第十六話:認定済み
「――なぁ」
講義終わり。
神谷が席を立った瞬間、声をかけられる。
「最近さ」
振り向くと、同じ学部の男子。
名前は……確か佐伯。
「お前ら、付き合ってんの?」
「……は?」
一拍遅れて、理解する。
「違う」
即答。
だが。
「いやいやいや」
佐伯はニヤニヤしている。
「ずっと一緒にいるじゃん」
「それは――」
言いかけて、止まる。
説明できない。
「しかもさ」
佐伯は少し声を落とす。
「講義中、手繋いでるよな?」
「……」
見られていた。
「いやー大胆だねえ」
「違うって」
「何が?」
詰む。
その時。
「何の話?」
七瀬が後ろから入ってくる。
タイミングが良すぎる。
佐伯はニヤッと笑う。
「いや、ちょうどいいとこに」
「うん?」
「二人って付き合ってんの?」
七瀬は一瞬だけきょとんとして――
「うん」
即答。
「は?」
神谷の声が裏返る。
「はやっ」
佐伯が爆笑する。
「いや認めるんかい!」
「楽でしょ」
七瀬は平然としている。
「は!?」
神谷が振り向く。
「何言ってんだ」
「だってそのほうが説明いらないし」
「いやいるだろ!」
「いらないいらない」
七瀬は軽く手を振る。
「ほら」
そのまま、自然に神谷の手を取る。
――すっ
周囲の空気が落ち着く。
「……!」
神谷は一瞬黙る。
「ね?」
七瀬が小さく言う。
「必要でしょ?」
小声。
現実的な理由。
「……」
反論できない。
佐伯はそれを見て、さらにニヤける。
「いやーいいねえ」
「違うからな」
「どこがだよ」
完全に信じていない。
「ほら見てみろよ」
周りを指す。
女子たちが、こっちを見て――
「え、やっぱ付き合ってるんだ」
「なんかそんな気してた」
「お似合いじゃん」
ざわざわ。
(……終わった)
神谷は天井を見た。
七瀬は気にしていない。
むしろ少しだけ楽しそう。
「ねえ」
小声で。
「これで楽になったでしょ」
「どこがだよ」
「“なんで一緒にいるの?”って聞かれない」
「別の意味で聞かれてるだろ」
「まあ細かいことはいいの」
雑。
――廊下。
移動中。
「……ちょっと」
「なに」
「なんで肯定したんだよ」
「効率」
即答。
「あと」
少しだけ間。
「面白い」
「やっぱりな」
神谷はため息をつく。
その時。
前から女子二人組。
「ねえ神谷くん」
「さっきの課題なんだけど――」
声をかけられる。
だが。
その途中で。
「……あ」
視線が、手元に行く。
七瀬と繋がれた手。
一瞬の沈黙。
「……ごめん、また今度でいい?」
「え?」
「お邪魔っぽいし」
そのまま去っていく。
「……」
神谷はぽつりと。
「……楽になってる」
「でしょ?」
七瀬が勝ち誇った顔をする。
「完全にバリアだね」
「言い方」
でも――
確かに。
“直接来る数”は減っている。
「……副作用強すぎるけどな」
「彼女扱いが?」
「そこだよ」
七瀬は少し考えて。
「じゃあやめる?」
「……」
一瞬、迷う。
その間に。
遠くで、また視線が集まり始める。
(……ああもう)
神谷は小さく息を吐いた。
「……いや」
「うん?」
「そのままでいい」
七瀬が少しだけ目を細める。
「へえ」
「必要だからだ」
「はいはい」
ニヤッと笑う。
「理由付け、大事だもんね」
「うるさい」
少しだけ沈黙。
歩く。
手は、繋がったまま。
七瀬がぽつりと。
「ねえ」
「……」
「“疑似”ってことでいいよね」
「何が」
「カップル」
神谷は少しだけ考えて。
「……契約」
「夢ないなー」
「現実だ」
七瀬はくすっと笑う。
「まあいいや」
少しだけ、手に力を込める。
「じゃあしばらくは」
「……」
「彼女、やっとくね」
軽い声。
神谷は感謝する。
「でも――ありがとう」




