第十八話:デートという名の状況
放課後。
「……なんでこうなった」
神谷は、目の前の光景を見てそう呟いた。
駅前のショッピングモール。
完全に“デートスポット”。
「いいじゃん、たまには」
隣で七瀬が軽く言う。
「“たまに”の定義おかしくないか」
「だって必要でしょ?」
「何に対しての」
「カップルとしての整合性」
さらっと言い切る。
神谷は頭を抱えた。
神谷はため息をついた。
学内での“カップル認定”。
それを利用して――というか、維持して――面倒事を減らすため。
「外でもそれっぽく振る舞った方が自然」
という七瀬の理論により、今に至る。
「……理屈は分かるけどな」
「でしょ?」
「納得はしてない」
七瀬は少しだけ笑う。
「でも来た」
「連れてこられたんだよ」
「拒否はできたよ?」
「……できたけどしなかっただけだ」
七瀬が一瞬だけ視線を逸らす。
「ふーん」
意味ありげな声。
神谷は無視した。
「で、何するんだ」
「普通にデートっぽいこと」
「具体的に」
「買い物して、ご飯食べて、あと適当に」
「ざっくりしすぎだろ」
「臨機応変」
そう言って、七瀬は自然に手を取る。
もう抵抗はない。
というより――慣れてきているのが問題だった。
「……行くよ」
「はいはい」
歩き出す。
周囲の視線。
すれ違うカップル。
その中に、違和感なく紛れている自分たち。
(これ、外から見たら完全にそうだな)
そんなことを考えながら、店内に入る。
――アパレルショップ。
「……なんで服屋」
「デートっぽいでしょ」
「まあ……分からなくもない」
七瀬はハンガーを手に取り、神谷を見る。
「これ、どう思う?」
「急に評価求めるな」
「彼氏役でしょ」
「役か……」
神谷は服を見る。
シンプルなワンピース。
「似合うと思うけど」
「雑」
「本音だよ」
七瀬は少しだけ黙って――
「じゃあ試着してくる」
カーテンの向こうへ消える。
数分後。
「どう?」
出てきた七瀬を見て――
神谷は一瞬、言葉を失った。
「……」
「何その反応」
「いや……」
普通に似合っている。
というか――
想像以上だった。
「……いいんじゃないか」
「さっきより間があったね」
「うるさい」
七瀬が小さく笑う。
そのままレジへ。
「買うのかよ」
「せっかくだし」
「そういうもんか」
店を出る。
――フードコート。
トレーを持って席に着く。
向かい合う。
「ここはリアルすぎないか」
「学生っぽくていいじゃん」
「まあ、それはそう」
食事を置く。
そのとき。
七瀬が財布を出そうとする。
が――
「いい」
神谷が先に言った。
「……え?」
「今日は俺が出す」
七瀬の手が止まる。
「なんで?」
「約束あっただろ」
少しだけ目を逸らす。
「ジュースの件 結構な本数になってる」
七瀬は一瞬だけ考えて――
「……あー」
思い出した顔。
「律儀だね」
「別に普通だ」
少しの沈黙。
七瀬は財布をしまった。
「じゃあお言葉に甘える」
「どうぞ」
軽いやり取り。
でも――
どこか空気が変わる。
食事を始める。
数分後。
七瀬がぽつり
「……ねぇ」
「……嫌?」
神谷は一瞬だけ考えて――
「……嫌ではない」
正直に言う。
七瀬の視線が少しだけ揺れる。
「へえ」
「何だよ」
「いや、なんか」
少しだけ笑う。
「ちゃんと彼氏っぽいことするじゃん」
「“っぽい”な」
「ご飯奢るのはポイント高いよ?」
「評価制度あるのかよ」
「あるある」
冗談っぽく言いながらも――
どこか嬉しそう。
神谷はそれに気づかないふりをした。
――映画館
手を繋ぐ流れも自然に。
――帰り道。
夕焼け。
「……デートだな」
神谷が呟く。
「今さら?」
七瀬が笑う。
「最初からそうだよ」
「建前じゃなかったのか」
「半分はね」
「残りは?」
七瀬は少しだけ歩みを緩める。
そして。
「ごちそうさま」
さっきの食事に対して。
今さらのタイミングで言う。
「……おう」
神谷は短く返す。
七瀬が少しだけ笑う。
「また奢ってくれてもいいよ?」
「調子に乗るな」
「冗談」
でも――
手は、少しだけ強く握られる。
「じゃあしばらくは」
「……」
「彼氏役、続行ね」
その言い方は軽い。
でも意味は、前より少しだけ重くなっていた。
神谷はそれに何も返さず、
ただ――
手を離さなかった。




