?」
『非常に希少な能力です』
「いらないので早く生き返らせてください」
『交換はできません』
「聞いてないよ~!」
『次の方どうぞ』
「ちょっと待ってええええ!!」
――そこで、記憶が途切れる。
その後深い眠りへと落ちていった。
「……っ!」
目を開ける。
白い空間。
「……ここどこだよ」
「ここは“中間領域”」
「は?」
「現実と非現実のあいだ」
「いや意味がわからない」
「でしょうね」
目の前に、女性が立っていた。
「……誰ですか」
「神様」
「帰ります」
「待ちなさい」
「いや無理ですって」
「無理じゃないからここにいるの」
「夢ですよねこれ」
「半分正解、半分不正解」
「めんどくさいな……」
「あなた、最近困ってるでしょ」
「……まあ、それなりに」
「モテすぎて」
「いやそこは否定させてください」
「できません」
「なんでですか」
「だって原因、私だから」
「……は?」
「あなたがモテるの、私のせい 私があなたにスキル:モテモテ(特級)を与えたからです」
「……いやいやいや」
「本当」
「いやいやいやいや」
「しつこいですよ」
「だって意味わかんないじゃないですか!」
「じゃあ説明します」
「してください!」
「その前に一つ確認」
「なんですか」
「覚えてる?」
「……何を」
「“引いたでしょ”」
「……」
「くじ」
「……っ」
さっきの光景が、はっきりと蘇る。
「……あれ……夢じゃ……」
「夢じゃない」
「マジかよ……」
「あなた、自分で引いたの」
「いやあんな説明じゃ拒否できないですよ!?」
「ルールだから」
「クソゲーです!」
「死を引く可能性もあったわけです。そして当たり」
「いらないって言いました。」
「でも引いた」
「……ぐっ」
「で、その結果がこれ」
「“モテモテ(特級)”……」
「そう」
「……最悪だ……」
「最高の間違いでしょ」
「どこがですか!」
「多くの人に好かれる」
「トラブルも増える!」
「正解」
「正解じゃない!」
「だから来たの」
「……は?」
「放置すると壊れるから」
「……やっぱりか」
「人間関係も、自分も」
「……」
「で、選択」
「消すか、使いこなすか」
「……」
神谷は顔を覆う。
「……あの時、引かなきゃ……」
「無理」
「なんでだよ」
「順番来てたから」
「運命かよ……」
「そういうもの」
「……くそ」
しばらく沈黙。
「……使いこなす」
「うん」
「それしかない」
「いいね」
「ただし」
「なに」
「ちゃんと責任持ってください」
「私が?」
「そりゃそうでしょう!?」
「全部は無理」
「神様ですよね!?」
「忙しいの 」あなた一人にかまっていられないのです」
「ほんと何してんだよ神様……」
神様は少しだけ笑う。
「でも、ヒントはあげる」
「ヒント?」
「その能力、“全員に同じ強さで効いてるわけじゃない”」
「……は?」
「個人差がある」
「強く効くやつと、効きにくいやつがいるってことですか?」
「そう」
「……なるほど」
「そこが鍵」
「……」
「観察しなさい」
「……わかったよ」
「じゃ、決まり」
「……はいよ」
「あなたはこれから――」
「“理由を知ってる男”、ですよね」
「そう」
「重すぎるわ……」
「もう十分だっての」
「本番はこれから」
「勘弁してください……」
視界が白く染まる。
「じゃ、またね」
「だから呼び方――!」
目が覚める。
「……朝か」
「……くじ、ね……」
ぽつりと呟く。
「……引いちまったもんは仕方ねえか」
スマホが鳴る。
「あ、神谷くん?」
「……誰ですか」
「ひどっ!」
「……ああ……」
「今日ヒマ?」
「……少しだけなら」
「ほんと!?」
「はい」
通話が切れる。
「……観察」
小さく呟く。
「“効きにくいやつ”を探すか……」
その目は、昨日よりも確実に変わっていた。




