第十三話:対象外という概念が、壊れる日
翌日。
――昼。
ベンチに座る。深く息を吐く。
その時。
「――ねえ!」
高い声。
振り向く。
小さな影が走ってくる。
(……は?)
止まったのは――
小学生高学年くらいの女の子。
私服。
ランドセルはないが、明らかに年齢が違う。
「お兄ちゃん!」
距離が近い。
近すぎる。
「……何?」
神谷は警戒する。
女の子は満面の笑み。
「見つけた!」
「……何を」
「昨日の人!」
「ずっと探してたの!」
屈託のない声。
「それでね!」
一歩、近づく。
「また会えた!」
純粋な喜び。
混じり気ゼロ。
「帰れ」
神谷は短く言う。
「えー」
さらに距離を詰める。
神谷は一歩引く。
「近い」
「え?」
「近いって」
「……?」
理解していない顔。
いつもの“女たち”と違う。
計算も、欲もない。
ただ――
「ねえ名前なんていうの?」
興味だけ。
「……」
神谷は黙る。
女の子は少しだけ口を尖らせる。
「教えてよー」
「帰れ」
少し強く言う。
一瞬、揺れる。
でも――
「やだ」
戻る。
(……止まらない)
「なんでそんな嫌がるの?」
「……」
答えられない。
女の子は首をかしげる。
「好きだからいいじゃん」
軽い一言。
でも重い。
神谷の思考が止まる。
(……違う)
これは――違う。
「それ、違うから」
「え?」
「勘違いだ」
「勘違いじゃないよ?」
まっすぐ。
疑いゼロ。
「好きだもん」
(……やめろ)
その時。
「ちょっと」
聞き慣れた声。
振り向く。
七瀬が立っていた。
「……何してんの?」
状況を見て、数秒で理解する。
「……あー」
ため息。
「“年齢無差別”か」
「……」
「犯罪臭がする」
神谷は何も言わない。
七瀬はしゃがんで女の子と目線を合わせる。
「ね、近くにお母さんいるんだよね?」
「うん!」
「じゃあ一回そっち行こっか」
優しく言う。
「やだ」
即答。
「このお兄ちゃんと話す」
七瀬の眉がぴくっと動く。
「……ガチだこれ」
小さく呟く。
立ち上がる。
神谷を見る。
「ねえ」
「……」
「これ、“普通の男子なら喜ぶやつ”?」
昨日と同じ言葉。
でも意味は違う。
神谷は小さく息を吐いた。
「……喜ぶかよ」
七瀬は一瞬だけ黙って、
「だよね」
と、静かに言った。
その目は――昨日より現実を見ていた。




