第十七話:想定外の告白
数日が過ぎた。
昼休み。
中庭は、いつもより少し騒がしかった。
理由は簡単だ。
「ほら、あそこ」
「また一緒にいる」
「完全にカップルじゃん」
視線の先――
神谷と七瀬。
ベンチに並んで座り、自然に会話している。
距離が近い。
近すぎる。
「……なんか、もう完全にカップル扱いされてるな」
神谷が小さく呟く。
「何が?」
「いや、周りの認識」
七瀬は一瞬だけ黙る。
それから、肩をすくめた。
「別にいいんじゃない?」
「よくないだろ」
「なんで?」
「いや……」
言葉が詰まる。
七瀬は少しだけ笑った。
「少なくとも、今の状況だと“そう見える”のは事実でしょ」
「……否定できないのが腹立つ」
その時だった。
「神谷」
声。
低く、真っ直ぐな。
振り向く。
立っていたのは――見覚えのある男。
同じ学部の、少し目立つタイプのやつだ。
名前は――確か、橘。
「……何?」
神谷が立ち上がる。
橘は一歩近づいた。
周囲がざわつく。
「ちょっといいか」
「ここでいいだろ」
「いや、二人で話したい」
空気が、変わる。
七瀬が、ほんの少しだけ眉を動かした。
「……別にいいけど」
神谷は軽く息を吐いて、橘と少し離れた場所へ移動する。
数メートル。
でも、その距離で十分だった。
視線は全部、そこに集まる。
沈黙。
数秒。
先に口を開いたのは橘だった。
「単刀直入に言う」
「うん」
「俺、お前のこと好きだ」
――止まる。
時間が。
風が。
音が。
全部、一瞬だけ止まった気がした。
「……は?」
神谷は、素で聞き返した。
橘は目を逸らさない。
「前から見てた。距離感とか、態度とか……正直、気になってた」
「いや待て」
「でも最近、七瀬といるの見て――焦った」
神谷の思考が、完全に追いついていない。
「だから、はっきりさせたくて来た」
橘は一歩踏み込む。
「付き合ってほしい」
ざわ――
遠くからでも分かる。
空気が揺れている。
「……いや」
神谷は額を押さえた。
「ちょっと待て、情報量」
「答え、聞かせてくれ」
即答は、できなかった。
というより――
する必要もなかった。
「断る」
一拍も置かずに、そう言った。
橘の目がわずかに揺れる。
「理由、聞いていいか」
「そういう対象じゃない」
それだけだった。
飾らない、事実。
橘は数秒黙って――
「……そっか」
小さく息を吐いた。
「悪かった、急に」
「いや、それはいい」
「あと」
橘は一度だけ、七瀬の方を見る。
「七瀬と、ちゃんとやれよ」
「……何を」
「見てれば分かる」
それだけ言って、背を向けた。
去っていく。
ざわめきが戻る。
神谷はその場に少しだけ立ち尽くして――
「……なんなんだよ」
小さく呟いた。
ベンチに戻る。
七瀬が、じっと見ていた。
「……告白?」
「聞こえてたのかよ」
「まあね」
七瀬は、少しだけ目を細める。
「モテモテじゃん」
「嬉しくないタイプのやつだな」
「断ったんだ」
「即答でな モテモテが男にも効果があるとは…」
沈黙。
一瞬。
それから――
七瀬が、笑った。
「そっか モテる男は大変だね」
「……笑い事じゃないよ」
しばらくすると笑いが収まった。
「……なんだよ」
「別に」
軽い声。
でも――
どこか、ほんの少しだけ。
「……よかった」
「……女性に興味がないっていうことではなかったんだね」
その呟きは、風に紛れてほとんど聞こえなかった。
「何か言った?」
「何も」
七瀬は立ち上がる。
「行こ」
「どこに」
「講義」
そう言って――
自然に手を伸ばす。
神谷の手へ。
「……またかよ」
「必要でしょ?」
周囲の視線。
さっきの流れ。
完全に、確定している。
「……まあ、否定できない状況ではある」
神谷はため息をつきながら、その手を取った。
ざわめきが、さらに大きくなる。
「見た!?今!」
「完全に恋人じゃん!」
「さっきの告白、負け確じゃん……」
そんな声を背に受けながら――
二人は歩く。
自然に。
当たり前のように。
手を繋いで。
七瀬が、少しだけだけど――
強く握ったのを、神谷は気づかなかった。




